第7話 理由

 工房の3人は、商業区にある料理店の前にいた。


 その日、ジャウネが彼女の兄であるオリアンを連れて、再び工房を訪れていた。

 そしてオリアンが、一度話がしたいと工房の3人に申し出たのである。


 店の中へ入ると、店内は一日の仕事を終えた住人達で賑わっていた。

 3人が店の奥へ視線を移すと、隅のテーブルに3人を待つ兄妹の姿があった。

 兄妹と挨拶を交わした3人は、並んで座っていた兄妹の向かい側に座る。


「唐突に誘ってしまって申し訳ない」

「いえ、お誘いは光栄なのですが、なぜ私達と?」

 アンベルは3人が共通で感じた疑問をオリアンに問いかけた。


「変な意味ではないのだが、どうにも貴方達のことが気になってしまってね」

「貴方達はこの街に、何か特別な理由があって来たのではないかと思っている」


「家出とかそんな理由ではなく」

 意味のありそうな言葉に、アンベルが疑問の表情を浮かべると

オリアンは話を続けた。


「実は私がそうだったんだよ」

「両親とあまり仲が良くなくてね、それで家を飛び出して来たんだ」

「それでこの街にやってきたんだが、工学についてはさっぱりだったから

助かったよ、守衛協会なるものがあって」


「ただ、ジャウネを巻き込んでしまったのは申し訳なかったが……」

「そんなことはない、私は己の意思で兄貴に付いて来たのだ」

 オリアンの言葉に対し、ジャウネは力強い声で答える。

 そして、オリアンは静かにジャウネを見つめると、再び3人に

向き直った。

「失礼、私の話をしてしまっていた」


 オリアンの言葉を聞いたアンベルが話を始める。

「昔、祖母がここに住んでいたんです」

「なので、ここで暮らしているうちに祖母の足跡が見つかればいいなって……」

「それに私、いえ、私達がここで暮らすのは祖母の願いでもありましたし

私自身もこの街に憧れていましたから」


(……この2人は何者?)

 ジャウネがアンベルの隣にいる青年2人に疑問の眼差しを向ける。

 その視線を察したノワルフが口を開く。


「ああ、俺達の事だが……」

 言いかけたところで、ノワルフがブランフドと目を合わせる。

「俺が話してもいいか?」

 ブランフドが頷くと、ノワルフは話を続けた。


「俺とブランの家は潰れてしまってな、それで彷徨ってたところをアンに

救われて、それからずっと一緒にいるって訳だ」

「申し訳なかった、そんな話をさせてしまって……」

 うつむきながら答えるジャウネに対し、ノワルフが声をかける。


「暗い話だと思わないでくれ、俺達が出会ったきっかけだ」

 ノワルフの言葉を聞いて、アンベルとブランフドが明るい表情を浮かべる。

 ……。


 その後、会話と食事を楽しんだ3人は、兄妹に見送られ

料理店を後にした。

「まさか、いきなり誘われるだなんて思わなかったな」

「本当、驚いたね」

 陽気に話す青年2人を見て、アンベルは考える。


(私に救われた、か……)

(2人はそう言ってくれたけど、私も2人と出会わなかったらどうなって

いたんだろう?)

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