第2話 甘味処『あやめ』
私は苺が大好き。
今日はお小遣いを持って来たから、苺のかき氷を食べるつもり。
お寺の参道を歩くと、焼き団子屋さんやお煎餅屋さん、ちりめん細工の財布や風鈴などの和風小物のお土産を売っているお店がある。
甘味処『あやめ』もその並びに建っています。
参道脇には小川があり、菖蒲やアヤメに紫陽花が咲いている。
紫陽花は土壌の性質で咲く花の色が変わるんだよね。(これも橘先生が言ってた)
甘味処『あやめ』は、亡くなったおばあちゃんがよく連れて来てくれたの。
おばあちゃんは私を可愛がってくれた。大勢の人に対して臆病で怯えているのを、たぶん、いち早く察してくれたんだ。おばあちゃん、優しかったなぁ。私の一番の味方だったから。
私は自分でも不思議な人間だと思う。
ビビリなくせに、大好きな苺のかき氷を食べに一人でお店に入る。
時々、私ってば大胆なことをしてしまいそうな気がして、自分にヒヤヒヤするの。
特に、橘先生には――
橘先生とお弁当を一緒に食べた時に、『卵焼きを味見させて下さい!』っていって、勝手に先生のお弁当箱から一個卵焼きを貰っちゃった。
だってね、知りたかったの。
先生は甘い卵焼きが好きなのか、塩っぱいのが好きか。出汁は入ってるのかな〜なんて考えてただけなんだけど、ついつい……。
あの時の橘先生、目をパチクリしてるのが可愛くて、私、ちょっとキュンッてしちゃった。
でも先生はすぐに笑いながら「もう一個食うか? やるよ」って……。
キャー!
思い出したら、顔から火が出そうになった。
橘先生が箸で卵焼きをつまんで「アーン」って言うから、私が口を開けると食べさせてくれて。
『あっ、悪い。つい姪っ子にするみたいにしちまった』
姪っ子さんと一緒の扱いなんだなって悲しかったけど、先生とは少しづつ距離が縮まってるんだって、そう思うことにした。
✱✱
私は甘味処『あやめ』に着いて、ガラガラっと滑りの悪い、古い木の引き戸を開けた。
「いらっしゃぁい」
おばあさんのしゃがれた声が出迎えてくれる。
このお店は勝手に空いてる席に座っていいから、私は狭い店内を見渡して、カウンターの端っこに座ろうとした。
「
後ろから急に話しかけられて、私はびくっとした。
驚きながら振り返ると、そこには汗を拭きながら立つ、橘先生がニカァッと笑っていた。
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