先生と苺🍓のかき氷🍧【「5分で読書」短編小説コンテスト2022参加作品】

天雪桃那花(あまゆきもなか)

第1話 寄り道

 水無月みなづきのある日。

 梅雨の合い間に晴れて、湿気を含んだ空気と太陽の熱を感じます。

 私は学校帰りにひとり、寄り道をすることにしました。


 そうそう、水無月って6月のことなんだって。

 ふふっ。

 たちばな先生が授業で教えてくれたんだ。橘先生はねぇ……、素敵なんですよ。とにかく。


 どこが? って?

 まずは童顔なところに、クリクリとした大きな瞳。やんちゃな笑顔にえくぼなんかも出ちゃう。しかも片方だけ。

 口を開けてにかっと笑えば八重歯が覗く。

 大人の男の人なのにチャーミングなの。

 か・わ・い・い〜。


 そんなわけで当然ルックスは良いし、分け隔てなく話し掛けてくれるし、橘先生はとっても素敵。

 なにより、声! 声よ。

 痺れるわ〜。

 甘く程よい低音に、うっとりしちゃう。

 この間の三時間目の橘先生の授業なんて、うっとりしすぎて妄想が止まらなかった。源氏物語、やばかったわ。

 だってあれ、恋愛小説だよ?

 先生の朗読はみんなを源氏物語の世界に引き込んでしまって、聞き惚れてしまったのよ。

 先生とのあれこれ……、もし私と恋人だったら設定が幸せすぎて、私の頭はお花畑になっていた。

 危うく空想の夢のなかで、陶酔して爆睡するところでした。てへっ。

 ……ちょっと寝てた。

 体がガクッてなったからね。

 恥ずかち〜ぃ。



 私が向かったのは、弘法大師が開いたお寺の参道にある古い甘味処です。

 お寺の門から入って境内を抜けると、お店はすぐそこ。

 甘味処『あやめ』に行くために境内をつっきるだけだと、なんだか仏様にも弘法大師さんにも申し訳ない気持ちになって、私は参拝をした。

 百円玉一枚と十円玉一枚、五円玉一枚とを合わせて『115円いいごえん』にして賽銭箱にそっと投げ入れた。


 ――橘先生と楽しくお話が出来ますように。


 真剣に願った。

 橘先生は、こんな地味で取り柄のない私にも笑顔で挨拶をしてくれる。


 私はちょっと人見知りで、大勢が苦手。高校生になってからは、まだ友達が一人も出来ていないんだ。


 時々、橘先生は一人ぼっちでお弁当を食べる私を、中庭の噴水前の屋根が付いてるベンチ(調べたらあれって、あずま屋っていうのね)に誘ってくれた。


 


 

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