第4話

 僕は自分の住んでいるアパートに帰ると、木村に連絡した。今日の夜、自分の家で遊ぼうと、そして線香花火を買ってきてくれとメッセージを送った。

 木村は夜の七時に僕のアパートにやってきた。黒の短パンとポロシャツを着ていた。髪は茶髪で短かった。

「奇遇だな。俺もまたお前と話そうと思っていたんだ」

 木村はスーパーの袋をテーブルの上に置いた。

「俺の幼馴染がさ。今日死んじゃったんだ」

 僕は時間が経つごとに香織の死を実感し始めていた。そしてもう会って話をすることができないという事実に震えを覚えた。

「実家に帰って、一緒に花火を見た?」

「そう。だから線香花火を急にしたくなってね。お前に買ってきてもらったんだ」

「確かに、線香花火って書いてあったのは不思議に思ったな。でもお前のことだから何か考えてのことだとは思ったよ」

「まあ、とりあえず酒でも飲もうよ」

 僕らはテーブルに向き合って座り、缶ビールを飲んだ。そして煙草を吸った。部屋の中はやけに静かに感じた。僕は急に視界が広がって、部屋の隅々まで見えているような気がした。僕は木村に香織のことを話し、木村は珍しく聞き役に回っていた。

 酒に酔うと、僕らはベランダへ行って、外の風を浴びた。僕は木村が買ってきた線香花火に火をつけた。火花がバチバチと生じては消えていく。

「お前、香織って幼馴染のこと好きだったんじゃないのか?」

 木村はベランダに足を出して、部屋の床に座りながらそう言った。

「もしかしたら好きだったかもしれない。いやそれ以上に大切な存在だったんだ」

 線香花火はぽとりとベランダに落ちた。僕は自分の瞳に涙がにじむのを感じた。僕の脳内にふいに香織の笑顔が鮮明に浮かんだ。背景は夜で、大きな花火が空に広がっている。花火がはじけるたびに香織の表情が映る。

「花火が見れてよかったね」

 僕は香織がそう言ったのを思い出した。香織は確かに僕の記憶の中に存在していた。

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花火 @kurokurokurom

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