第6話 感謝
ある場所を目指し、街の中を歩いていた少女の姿があった。
そして今、少女はその場所へとたどり着いた。
入口の扉を開け、足を踏み入れる。
……ノワルフ達3人の待つ、第4工房へと。
突然やって来た少女に対し、工房の3人は視線を向けた。
見覚えのあるその姿に、ノワルフが声を掛ける。
「もう足は大丈夫みたいだな」
「当然だ、大したことないと言っただろう」
少女はノワルフの問いに答えると、真剣な表情で言葉を続ける。
「私はジャウネ・シトローネ、守衛協会の人間だ」
(守衛協会……シトローネ……あれ?)
ジャウネが発した聞き覚えのある言葉に、ブランフドは考える。
「守衛協会の方が何の用でしょうか?」
その横でアンベルがジャウネに尋ねた。
「いや、守衛協会の仕事で来た訳では無い」
「……私自身が、そこの彼に用があって来た」
そう言うとジャウネは、ノワルフの方へと向き直る。
「この間は申し訳なかった、気恥ずかしさのあまり取り乱してしまった」
「本当に助かった、感謝する」
「俺が勝手にした事だ、気にしなくていい」
ノワルフの返事を聞いたジャウネは、彼へ別の話を切り出す。
「実はもう1つ頼みたいことがあるのだ、2度も頼ることになって
申し訳ないのだが……」
ジャウネは服のポケットから何かを取り出すと、それをノワルフの
目の前へと差し出した。
文字盤が破損し、針が停止した時計だった。
「……足を踏み外したあの時、壊してしまったのだ」
悔しそうな表情で話すジャウネの手から、ノワルフは静かに時計を
受け取った。
……。
その夜、3人は作業台を前に向かい合い、それぞれの作業を行っていた。
その中でノワルフが修理をしていたのは、ジャウネの時計だった。
そして突然、ブランフドが口を開く。
「2人は凄いね、来たばかりなのにもう街の人達に頼られて、感謝されて」
「ブランだって同じだよ」
ブランフドの言葉に対して、アンベルが答えた。
「ブランが今手に持っているその子だって、貴方を頼ってここに来ている
そして、今まで貴方が直してきたものだって、感謝している人達がいたはずだよ」
アンベルの言葉を聞き、ブランフドは手に持っていた機械の人形を見つめる。
沈黙したブランフドを見て、アンベルは慌てて言葉を返す。
「私、変なこと言った?」
「いや、アンは良い事言うなと思って」
「ああ、リーダーらしい言葉だ」
何げなく放った言葉を青年2人に称賛され、アンベルは困惑の表情を
浮かべていた。
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