第12話 面影
機械の街の空が紅色に染まった頃、街外れにある建物の中で作業台を
見据えるアンベルたち3人の姿があった。
作業台の上に置かれているのは、彼女たちの手によって組み上げられた
数々の部品。
これは3人が造ろうとしている、ハイメルの飛行船に使用するものである。
「今日一日取り掛かってここまでか……」
「これは……なかなか掛かりそうだね……」
「……でも、作業計画で見れば順調だよ!」
設計図に描かれたものとは程遠い現状の姿を見て、悩ましい顔で呟く青年たちへ
アンベルはなだめるように声を上げると、夕日に照らされた2人の顔を見た彼女が
再び口を開く。
「そろそろ暗くなる頃だし戻ろうか、疲れたでしょう?」
「……そうだな、ここで無理をして後に響いても困るからな」
アンベルの問いにノワルフが同意の声を上げると、3人はそれぞれ作業の
片付けに取り掛かる。
そんな中、建物の入口から静かに影が差し込んできた。
その様子に3人が入口へ視線を向けると、そこにあったのはアルゲントの
姿であった。
畏まった態度で向き直る3人に対し、アルゲントは穏やかな口調で声を掛ける。
「今日の仕事はもう終わりかな?」
「ええ、今日はこれで……」
アンベルの言葉を聞いてアルゲントは作業台に置かれた部品に視線を
移すと、その様子を見たアンベルが苦い表情を浮かべながら口を開く。
「まだ空を飛ぶには程遠い姿ですが……あの、何かありました?」
「……良ければ老いぼれの寂しい食事に付き合ってはもらえないだろうか?」
アルゲントが発した突然の申し出に、3人は困惑した表情で顔を見合わせた。
…………。
アルゲントに案内され、彼の自宅へと招かれた3人。
年季の入った家具や道具で彩られた家の中を歩むアンベルたちで
あったが、やがて奥の一室へと辿り着いた。
そんな3人の目に留まったのは、食台の上に並べられた数々の食事。
香ばしい香りを放つそれらの量にアンベルたちが驚いていると、アルゲントが
微笑みながら口を開く。
「断られたらどうしようかと思っていたよ……さぁ、好きなところに座ってくれ」
「ありがとうございます、それでは……」
アンベルたちがそれぞれ備えられた椅子に座ると、合わせてアルゲントも
空いていた椅子へと座り込んた。
「突然、誘ってしまって悪かったね」
「いえ、こちらこそお招き頂けて光栄です」
「そう言ってもらえると嬉しいよ、実は一度君たちと落ち着いて話が
したいと思ってね」
アルゲントは少し考えるような態度を取ると、複雑な表情でアンベルへと
問い掛ける。
「会話というより、質問みたいな感じになって申し訳ないのだが……君は
セピリアという人物を知っているかね?」
「……!?」
アルゲントの問いにアンベルが驚いた顔を浮かべると、隣で聞いていた
2人の青年も、同じ表情でその視線をアンベルへ向けていた。
3人に視線を向けられた中、アンベルは静かに口を開く。
「セピリアは私の祖母ですが……」
その答えにアルゲントは安堵した表情を見せると、今度は
アンベルが不思議そうな顔でアルゲントへと問い掛ける。
「なぜ、私に関わりがあると……?」
「君とセピリアさんの容姿が、凄く似ているんだよ」
(……え!?)
予想もしていなかった答えを聞いて、言葉を詰まらせるアンベル。
そんな彼女に対し、アルゲントは内に感じていたものを打ち明けるように
言葉を続ける。
「更にはあの人と同じ技師と言うじゃないか、どうしても無関係とは思えな
かったんだ」
「そ、そんなに似ていますか……?」
「ああ、最初に君を見た時は本当に驚いたよ、まるで彼女が帰ってきたのかと
思ってしまった程に……」
「おかしな考えで判断して済まなかったね」
「いえ、私も祖母を尊敬していましたから……嬉しいです」
(そうか……セピリアさんは既に……)
アンベルの言葉から現在のセピリアの状況を察したアルゲントは、過去の
記憶を巡らせながら静かに口を開く。
「あの人には色々とお世話になったものでね、彼女がこの街を去ると言った時は
本当に悲しかったよ」
言葉通りに暗い表情を浮かべながら話すアルゲントに対し、アンベルは
対称的な明るい声で言葉を返す。
「……祖母も同じ気持ちだったと思います、そうでなければ私たちをここへ
導いたりはしなかったはずです」
「導いた……?」
「私たちをここへ手引きしてくれたのは祖母なんです」
「もしこの街や人々を嫌っていたのだったら、そんな所に可愛い孫たちを
行かせようなんて思いませんよ」
言いながら笑顔を見せるアンベルに、アルゲントは安心した顔を
向けると、アンベルの両隣で静かに話を聞いていた2人の青年を見据えながら
口を開く。
「孫たちと言うことは……彼らにもまたセピリアさんと深い関わりがあるんだね」
「この2人は正確には孫というか……お弟子さん……?」
アンベルの曖昧な言葉を聞いて、2人の青年が不満げな態度で口を挟む。
「弟子と言うのは間違っていないが、俺たちも孫だぞ」
「ノワの言う通り、僕だって本当の孫だと思ってたんだけど……」
「あ! いや! 否定したつもりじゃ……ごめん!」
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