怪人として...
『宇宙海賊…ですか?』
「とは言いますが…宇宙海賊としてしか、この宇宙全体をを生きていく
"宇宙海賊"… 地球で生きている限り、アニメやマンガ、映画や小説くらいでしか聞かないであろうパワーワードがでてきた…
このバケモノ達、とんでもない集団だった…!
「ゼスタート様は遠い、遠いとある荒廃したある星でたった一人、孤独の中を生きていたにもかかわらず、ゼスタート様は前を向いておられた!ある時、我々"ヒトケタ"はこのお方…ゼスタート様に創られた!しかし、生活をしようにも、荒廃した星では得られるモノは何もない。そして、ゼスタート様は決意し、ワタシ達に言ってくれました。『共に遠い星へ移住しよう』と!『豊かな星へ移住しよう』と!我々は様々な星で材料を得て、この宇宙船を造り上げたのデス…。」
僕は思わず息を飲んで聞いていた。
先程までのパニックや、逃げることどうのこうのを忘れてしまうくらいに。
そして、レブキーというバケモノだけかどうかは知らないが、少なくとも彼はゼスタート…あのメカメカしい骸骨の様な顔と大きいロボットの様な上半身を持ち、下半身はこの宇宙船と合体していた。その姿はまるで、鞘に収まった剣の様だった。このバケモノの中のバケモノにここにいるバケモノ皆が心酔している。まるで、悪い宗教にどっぷりと浸かった人間の様だった。見ているこっちが恐怖を覚えるくらいに。
「そして、ワタシ達はあの地球にたどり着くことに成功しました。地球に住みたかったワタシ達は、地球に住めるかどうか交渉をしに赴いたが…地球人達はワタシ達に武器を構えて一方的に攻撃してきました。何度訪れても、一方的に攻撃される日々!どれだけ傷を負ったものがいたか!どれだけ滅んだ者がいたか!」
レブキー の語調が強くなっていく。
「ワタシ達はただ…!地球に住みたかっただけなのに…!!」
違う。悪い宗教の偽りの繋がりなんかじゃない。この人達は、まるで家族のような、同じ思いをずっと共有してきた、本物のどんなことがあっても切れない本物の"つながり"だ...
レブキーのその思いは…きっと本物だと思う。例え、その思いがゼスタートの為であったとしても、彼なりに本気で願っていたのだろう。
「生き残ったワタシ達は…とうとう武器を取り、戦うことを決めました。共に手を取り合えるならと願っていた地球人と、敵対することを決めました。間違った選択肢かもしれませんネ。だが、何も出来ずに滅ぶ同胞を見るのはもう我慢の限界でした。」
そしてレブキーは、僕に頭を下げた。
「おい、レブキー …!」
「アナタを殺したのは、我々の同胞デス。地球人は敵だと、同胞の仇だと…彼は考えていました。我々もそう言っていたのデス。彼はその時、やらなきゃ、自分がやられると考えたのでしょうネ。だから、彼は君を撃ったのデス。ゴメンナサイ…!罪のない君を…殺してしまいました…!」
なぜ、レブキーが頭を下げるのだろう?
『あの、僕を撃った怪人は…』
怖かったけど、思い切って聞いてみることにした。
レブキーは頭を下げたまま続けた。
「もう、消えたデス…地球人の手によって!!!」
自分の心に何か重いものがズシリとのしかかる気がした。
『そう、ですか…』
「…」
『もう、頭を上げて…ください…』
ゆっくりとレブキーは頭を上げた。
それを見て、僕は一番聞きたいことを尋ねた。
『なんで僕は、今生きているんですか。』
「アナタの死体をメイン…主な素材として、新しい怪人(デベルク)…つまり君を創ったのデス。…その結果、なぜか君は地球人だった頃の記憶を取り戻し、今に至るというわけデス。…原因はわかっていません…何しろ、地球人を使ったデベルクなんて、初めて創ったデスから…」
『そうですか…じゃあ今の僕は、あなた達と同じ…バケモノってことですか…』
僕は、バケモノとして転生したわけではなく、あくまでもバケモノが僕の記憶と自我を持ってしまった…ということなのか…はたまたその両方かもしれないっていうことなのかな…?
窓に反射する自分の姿を見る。
なるほど、こんな状況でどうかとは思うが『カッコいい』と思った。
アニメやゲームが好きだったから、白と青を基調としたこの鎧のデザインはすごく好みだ。無駄がなく洗練され、顔の額…というか兜の額にはツノが一本あり、自分の目の部分からは藍色の瞳が覗いていた。
左肩には、31の数字が見える。
自分の震える手を見た。
籠手の様…というか、籠手か。自分の手をギュッと握る。
感触がある。
目を閉じると、心臓の音が聞こえる。
僕は生きている。生きてしまったという表現の方が正しいだろう。本来なら死ぬはずだった自分は、未練がましくもこの世に魂を留めようと、生きようとしたのだろう。バケモノになってまで。
今まで運命なんてものを信じたことはなかったが、こんなことが起きてしまうと、嫌でも信じてみようってなる。
深呼吸をする。
浮かんできたのは、父さん、母さん、そして、依桜ちゃん。
僕はもう、この状況から逃げることをやめた。
この怪人達から逃げることやめた。
やめることを決断した。
『あの、地球には…僕のいたところに…戻れないですか?』
「なぜ、その様なことを?」
『僕だったら…人間だった僕なら…何か出来るかもしれない…』
僕の一言で、周囲の空気がピリッとした。
ゴクリと息を飲み、僕はこの身体じゃ汗はかかないはずなのに、冷や汗がドッと吹き出しているように感じた。
「しかしデスネ…」
「いいではないか。」
この緊迫した状況で、口を開いたのはヴァルハーレと呼ばれていた吸血鬼の様な男だった。
「何を考えているのデス…ヴァルハーレ。」
「ワシも反対じゃ。」
レブキーとリザードマンの様な風貌をしたバケモノは即座に反対した。
「いいではないか。当の本人がこうして行きたいと言っているのだ。反対せずに此奴に『行ってこい』と言ってやる方が正しいと思うが?」
「アナタは---」
「ゼスタート様、よろしいですか?」
『ああ、構わない。』
「「っ!」」
「ラヴェイラ。」
「はい。では、こちらに。」
ラヴェイラと呼ばれた人は白スーツを身にまとい、耳の尖った女の人は僕に近づいて、着いてくるよう指示した。
この人…なんか既視感があると思ったら…エルフにすごく似ている。マンガやアニメ、小説に出てくるような。
思わず見惚れてしまうぐらい、その人が美しいと感じた。
異世界に転生したり、転移した人がエルフに見惚れてしまう理由も今なら分かる気がする…
「どうかしましたか?」
彼女の翡翠の瞳に見惚れていると、ラヴェイラが声をかけてきた。
そ、そんなに見てたかな…?
『いっ、いえ。レブキー…さん。あの、ありがとう…ございました…。』
「別に助けたつもりはありませんヨ。これはあくまでも計算外ですからネ。それでも礼を言いたいのなら、ラヴェイラに言いなさい。彼女が君をここに連れてきたのデスから。」
『わ、分かりました。失礼します。』
一礼をしてから、僕はこの部屋を出た。
そして早足でラヴェイラさんに着いて行った。
僕は立ち向かう、待ち受けるものに。
僕が、この怪人達を救ってあげたい。
待ってて、依桜ちゃん。
もうすぐ、君に会える。
その時は、あの時の返事を聞かせて。
♢♢♢
「フッ…随分と立派な演技と弁舌だったじゃないか。あの全てがお前の本音じゃあるまい。」
「…ワタシは嘘を言った覚えはありませんヨ。それより、何のつもりデス?地球人の頃の記憶しか無い彼を…ましてや、彼はまだ"命名の儀"を完全に終えていないそんな彼をなぜ行かせたのデス!?」
「その通りじゃ。今の奴がまともに地球人と戦えるとは思えんぞ…」
「フフフ…貴様ら…随分と甘いんじゃあないか?」
「何を…?」
「...」
「あのデベルクは記憶どこかか、精神…心までも地球人に染まりきっている。それは仕方のないことだ…元々は地球人だったのだからな。故に、奴の考えていることは全てただの甘い幻想でしかない。自分なら何かできるかも、だと…?笑わせる。奴は自分が化け物であるに関わらず、今も変わらず地球人と仲良く出来ると考えている。
傑作だと思わないか?生きとし生けるものは皆、自分と全く姿の異なる生き物を目にした時、目の前の自分と違う生き物を排除しようと動くと思うがな。仮に地球人共があのNo.31を弱者と判断した時、地球人は奴を消すか…いや、地球人ならそれなりに考えることもできるからな…場合によっては、もっと面白いことをやるか?それによって俺達が面倒なことにならなければいいが。これから先、そうならないためにも、奴には痛いほど理解してもらわねば困るのだよ。自分がデベルクであること、地球人は皆…敵であるということを、な…!フフフフフ!!」
ヴァルハーレの笑い声だけが、この部屋に響き渡っていた。
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