第3話
九月になり大学の講義は始まった。僕はその日、文学の授業に出ていた。この授業を取っている知り合いはいなかったので、僕は大きな教室の隅の机に座っていた。五十歳くらいに見える教授が、聖書について講義していた。窓の外は開いていて、緑色の植物の葉が見える。太陽に照らされて濃い緑色だ。秋の風が教室には吹き込んでいて心地がよかった。僕の机には講義のプリントが並んでいる。僕はぼんやりと教授の講義を聞いていた。
講義が終わると僕は教室を出た。廊下には派手な服を着た学生たちが大きな声で話をしている。僕は彼らを通り抜けて、建物の外に出た。スマートフォンを見たとき、母親から電話がきていた。僕は電話をかけなおした。電話は数回の着信音の後につながった。
「大変なのよ」
母親は涙声だ。
「何が?」
「香織ちゃんがね。交通事故で死んじゃったの」
僕はその事実をうまく飲み込めなかった。だから香織の死が自分とは無関係のことのように感じた。
「それはいつの話?」
「ついさっきよ。連絡を貰ったの」
母親は事故について聞いた話を僕に事細かに話した。僕の記憶の中にいる香織はもう死んでしまってしまったのだ。しかし、いつまで経っても、この世界にまだ香織はいる気がした。
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