第5話 夢と飛行船

 街への用事を終えたブランフドは、工房のすぐ傍を歩いていた。


(……?)

 ブランフドが工房へ近づくと、入口の前に青年が立っていることに気がついた。

 素通りして工房の中へ入るのは、気が引けると感じたブランフドは

青年に声を掛ける。

「何かご用でしょうか?」

「あの、実は……」


 青年が何かを言いかけたその時、ブランフドの背後から

ブランフドと同じく外出していたノワルフが、2人の元へと駆け寄る。


 ブランフド達2人に対し、再び青年が何かを言いかけると、今度は工房の扉が

開いた。

 外の3人の視界に映ったのは、疑問の表情で3人を見つめるアンベルの姿だった。

 

 ……。

 アンベル達3人は、ハイメル・シェルステと名乗る青年を工房へと招き入れた。

 そしてハイメルは、持っていた鞄から用紙を取り出すと、台の上へと広げる。

 3人が用紙へと視線と向けると、そこに記されていたのは飛行船の設計図だった。

 

「……これを造りたいと?」

「そうです! 俺、自分の飛行船が欲しいんです!」

 アンベルの問いに、ハイメルは力強く答えた。

「街の操縦士をやっている者なんですが、操縦は得意でも設計とかの知識は

からっきしで……」

「だから、皆さんの知識をお借りしたいと思った訳です」


 ハイメルの話を聞いたアンベルは、飛行船の設計図を手に取った。

 そして、設計図を見つめて深く考える。


「……難しいですかね?」

 静かに考えるアンベルを見て、ハイメルは不安そうな声で尋ねた。

 するとアンベルは、明るい表情で答える。

「いえ、造ると言った点では問題ありませんが、これを造るだけの場所が必要に

なります」

「小型とはいえ、この大きさでは、ここの工房じゃ造れませんので」

「……場所さえどうにかなれば、造ることが出来るんですか!?」

「ええ、良い設計図だと思います」

 アンベルの言葉を聞くと、ハイメルは勢い良く立ち上がる。

 

「ありがとうございます! 何とかしてみます!」

 そう言ってハイメルは、アンベルから設計図を受け取ると

嬉しそうに工房から去っていった。


 走り去るハイメルを見届けた後、青年2人がアンベルにその意思を尋ねる。

「それでアン、彼が場所を何とかしてきたら本当に飛行船を造るつもり?」

「ええ、もちろん」

「やはり本気か、追い返した訳じゃなかったんだな」

「そんな意地悪はしないよ、あ、でも……」


 「その時は一緒に手伝ってもらえると嬉しいかな、あれを1人で造るのは大変

だろうし……」

 申し訳なさそうに答えるアンベルに、青年2人は静かに頷いた。

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