一方的な再会

『あ、あのっ……』

「はい。」

『助けてくれて……ありがとうございました。』


 その礼に、ラヴェイラは振り向かず淡々と答えた。


「助けてくれて……ですか。私はあなたを助けたつもりはありません。自分の興味本意とゼスタート様の命にて、あなたを連れ帰っただけのことなので。あなたがこうやって生きているような形になってしまっているのはレブキーの計算外によるもの。……あるいは、あなたの異常なまでの"死にたくない"という強い思いのおかげでしょう。もし、後者が正しいのであれば不可思議な奇跡です。とても"奇跡"という言葉だけでは納得できません。ですが……もしかすると、あなたにとってはあの場で、地球人で死んだ方が良かったかもしれませんが。」


『まだ実感はありませんが……僕が人として生きていたとき、こんなことが起きていたなんて知らなかったんです。ニュースにもなっていませんでした。怪人が交渉しようとしていただけなのに……秘密裏に殺されていたなんて……。』

「……」

『……すごく責任を感じたんです、自分の事じゃないのに。レブキーさんが仲間を消されたって言った時。自分にそれは関係ないことだったのは分かるんですけど……僕みたいな弱いやつに何ができるかわからないけど、やるだけやってみようと思います。』

「……そう、ですか。」


 2人で歩いていると、ちょくちょく同じような身体、顔のやつらがビシッと敬礼のようなことをしている。


『あの、』

「はい。もう到着しますが。」

『いえ、あのさっきから敬礼みたいなことをしているのって……』

「彼らはジャリアー。この船の兵士です。兵士以外のジャリアーもいますが、ジャリアーは主に戦闘兵が多くの数を占めます。」

『彼らはデベルクっていうやつじゃないんですか?』

「違います。彼らは創作コストがデベルクに比べて少ないので量産できます。ですが弱い上に……いや、弱い為に"命名の儀"を行なっていません。そのため、あなたと違って意思もありません。ただ命令に忠実なだけです。理解できないのであれば、こう言いましょうか。デベルクは生き物ですが、ジャリアーは道具です。」


 ラヴェイラは淡々と話しながらカードキーを入れて目の前のスクリーンパネルをタッチしていく。


 デベルクは生き物で、ジャリアーは道具。

 僕は怪人……デベルクになった。

 そして、さっきいた怪人も、この怪人もデベルク。


 そういえば、レブキーさんはさっき……

『我々"ヒトケタ"はこのお方……ゼスタート様に創られた。』

 って言ってたな……

 我々っていうことはあの怪人達以外にもまだいるってこと……?

 他のデベルク達よりも……やっぱり強いのかな……?


『えっと……質問いい、ですか?』

「はい。」

『"ヒトケタ"って、一体……』

「"ヒトケタ"はゼスタート様が初めにお創りになった9体のデベルクのことです。」

『ということは、レブキーさんも、ヴァルハーレって呼ばれていた方も、リザードマンみたいな方、それに……あなたも、"ヒトケタ"なんですか?』

「……リザードマン、という言葉は分かりませんが……その通りです。」


 あ、リザードマン……知らないのか。

 この怪人(ひと)が見てきた惑星にはいなかったのかな?それとも……他に呼び方があるのかな……?


『やっぱり、強いんですか?』

「レブキーが創る、あなたと同じようなデベルクよりも遥かに強いと思います。一人一人が1つの星を滅ぼす事ができるほどの力を持っています。」

『だったら、あなた達"ヒトケタ"が初めから地球に行けばいいんじゃないですか?』

「私達の目的は地球を滅ぼす事ではなはありません。地球人を滅亡あるいは降伏させ、私達が地球を支配かつ永住することです。共に住むことができない以上、地球人という邪魔物だけは消えてもらいます。確かに"ヒトケタ"が全員で出れば1日とかからずに地球人を滅ぼせるでしょうが、その場合、地球人以外の多くを壊してしまいます。地球人はともかく、地球自体に影響や被害は出来るだけ与えたくはありませんので。」

『ヒトケタには、他にどんな方が?』

「いずれ会えるかもしれませんよ……あなたが無事、生きて帰って来た場合の話ですが。」


 そうだ。僕は生きて帰って来れないかもしれない。レブキーさんも言っていた。仲間や僕を殺したあのバケモノ……デベルクは地球にいた人達にやられたんだと。


 僕も、同じように……


 ゾクッと身体に悪寒が走った。


 ダメだ。そんなことを考えると、嫌なイメージしか頭に浮かんでこない。


「やはり、やめますか。」


 身体が震えていたのを見てか、そう声をかけられた。


『いや、行きます……!い、行くって……決めましたからっ……。』

「分かりました。では……お乗りください。」


 ウィーンと目の前ドアが開けた。


『スゥーッ……フゥー……』


 深呼吸をして、中に入った。


「健闘を祈ります。」

『死なないよう…努力します…』


 プシューと音がして扉が閉まった。


「無事帰って来た時は……色々と教育も必要、ですね。私達に、死ぬという概念はない。自分という存在がただ消えるだけというのに……彼もまた、いずれ身をもって体感することになるでしょう。」


 そう言って、ラヴェイラは地球を見据えていた。



 ♢♢♢



『っと……着いたのか?ここは……』


 まさか、あの宇宙船からここまで一瞬で来たのか。

 だが、


「おい、あんた避けろ!」


 転送先の場所が悪すぎる。

 どうなってるんだ。


 プィィーーーーー

 と四方からクラクションが鳴り、僕は車に囲まれていた。

 そりゃあ、交差点のど真ん中に突っ立っていればそうなる。


「こらあ!邪魔だ!」

かれてえのか!?」


 はぁ……

 ため息を漏らして頭をかいた。

 やれやれって気分だ。


『すいません。すぐに避けます。』


 すぐさま早足で歩道まで戻った。


 それにしても、道行く人達の視線が痛い。

 確かに、こんな鎧を全身に着た人間なかなかいないよな。

 コスプレの範疇はんちゅうに収まるのか…これ?


「ちょっと、君。」


 ガシッと手首を掴まれた。

 一体なんだと振り返ってみると、


「少しいいかな。」


 警察がいた。


『あの……』

「君。なぜ、あんな道路の真ん中にいたのかな。」

『それは……その……』

「それにその格好は」

『いえ、あの、これは……コスプレ……です……。』

「……。」

『……。』


 ……空気が重い……


「……ま、まあ、それはともかく。なぜあんなところにいたのか。話だけでもを聞かせてもらうから。」

『えっ、なんで……』


 警官はぐいっと引っ張ってきた。


『ちょっ……!』

「はいはい、話は交番で聞くから。」


 警官は何度もぐいぐい引っ張るが、僕は1ミリも動かない。

 決して僕が踏ん張っているわけではない。

 むしろなんで僕が微動だにしないのかが不思議なくらいである。


「なんだ……こいつ……おい、いい加減に……!」

『やめてください!』


 そう言って警官の手を振りほどこうとしたら、

 警官が吹っ飛んだ。


『え……』


 がしゃあああああん!!!


 とガラスの割れた音と共に、警官は近くのビルまで飛んでいった。

 その警官は一向にこちらに姿を見せてこない。


(嘘だろ……やばい……!)


 だが、時すでに遅く


「きゃあああああ!!」

「うわあああああああ!」


 ここはパニックになっていた。


(最悪だっ……!)


 なんとかこのパニックに乗じてどこかに逃げないと。

 僕はただ偉い人に会って、自分がこうなってしまったことと、あの宇宙船にいる怪人達のことを話したいだけなんだ!


 もう、人と怪人で戦い合わないように。

 もう二度と、死んでしまう人がでないように!


 どうする!?国会議事堂に行くべきか!?それとも、皇居へ行くか!?


 立ち止まって考えている場合ではないと、走り出した。


「動くな!!」


 誰に言っているのかわからないけど、立ち止まってあげるほど余裕はない!

 とにかく走らないと……


「止まれ!」


 ピュンという音と共に、僕の頰をなにかが掠めた


 この声……依桜ちゃん……!


 ふと、そう思って後ろを振り返った。


『う、そ……だろ……。』


 なんで……


 目を疑った。


 目の前に5人の男女がいた。

 そして、その中の一人が。僕にとって今一番会いたくて、会いたくなかった人がいた。


 返事を聞きたい、あの人がいた。


『い……依桜……ちゃん……。』



「……ガーディアンズだ。大人しくやられてもらうぜ。化け物!」



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