第10話 奇抜な仮面と召使い
街外れの空地。
そこへ設けられた建物の中で、造船の準備に取り掛かる3人の姿があった。
作業台に広げられた設計図や部品を扱いながら会話をしていた3人であったが
やがてアンベルが大きな鞄へと手を伸ばすと、中へ詰められた部品を漁り始めた。
しかし、その表情は次第に焦りを見せたものへと変わっていた。
「ごめん、工房に忘れ物した……入れた記憶無いや……」
落ち込んだ声を出すアンベルに、青年2人は視線を向けた。
「慣れないものに気を取られるあまり、基本を忘れるなんて……」
「確認しなかった俺達も悪かった、取って来る」
そう言って作業台から離れるノワルフに対し、ブランフドが制止の声を掛ける。
「待ってノワ、僕が行ってくるからアンを手伝ってあげて」
提案したブランフドを見て、ノワルフはすぐに言葉を返す。
「よし、任せた」
「ごめんブラン、お願いね」
2人の言葉にブランフドは、明るい表情で頷いた。
……。
足早に向かった甲斐もあり、ブランフドが工房へ辿り着くにはそれほどに
時間は掛からなかった。
ブランフドは厳重に施錠された工房の扉を開き中へ入ると、すぐに部品庫の
入口へと足を踏み入れる。
部品庫に設けられた棚を見回したブランフドは、目的の部品を見つけるとそれに
手を伸ばし、鞄に詰めていった。
そして、目的を果たしたブランフドが部品庫から出ようとしたその時、突如として工房へと侵入する何者かの気配を感じ、足を止める。
「……?」
ブランフドが部品庫の入口からその姿を確認すると、そこに立っていたのは
召使いの身なりをした1人の女性。
さらに頭部には、機械の部品によって丁寧に繕われた奇抜な仮面を被っていた。
その仮面によって表情は見えないものの、そのせわしない動きで工房を見渡す
様子から、彼女が動揺していることは明らかであった。
「ここ……どこかの工房だよね……?」
「……ってことはわたし、工業区まで歩いて来ちゃったの!?」
そう言いながら慌てふためく女性の前にブランフドが姿を現すと、彼女へと
声を掛ける。
「あの……何かありました?」
「あ!お兄さん、この工房の人?」
女性に問いにブランフドが頷くと、仮面で覆った顔を傾げながら言葉を続ける。
「どうしてわたし、ここに来たんだろう?」
「……? 何も覚えていないんですか?」
「私って凄く頭がおかしいから、こういうことがよくあるんだよね……」
澄ました口調で大それた発言をする女性に対し、ブランフドは再び問い掛ける。
「見た所だと、御手伝いさんのようですが」
「そうなの!わたしったら、まだ仕事の途中で……」
その時、工房の時計を視界に捉えた女性が言葉を止めた。
「でえぇ!? とっくに支度の時間を過ぎてるじゃないの!」
奇妙な声を上げながら、女性は再び慌て出した。
「ご、ごめんね!また来るから!」
女性はそうブランフドに言い残すと、スカートの裾をはためかせながら慌ただしく工房の外へと出て行った。
(な……何だったんだ……?)
突然の事態に状況の整理が追い付かず、目を丸くしたままのブランフドであったが
女性が最後に言い残した、ある言葉を思い出す。
(また来るって言ってたけど……また来るの……?)
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