第1話 わたし様の三つのお供え物、起動確認
神様とはいつも理不尽な存在といえよう。
身勝手でわがままで、助けたい人間しか助けない。
しかも助けたい人間は、基本彼らのツボに入った人間。
その種類は千差万別という意味では平等といえなくもない。ただし、均等ではない。
神に愛される人間と愛されない人間の違いなぞ、人間の視点ではわからない。
そして、神様というものは表情や考えも人知を超えているため、人間にとって都合のいい、明確な答えなんか出さない。
ただ、気に入ったから。
ただ、ちょっとちょっかいを出そうかなと思ったから。
暑かったら殺してやるという、殺人鬼並みの安直で傲慢な理由よ。
しかし、それが許されるのだから、神様はすごいわけ。
力と知恵を持つ柱ゆえの、気晴らしと試練。
ドキドキわくわくするでしょ。
さぁ、遊びましょうかと、神はあなたの手を引いたの。
闇の中に落ちる一歩寸前のあなたの小さな手を。
日常へ戻れるか、それとも更なる深遠に叩き落されるか。
それはあなたの行動しだい。
人間であるあなたは神様の挑戦状を受けてたつという選択肢しかないもの。
ね、ちっぽけな人間君。
神様に選ばれた幸運を大事にしてよね。
わたし様もあのこの最後の願いがなければ、あなたの手をとらなかったから。
◇◇◆◇◇
気がついたとき、僕は見たこともない部屋にいた。
「ここはいったい……」
必死に記憶を呼び起こそうとする。
「僕の名は
自分の名前や遠い記憶はうっすらと思い出せるようだ。
「……おかしい、思い出そうとしても、わからないことがある。それにここ最近の記憶がまったく思い出せない……?」
だが、苗字や家族構成、通っている学校の名前までは頭に浮かんでこない。
常識的に考えれば、出てこないのはおかしい。なによりここ最近の記憶はとてもあいまいだ。
こんなところに、なぜいるのか、という答えは一向に出てこない。
普通ならば、ここまで意識が戻っていれば、ここから出せとか叫ぶのだろう。
一人だったら、そうしていた。
「あ、あの、目を覚ましたの?」
自分より小さい女の子がすぐ側にいる。
この少女がいるからこそ、大きな声を出して怖がらせたくなかった。
心を落ち着かなければならない。
小学生のクセにどうしてそんなに達観したのか。
……わからない。
だが、僕は頼りがいのある年上の男でいなければならないと思った。
「誰だ?」
どこか冷静に考える僕の頭は、僕をここに運んだのはこの子かもしれないと疑っている。
たしかに、女の子を見た感じからすると僕よりも小さい気がしないでもないが、小学生では個人差が大きいので、身長イコール年齢とは限らないだろう。
言葉づかいがやや乱暴になっているのは、この頼られたいと疑っている二つの感情が交じり合った結果だ。叫びはしなかったが、僕は相当切羽詰っているようだ。
「目を覚ましたのね。心配していたのよ?」
女の子はにっこりとほほえむ。
トクンと心臓が少し鳴ったような気がした。
なんとなくであるが、この女の子の顔を見ると、守らないといけないというか、大切にしなければいけないよう気が湧き上がってくる。
「心配……なぁ、あんた、ここはいったいどこだ……?」
でも、一度警戒するとなかなか解除できないものだ。
にらむような目つきでいったものだから、女の子の体がわかりやすいぐらいビクンと震えた。
このままじゃだめだ。
「いや、すまない。実はどうにもさっきから頭の中に……なんというか、モヤがかかったみたいになっていて……不安で、落ち着けないから……ごめん。かっこわるいね」
やつ当たりのような態度をとってしまったのを素直に謝りつつ、不安で正常な判断ができないくらいストレスでイライラしているのをアピール。
年下かもしれない女の子にこんなこと告げるのは正直かっこわるい。惨めな気分になる。だが、何もわからずに険悪になるよりはずっとマシだ。
恥や威厳など、危機的状況の中ではこだわっている暇はない。
「そうなの? なら、わたしと同じね。わたしね、何も覚えていないの。何でここにいるのかどころか、自分自身が誰なのかもよくわからない状況なの」
あっけらかんと。
女の子はまるで、おつかいにいったら財布を忘れていて、家にユーターンしたような、少し困った笑顔で、とても重大で不可解なことを何気なくいう。
「どうなっている?」
たしかに僕もここ最近の記憶はどうにもあいまいだが、自分の名前くらいは普通に思い出せる。
何か僕とこの子で違う点があるのか……。
それともこのこがウソをついているのか?
……いや、そもそもなんで『ここ最近の記憶』が思い出せない?
突然身に覚えのない場所で目を覚ました子供が二人いて、二人とも記憶を失っているなんてどう考えてもおかしい……。
「く。なら、手がかりを探すしかないか?」
僕はあたりを見渡した。
この部屋は天井こそやたらに高いが床は正方形のシンプルなものだ。四方にはそれぞれひとつずつ同じ大きさの扉がある。
東は『一の部屋・花』、南は『二の部屋・月』、西は『三の部屋・雪』、北は『関係者以外立ち入り禁止』という大文字。
一から三の扉は木製で、それぞれネームプレートが掲げられていて、ファンシーなイラストが描かれていた。
北は鉄製の扉で南京錠の鍵がかけられている。
なんのアイテムもない僕たちがいけそうなのは、三つの木製の扉の部屋だ。
「ほかになにか、ん?」
普段着だったのであまり意識していなかったのだが、ズボンのポケットが妙に膨らんでいる。
「もしかして何か入っているのか?」
膨らんでいるほうのポケットを手探りすると、中にはひとつのメモがあった。
メモの内容はこうだ。
~あなたはこのままでは死にます。
心やさしいわたし様はあなたを助けようと思います。感謝しなさい。
でも、ただじゃないわ。
神様っていうのは、ぽんぽんと気前よく願いをかなえるものじゃないの。試練を与え、その人間が願いをかなえるに値するかっていうのを見極めないといけないのよ。
というわけで、わたし様主催の神遊びに興じたいと思います。
今風にいえば、ゲーム。
闇とか、命をかけたとか、そんなゲームをするわけ。
拒否はなし。
わざわざ呼びかけに答えたわたし様をせいぜい楽しませてちょうだい。
ちなみにわたし様はおバカさんが嫌いなので、これ以上の説明はしないわ。と、いうか、この段階でウダウダしている、おマヌケさんを救うわけがないでしょ。わたし様は便利屋ではなく、神様なのだから。非情とか理不尽と人間に思われたぐらいで動じないわ。
つまり、ごちゃごちゃした理屈はおよびでないの。わかった?
時間制限つきのとびっきりのゲームだから。がんばってクリアしてよね~
「はぁ?」
僕はメモを見て、からかわれていると思った。
だが、今の僕には残念ながら、これ以外情報がない。
女の子にもこのメモを見せつつ、僕は考える。
もし、当てにせず、ブーブー文句いいつつ、時間をつぶしても、僕にだけペナルティ(うけること自体そうとう嫌だが)があればまだいいだが、僕よりも小さいこの女の子も受けることになる。
連帯責任って怖い。
こんなふざけたメモを信じなければならないぐらい、極限状態になっているからね。
普段の僕では考えられないほど、あっさりと納得。
女の子も僕と同じような考えに思い至ったらしく、僕たちはこうしてわたし様という神様(?)の言うとおりに神遊びに付き合うことにした。
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