目覚め
--彩くんががどんなに変わっても、彩くんが自分を信じられなくなっても、私は彩くんのそばでずっと見続ける。
ねえ、君はそう言ってくれたよね
僕は楠 彩莉だ
なのに、どうして
どうして、君は……
「みんな、あいつは人のフリをした怪人。楠 彩莉は……彩くんはもう死んでいる。」
僕は怪人に変わってしまった。
これが現実かどうか信じることができない。
君は、、僕のそば見続けてくれるんじゃなかったのか。
君が見続けていたのは、"僕"じゃなく、僕の見た目だけだったのか
"僕"じゃない、僕であるものだったのか
君は僕の何を見ていた
僕は、僕は……僕は……!
『僕は、楠……彩莉だあああああ!!!うああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!!』
泣き叫んだ声が空にこだまする。
飛鳥井はため息を吐き、武器を構えた。
「そうか。だが悪いな、俺達はお前の言うことを信じるつもりはない。俺達は、俺達の仲間を信じる!」
「行くよ……みんな!」
「おう!」
「ええ。」
そうして5人が武器を構えた。芹澤という槍を持った青年だけは、最後まで武器を構えることをためらっていたようだったが、やがて意を決したかのように、ゆっくりと武器を構えた。
対して僕は全く思考が働かず、ただ呆然としていた。
こんな身体じゃ……涙すら出てこないのか……
依桜ちゃん……!
『なんで……』
ピュンピュンピュンピュン
『うっ、ぐあああああ!!』
彼女が放った攻撃を皮切りに弓を持った女まで矢を放っていく。
……身体が、動かない。
痛い、痛いよ
なんで僕が……こんな目に……
「東雲さん!王城さん!」
「「了解!」」
銃弾と矢が次々と放たれる。
動くことすらできない僕は、なすすべもなく銃弾と矢を浴びた。
「村主!」
「ああ、飛鳥井!おら、いくぞ怪人!」
銃弾と矢の雨が止んだ。すると村主が剣を持ち飛び出し、上から下へと剣を振り下ろした。
「芹澤ぁ!」
「……許せ……!」
続けざまに、腹を槍で突かれた。
「……飛鳥井!」
「ああ!」
飛鳥井が剣をしまいバズーカのようなものを取り出した。
「あとは任せて。一撃で決める!」
あれを食らったら今度こそ死ぬ
そう直感した
しかし
もう時既に遅くーー
「終わりだ!!」
飛鳥井はバズーカの引き金を引いた。
そこから
逃げようと、彩莉は背を向けて逃げる。だが、ただの走りで射出されたエネルギー弾の速度から逃げられるわけがない。
自分の背後にエネルギー弾が迫っていた。そのことに彩莉が気づいたのは、弾が自分の背に当たった瞬間だった。
『が……』
シュウウウ……
焼けるような痛みとともに、背からは灰色の煙が上がった。
(依……桜……ちゃ………)
薄れゆく意識の中、手を伸ばす。だが、彼女にその手は届かない。
やがて
空を切ったその手とともに、
彼は音もなく倒れた
「バカな……」
「レーザーバズーカくらったのに……なんで原型が残ってんだ……」
「そんな……ありえないわ……!前回も、前々回も使用した時、怪人は跡形もなく消し飛んだのよ!?」
「なるほど……さすが鎧の怪人ってところか」
「飛鳥井、チャージどれくらいかかる?」
「しばらくかかりそうだ。みんな、油断しないでとどめを。」
「「「「了解!」」」」
♢♢♢
どこだ……ここは……
真っ白だ……
光が見える。
光が逃げていく
待ってくれ
光を求めて走り続ける
もう一度手を伸ばす
あれ
そんなところにいたんだ
父さん、母さん、依桜ちゃん
みんなの目の前に来たら、僕は光に包まれた
同時に、"僕"が、僕という存在が消えていくのを感じる
嫌だ……
嫌だ、いやだ……イヤダ!
死にたくない!!
父さん、母さん、依桜ちゃん
助けてくれ!
……なんで見てるだけなんだ
なんで笑っているんだ!
ねえ!父さん!
--よかったじゃないか
え……
--人間として死ねなかったお前が神様のご慈悲で死ぬことができるんだ。
何言って……
--ただの化け物になったあなたが……この先、普通に生きることができるなんて大間違い。
母さん……
--楠 彩莉はもう死んだの。だから、喜んで死んでくれるよね。
依桜ちゃん……
「い……お……ちゃん……」
「彩くんは……私の心の中にいる。私を見守ってくれる。もう私は迷わない。」
ねえ
ねえ、依桜ちゃん
なんで僕を見下すの
なんでそんな冷たい顔をしているの
ねえ
僕は何をしているの?
大好きな人に銃を向けられ……殺されようとしているのに
僕は
何をしているんだろう
なんでこんなことしてるんだろう
なんのためにここにいるんだろう
なんで僕がいるんダロウ
ナンデイキテイルンダロウ
ナンデ
ナンデ
ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ
ナン--
ピシッ
ナニカがひび割れる音がした
僕が化け物だから
ピシシッ
ナニカがひび割れる音がした。
俺が化け物だから
ピキッ
ナニカがひび割れる少し大きな音がした。
俺はなんだ
僕は楠 彩莉である?
いや、楠 彩莉であった
ピキキッ
ナニカがひび割れる少し大きな音がした。
じゃあ
俺は……フェル、ゴール。
フェルゴール
ビキッ
ナニカがひび割れる大きい音がした。
ゼスタート様から頂いた名前
俺はなんだ
ビキキッ
ナニカがひび割れる大きい音がした。
俺はデベルク。化け物以上の存在。名はフェルゴール。偉大なる我が主人、ゼスタート様から承ったこの名前。俺は、ゼスタート様の騎士。ゼスタート様の盾であり剣。
なんだ
簡っ単な答えじゃないかァァァァァァァッッ!!!!
ビキッ
ビキッビキッビキッビキッビキッビキッビキッビキッビキッビキッ
ガシャガシャガシャァン……
僕の心の歪みにあったナニカがガラスが割れたような音を立てて崩れ去った。
全てが崩れ去ると、ぽちゃんとひとしずく、俺の心に落ちて消えた。
すると、消えかけた俺の心と身体が、何事も無かったかのように元に戻っていた。
俺を包んでいる光が、強大な闇に飲み込まれてゆく。
やがて光は消え、闇が俺の中に吸収されるかのようにゆっくりと心の奥底に入っていく。
真っ白な空間は真っ黒な空間に変わり、目の前にいた3人は闇に飲まれて消えていった。
その3人を見て俺は笑った。
そして泣いた
泣き笑った
意識が現実へと引き戻される中、俺は狂ったように泣き笑った。
涙はもう流れない。
俺の鎧の身体は、僕の心が白から黒に変わったように、白の部分が黒々と塗りつぶされ、飲み込まれていった。
もう白になることはない
もう光り輝くことはない
消えた
そう、消えた
『ハハハハ……アハハッハハハハ!!!』
笑った
俺は笑った!
生まれて初めて心の底から、笑った!
そうか!これが心の底から笑うってことなんだ!!
『たぁだーいまっ♪』
ああ、頭が兜なのが本当に残念だ
だって、イオちゃんに俺のこの最っ高の笑顔を……見せてあげられないじゃないか!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます