第13話 招集
……翌日。
アンベルたちは昨日と変わらない様子で造船の作業を進めていた。
「……?」
そんな中、建物の外からかすかに聞こえてきた物音に気が付いた
3人は、疑問の表情で顔を見合わせた。
「何だか……外が騒がしいような……?」
アンベルたちは窓へと駆け寄ると、外の様子を静かに覗き込む。
彼女たちの視界に映ったのは、空地へと集まる人々の姿。
その只事ではなさそうな光景を見て、アンベルは困惑の声で呟いた。
「え!? 何かあったのかな……?」
不安な様子でアンベルが建物から飛び出すと、2人の青年も
その後を追って外へと歩み出した。
アンベルたちがその人々の元へと駆け寄ると、そこに集まっていたのは
3人とは別の工房で働く技師たちであった。
(何で別の工房の方々が……?)
この事態を確認しようとアンベルが声を掛けようとしたその時、街の
方角から聞き覚えのある大きな声が聞こえてきた。
「さぁ、早く来るのだ!」
「ま、待ってよジャウネ……」
3人が声をする方向へ視線を向けると、そこに見えたのは、何処か嬉しそうな
表情でこちらへと駆けるジャウネの姿と、それを追うように走る少年技師の
姿であった。
やがてジャウネが空地へと集まっていた技師たちの傍で立ち止まると、彼女の
後を追ってきた少年も息を切らせながらその足を止めた。
その様子を困惑した態度で見つめるアンベルたちであったが、3人の
存在に気が付いたジャウネが満面の笑みを浮かべながら口を開く。
「これだけの人手があれば、もう心配はないだろう!」
「心配って……逆に訳の分からない事態になっているんだが……」
「ここで諸君が飛行船を造っている事を
3人では大変だと思って技師の皆を連れてきたのだ」
ノワルフの返事をよそに、得意げに話すジャウネの言葉から、その事情を
理解した3人であったが、過剰戦力とも思える人数を前にアンベルたちは
顔を引きつらせていた。
「これって……良いのかよ……」
「仰るとおり、良くなかったのです」
そんなノワルフの疑問の言葉に返って来たのは青年の声。
その声の主は、ジャウネの背後で険しい表情を浮かべながら彼女を
見据えるリメルトであった。
背後へと振り向き、自身に視線を向けるジャウネに対し、リメルトは変わらずの
態度で彼女へと問い掛ける。
「ジャウネ、やはり君の仕業だったか……守衛協会の権限を使ってまで
工業区の技師たち全員を連れ出すなんて何の真似だよ」
「困っている街の人を助けるのが守衛協会の仕事、当然ここで働く者
だって例外ではないのだ」
「それをされると別に困る方が出てくるのだが……」
ジャウネの答えにリメルトが呆れた声で言葉を返すと、そんな2人の
やり取りを聞いていた技師の男性がアンベルへと声を掛ける。
「手伝わなくて大丈夫かい? いくら小型のものとはいえ、あれを3人で
造るのは大変だろう?」
「え、ええ……そうですね……」
男性の問いにアンベルが苦い表情で言葉を返すと、男性は再び口を開く。
「さすがに全員で……というのは無理だが、手伝えそうな者が顔を出すということ
なら力になれるんじゃないか?」
「中には造船の経験のある者もいるから、そういうのがいた方が何かと助けに
なるだろうし、うちの若いのに学んでもらうにも良い機会だと思ってね」
「……役場の判断で良ければの話だが」
「…………」
男性の言葉を聞いて、誰1人としてその場から立ち去ろうとしない技師たちの
様子を静かに見据えていたリメルトであったが、ふとその視界に、自身へと視線を
向けるジャウネの姿が映り込んだ。
「♪」
自身に勝ち誇ったような笑みを浮かべるジャウネに対し、リメルトは一瞬だけ
嫌そうな顔を向けると、その視線をアンベルへと移して声を掛ける。
「第4工房がその対応を望むのであれば、一度役場に戻って話をしてきます」
リメルトの言葉を聞いて、アンベルは周囲にいる工房の人々を見据えると、彼に
言葉を返す。
「お手数をお掛けしますが……お願いします」
「分かりました」
アンベルの返事を聞いて、役場の方角へと駆けて行くリメルト。
彼の背中を見送りながら、ジャウネが満足そうな表情を浮かべて
いると、技師の男性が険しい顔でジャウネへと声を掛ける。
「ジャウネ、君の行動力の良さは認めるが、あまり
「う……今後は気を付ける……」
男性の鋭い声に、ジャウネは反省の態度で言葉を返した。
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