第9話 造船所

「皆さん! 見つかりました!」 

 そんな言葉と共に勢いよく工房へ入ってきたのは、自分の飛行船を手にすることを夢見る青年、ハイメルだった。


 満面の笑みを浮かべたその表情から、工房の3人は彼の言葉の意味を

すぐに理解した。

「飛行船のお話ですよね?」

「はい! 造れそうな場所が見つかりました!」

アンベルの問いに対し、ハイメルは活気のある声で答えた。


 ……。 

 3人がハイメルに連れられてやって来たのは、街外れにある

広い空地。

 その空地の様子を見て、工房の3人は感心の声を上げた。

 

「あと、それだけじゃないんですよ」

 そう言ってハイメルは、3人を空地の奥に設けられた簡易な

建物へと招き入れる。

 建物の中に広がったその光景を見て、3人は驚く。

 そこには、棚に収納された工具や隅に設置された加工機器など造船作業に

必要なものが揃っていた。


「……完全に造船所じゃないですか」

「ここを貸して下さった方も技師さんだったみたいなんですよ」


 しばらくして建物から出た4人は、空地の中央に立つ老人の姿に気が付いた。

「あ! あの方がここを貸して下さったアルゲントさんです」

 ハイメルは3人に対してそう告げると、老人に駆け寄りながら頭を下げる。


 合わせて3人も駆け寄ると、それを見た老人が口を開く。

「ハイメル君から話は聞いているよ、君達が彼の飛行船を造る技師さんか」


「私はアルゲント・シルベル、そこの家で静かに暮らしている老いぼれだよ」

 アルゲントは空地の隣に建った小さな家を指してそう言った。


 工房の3人がそれぞれ名乗ると、アルゲントはアンベルの顔を見て

驚いた表情を浮かべた。

 その様子がアンベルには少し気になったが、特に触れることはせず

アルゲントへ問いかける。


「こんな良い場所、本当にお借りして大丈夫なんですか?」

「……構わんさ、ここが若い子達の役に立つなら私も嬉しい限りだよ

自由に使ってくれ」

 そのアルゲントの快い返事に4人は礼を言った。

 

 そしてハイメルが目を輝かせながら、アンベルに言い寄る。

「これで俺の飛行船、造ってくれるんですよね!?」

「ええ、完成させることはお約束します」

「ですが、我々3人だけの作業なので完成までに相当な期間を頂くことに

なりますが、それだけはご了承下さい」

 

「はい、構いません! よろしくお願いします!」

 ハイメルはそう答えると、アンベルの両手を掴み上下に振った。

 

 ……。

 空地改め、造船所を後にした3人は工房へと向かって歩いていた。


「本当に場所をなんとかしてきたね」

「ああ、それも思った以上に凄い場所を見つけてきたな」


「でも、彼の熱意は伝わったよ」

 アンベルは青年2人の言葉に対しそう呟くと、彼らに視線を向けて

再び口を開く。


「だから今度は私達が叶えてあげましょう、彼の夢を」

 その言葉に青年2人は明るい表情で頷いた。


 アンベルが視線を戻すと、反対側から3人のよく知るマスクの男性が歩いてきた。

 ブライトルは3人に気が付くと、駆け寄って声を掛ける。

 

「珍しいね、こんな所で君達と出会うなんて」

 アンベルが事情を説明すると、ブライトルは穏やかな口調で答える。

 

「飛行船なんて凄い話だね、完成したら私も一目見たいものだよ」

「応援しているよ、君達なら必ず完成させられる」


「ありがとうございます、ところでブライトルさんは何故ここに?」

「アルゲントさんの定期診察さ」

 そしてブライトルは別れの挨拶を告げると、アルゲントの家へと歩いていく。


 3人が再び工房へと歩みを進める中、アンベルは考える。

(そういえばアルゲントさん、どうして私の顔を見て驚いた顔を

していたんだろう?)

(……今度、聞いてみようかな)

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