No.31、誕生

 


  … …



 ………



  … …



 ………







 トクン……トクン……トクン……





 トクン、トクン、トクン、





 ドクン……!



「ほう……ようやく目を覚ましたカ?カッカッカッカ!早速、あの方に報告しなければ……!」


 バタバタと誰かがここから出ていった。



 ♢♢♢



「ゼスタート様っ、ゼスタート様!」

『レブキーか。』

「……なんじゃ、一体……」

「全く……なんなんだ。」


 レブキーと呼ばれた怪人は、目に装着していたゴーグルを上げてこの場にいる者達に向き直った。


「ラヴェイラはともかく……ヴァルハーレにゲンブ。なぜ、アナタ達がここにいるのデス?」

「私達も用があってここにいる。あいつらと一緒にするな。」

「そういうことじゃ」

「ふっ、まあいいデス。ゼスタート様!あれが、完成致しました。なんだったら、今すぐにでも。」

『ほう。』

「なんと……」

「出来たのか……?」


 表情を変えることなく感心したような声を上げたゼスタートに対し、ゲンブとヴァルハーレは驚いているようだった。ラヴェイラも顔には出ていなかったものの、かなり驚いているようであった。


「……本当に出来たの?"地球人"を使った、怪人(デベルク)を創り出すことが……」


 一拍おいてラヴェイラが聞くと、レブキーは口元をにやりと緩めた。


「ふふ、我ながらいい出来デス。……まあ……多少、計算が狂いましたが……他の素材を使って直したから問題ありませんネ。」

『流石だな、レブキー。』

「勿体ないお言葉デス……!ゼスタート様……!!」

『さて、では早速見せてもらおうか。』

「はい。では……」


 そう言ってレブキーは奥にあるにあるリフトに近づくと、端末を起動した。

 すると目の前にタブレット端末のスクリーンの様なものがレブキーの前に現れた。慣れた手つきでレブキーは宙にあるスクリーンをタッチしていく。

 やがてリフトはごうんという音を立てて起動した。

 すると数秒と経たずに瞬時に何かが上がってきた。


「ご覧になってください……これが、地球人をメインにして創り上げた……No.31でございます!!」


 レブキーがそう言うと、リフトの扉が開いた。

 リフトの中から出てきたのは青と白を基調にした動く鎧だった。


『ほう。』

「また、お前さんは変なものを……」

「なにを言うゲンブ!これは、地球で昔、戦争が勃発していた時に活躍した"騎士"と呼ばれる地球人の戦士が身を守る為に使用していた"ヨロイ"というものデス!それをワタシがアレンジして、創り上げた秀逸かつこの美しいデザインに対して……変なものとは一体なんデスか!」

「確か前回の着想は銃とかいうものじゃったか。」

「ソウ!デスガ、ただの銃ではありません!"マスケット銃"と呼ばれる……」

「もういいわい。所詮、地球人の作ったものじゃて。」

「ワタシからしてみれば、なぜアナタが地球の生物、発明品、武具そして、それら全ての存在を、生み出した地球に惹かれないかの方が疑問デスネ……!」

「やめろお前達、ゼスタート様の前だぞ!」


 すると、ヨロイが動き始め右膝をついて、頭を下げた。


『お初にお目にかかります、我が主君。今日より、この我が身をあなた様に捧げる所存にございます。』


『なかなか躾が行き届いている様じゃないか、レブキー。』

「いえ……カッカッカ、カッカ……」


 空笑いをしているレブキーだったが、それを気にせずに、ゼスタートは手をヨロイの頭に置いた。すると、黒色の波動をその手に纏い。言葉を続けた。


『……これより、お前の名は『フェルゴール』だ。今日よりお前は『フェルゴール』と、そう名乗るがよい。そして、我に忠誠を誓うのだ。我に従い、我に尽くすがよい。』

『はっ。かしこまり……』


 徐々に黒色の波動がヨロイに浸透していく。

 その途端


 ピキイイイイ!


 と、頭に強い衝撃を受けた。

 激しい頭痛が襲い、頭が焼ける様に痛い


『ぐ……ああああああああああああああああ!!!』


 ヨロイは、急に叫び声をあげてバタンと倒れた。


「こりゃあ……一体……」

「レブキー、キサマどういうことだ……!」

「わ、分からないデス!こんなことに、なるなんて……!」

「レブキー、早くなんとかしてください!」

「そんなことを、言われても……」

『あ、ああああああああ!!!』

「ワタシの設計、計算、素材、開発…全てにおいてNo.31に狂いはないはずデス!一体何が……!?やはり人間を、使ったのが……」


 ブツブツと言いながら頭を抱えて独り言つレブキーを尻目に、ゼスタート以外の三人が息を飲んで見ていた。


 こんな事は初めてだった。


 レブキーはこれまで、No.10〜No.30まで怪人(デベルク)を創ってきたが、ゼスタートに名を与えられて倒れ、叫ぶ例はなかった。

 ゼスタートの"命名の儀"は怪人(デベルク)に自我を確立させる役割を持つ。

 その自我を確立させる際、名と彼の持つ黒色のエネルギーの一部である"グラッヂ"を分け与える。

 与えられた名とグラッヂが結び付くことで、初めて怪人(デベルク)に自我が確立するのだ。

 自我が確立したその時、怪人(デベルク)は知識を持ち、意思が芽生える。

 だが、この怪人(デベルク)は儀を終えた後に苦しみだした。

 この叫び声は地球人を使った故か。はたまた、ただの失敗作だったのか。


 やはり人間を使用した怪人(デベルク)はできないのだと思ったその時、叫び声が止んだ。そしてヨロイはむくりと立ち上がり、キョロキョロと周りを見渡してこう言った。


『ここは……どこだ……?僕……銃で撃たれて死ん……で……』



 ♢♢♢



 死んだ……そう思う間も無く、僕は死んだはずだった。

 依桜ちゃんを庇ってーー

 そのはずなのに、どうして僕はここにいる?どうして僕は生きている?


『ここは……どこだ……?僕……銃で撃たれて死ん……で……』


 その後に何があったか全く分からない。

 ただ、ズキズキと頭が痛む。今も油断したらすぐにでも倒れてしまいそうだ。

 くるりと後ろを振り返って見た。

 そこに広がっていたのは……無限の宇宙

 数え切れないほどの数多の星々と青く輝く地球だった。


『ここ……宇宙……なのか……?』


 じゃあここ宇宙船とか、ロケットとかの中か!?

 ますますわからなくなり、周囲を見渡す。


『一体……何がどうなって……ん?』


 あれ……?さっきから、どうも自分の声が変だ。なぜか声に若干エコーがかかっている気がする。

 気のせいか……?

 顎に手を当てて考えながらくるりと後ろを振り返った。

 そこには自分を撃ったあのバケモノとは違うバケモノがいた。


『うわああああああ!!ばっ、バケモノ……!』


 思わずその場にへたり込み、後ずさりしてしまった。

 身体が恐怖で震える。


「レブキー、一体どう言うことだ。」


 肌が不気味なほどに青白く、口から鋭い二本の犬歯が垣間見え、突き刺すような鋭い目つきを持った吸血鬼の様な男が口を開いた。


「カカカカカ!ナルホドォ……ワタシの予想が正しいければ、もしかすると……そういうことデスカ……!?人間を、メイン素材にするとこう、なる……!これが確かなら……実に、面白いことになりましたネ……!」


 レブキーと呼ばれる手が六本あるバケモノは、天を仰いでブツブツと言いながら、ニヤニヤ笑っていた。


「おい、レブキー……」

「カカ……!何度もワタシの名を呼ぶ必要はありませんよ、ヴァルハーレ。まあ、見ていなさい。」


 突然のことばかりで、頭が真っ白になる。

 まともに何かを考えることすら出来ない。

 にも関わらずこの状況を理解しようと、この状況をどう打開しようか勝手に考えてしまう。

 しかし、こんな状況……まさに蛇に睨まれた蛙という表現が正しいだろう。

 こんなバケモノ達を目の前にして、下手に動けないのも事実。

 逃げようとは思ったが、足が動かない。

 もし逃げようとしたのがバレて、僕を殺そうとしたら……

 考えるだけで身が竦んでしまう。


 僕がそんなパニック状態に中、レブキーというバケモノは僕に向かってゆっくりと近づいてきた。


「カカ……!ご安心を。あなたに危害を加えるつもりはありません。ワタシが聞く質問に答えなさい。拒否は、認めませんヨ。」

『は、はい……』

「名前は……?」

『く……楠 彩莉くすのき さいり……です。」

「「「っ!?」」」

「カッカッカッカッカ!そうですか……!アナタ、ここに来る前何があったか……思い出せますカ?」

『バケモノに、撃たれて……死んだ…はずです……』

「その化け物はどんな奴だったカ、覚えていますカ?」

『真っ黒で……一つ目で…目はガラスみたいだった……あとは、左手が……銃で……胸に紅く"30"って数字があった…』

「流石に気づいたでしょう? ヴァルハーレ 。」

「……ああ。」

『えっと、あの……』

「君。」

『はっ、はい……』

「紹介が遅れましたね、ワタシの名前はレブキー 。よろしくお願いしますネ、新入りクン。」

『えっ……新入り……?』

「ええ、そうデス!アナタは怪人デベルク。我々の、『仲間』デスヨ。」


 そう言ってレブキーは六本ある手の内一つを僕に差し出した。僕が手を取ると、彼は僕を引っ張って、立たせてくれた。


『あ、ありがとう……ございます……。』

「ふむ、どうやら状況を把握できていないようだネ、ワタシが色々と説明をしましょうカ。」

『は、はい……。』

「まず、はじめに我々は“エンディン”。地球に住みたいと考えている、宇宙海賊デス。」


 これが、僕と彼ら……宇宙海賊エンディンとの初めての出会いファーストコンタクトだった。

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