第6話 島崎玲の憂鬱

私は島崎 玲しまざき れい


朔ノ宮学園高等部二年一組のクラス委員をしています。




今私がいるのは学園の新しい部活、文芸部の部室の前。




「氷冴くん…なんで…」






♢♢♢♢♢♢♢♢




2週間前…




私は放課後の教室で、「クラス委員の仕事を手伝って欲しい」と言って氷冴くんを呼び出していました。




「玲さん!今日は何の手伝いをすればいいのかな?」




この子犬が尻尾を振るような愛しさで、私に近づいてきたのが鷹野氷冴くん。


私の好きな人です。本当に優しくて、自己評価は低いけど私にはもったいないくらいかっこよくて可愛い男の子なんです。




えーと、よく一緒にいる白村くん…だっけ?


あの人が羨ましすぎて、次の席替えは細工させてほしいくらい。




「えっと…ごめんなさい!」


「ん?それはどういう…」


「本当は今日何もないの…一緒に帰れないかな…って」


「なんだ。そうならそうと言ってくれれば良かったのに。玲さんとならいつでも帰るよ」




ぐはぁっ!!また一人、脳内のリトル玲ちゃんが昇天致しました。


この人本当にずるいんですよぉ!


私が好きなの知ってるくせにこうやってキュンキュンさせてくるんですぅ!




頭の中で取り乱していると、氷冴くんが鞄を持ち「行こっか?」と言い、身長の小さい私の顔を覗いて来ました。




惚れてまうやろぉぉ!!




あぁ…ポーカーフェイスができないよぉ…




「あ、あの!氷冴くん!」


「ん?」


「あの、知ってると思うんだけど…」






微かな沈黙が流れ、彼は私の目をしっかりと見つめていました。




「わ、私は氷冴くんが好きです…」




うぉぉぉぉぉ!!!!言ったぁぁぁ!!言ってしまったぁぁぁ!!


脳内のリトル玲ちゃんは狂喜乱舞です。


氷冴くんからまだ答えを聞いていないのにもかかわらず…




「え?玲さんが僕のことを好き…!?じょ…冗談だよね…?」


「冗談…?そんな…ことするわけないよ!」


「でも僕は玲さんに好かれることなんて…僕なんて」


「っ…いくら氷冴くん本人でも私の好きな氷冴くんを否定するのは許さないよ!」




はっ…何を言っているんだ私は…




「えっ…玲さん…泣いてる…?」


「ご、ごめんなさいっ!」




耐えきれなくなった私はその場から逃げるように帰ってしまった。


その日から、気づけば互いに避けてしまっていたような気がする。




でも確実に好きだという気持ちは高まっていくだけだった。






♢♢♢♢♢♢♢♢




そして現在…




「なんで!?僕は翠も可愛いって思ってるよ!二人が僕の幼馴染なんて、何かの間違いとも思ってるくらいだし!?」




中から息があがっている氷冴くんの声がする…




幼馴染相手だとあんな顔で話すんだ…


そこには私の知らない彼と間に割って入ることができなさそうな空間が形成されていた。




「あぁ…一番好きなのは私なのになぁ」




廊下から彼らの状況を伺う。


傍目から見ても彼らの目がいつも他の生徒に向けているものとは違うとわかってしまう。




だからこそ嫉妬というか…




氷冴くんからの愛が欲しくなってしまう。




二番でもいいけどここはどうにかして猛アタックするしかないのでは?




否!するしかない!でも目指すは一番!




そうと決まれば作戦会議よね…




「帰らなきゃ…!」






私の恋は大荒れの嵐のようだ。




「だからこそ燃えるって感じかなぁ?」






氷冴くんの一番の座は私がもらいます!


てか、氷冴くんなんですけど!

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