17. hot summer

連日の暑さで妄想深まりました。


*****




「「あつい…」」






昼食後のリビング。

いつもであれば、食後は執務室で仕事をしているはずの悠祈ユウキが、今日はソファーで手足をだらしなく投げ出して寝そべったまま全く動かない。

ソファーの横に置かれたフットレストに寝そべるイヴもまた然り。





原因はこの猛暑。

毎年この暑さが厳しくなるころに屋敷でみかける風物詩。





恒例行事のようなそれは、ウィンたち屋敷の面々にとって悠祈ユウキのちょっとダメなところコレクションの一つである。

家令のエリヤでさえも微笑ましそうに見ている。

今の時期は特に急ぎの執務がないこともあるだろう。

急ぎの仕事があればどれほど悠祈ユウキが疲れていようがお構いなしに仕事をさせる家令なのだから。








しかし今年はそこに新たなメンバーが加わったようだ。

綾祇アヤギである。

悠祈ユウキの寝そべるソファーとは反対側の長いスツール。

背もたれがないからか、綾祇アヤギは手足を思う存分だらんと投げ出して唸っている。

この暑さが相当堪えるらしい。








「なんでこんな日に空調設備の魔道具が壊れるんだろう…」


「ぴぃ~(全くだ)」








絶望感あふれる悠祈ユウキの呟きをイヴが拾う。


ただでさえも暑さの厳しい今日。

不運は重なるもので、実は朝食後にいきなり空調設備がとまってしまったのである。

多少の魔力不足や故障であれば、屋敷の誰かが直せるのだが…。

万能家令のエリヤにも、実は最強墓守の悠祈ユウキにも、今回ばかりは修理不可。

魔道具の燃料である魔石が経年劣化で粉砕したからだ。

急いで馴染みの魔道具屋に連絡して手配を頼んだが、これまた間の悪いことに魔石の在庫切れ。

今日の夕方にならないと入荷しない、と言われたときの悠祈ユウキとイヴの様子は酷かった。


それでも午前中はなんとか仕事をしていたのだが、日が高くなりジリジリ暑くなってきて…昼には屋敷が丸ごと蒸風呂状態。

さすがに今日ばかりは屋敷中の窓という窓を開け風を取り入れようとするも、本日は無風。

エリヤが倉庫から引っ張り出してきた小型の風発生装置をリビングに設置するが、小型のためにそこまで風力がない。

昼食は暑さに負けている悠祈ユウキのためにウィンが作った、さっぱりしたサラダうどんを食べてすこし回復したかと思いきや…






冒頭にいたるわけである。







小型の風発生装置が生み出す風は涼しいとは言い難い生温さ。

こもった空気が少し流れるだけマシ程度だ。

エノクは部屋の片隅で膝を抱え座り込んだままキノコ栽培にいそしんでいる。

あまりにも不運に見舞われ、さらにここまで暑さに負けている悠祈ユウキを見たエノクは、主のことだというのに大笑い。

腹を抱えてひいひい言うほどに。

ソファーに寝そべったまま横目でちらりとそれをみた悠祈ユウキに「寄るな。(その服装は)暑苦しい」と言われた成れの果てである。







悠祈ユウキサン、綾祇アヤギクン、イヴ、氷持って来ましたよ~」







厨房から氷枕を手に戻ってきたウィンは、動くことすら放棄した綾祇アヤギたちを介抱する。

綾祇アヤギ悠祈ユウキの頭の下には氷枕を、イヴには凍らせたタオルを背中にのせる。







「「「あ゛~~いきかえる~」」」






思いがけず揃った一言に、エリヤもウィンも苦笑するしかない。

精霊体であるウィンも、もとは天界人であるエリヤやエノクも、温度というものを感じないのだが…想像以上に生き物には耐えられない暑さのようだ。

魔道具屋との約束の時間まではまだ5時間はある。

それまでなんとか持ちこたえさせるために、今日は手厚くお世話するしかないと思った使用人たちだった。











■■■






「「「直ったーーーーー!!!!」」」









約束の時間より早めに来たなじみの魔道具屋は、屋敷内のあまりの暑さに驚いて急いで修理をしてくれた。

今朝ぶりに動いた空調から涼しい風が流れると歓喜の声をあげる悠祈ユウキたち。

暑さに負けてだらける以外の問題がなにもなく過ごせたことにほっとする使用人たち。


今年の夏はまだ始まったばかり。

できれば今回のようなことは勘弁願いたいところである。









「そういやユウキ様、なんで魔術使わなかったんだ?」


「!!!」








エノクの何気ないひと言に悠祈ユウキはハッとして視線を泳がせた。



(((忘れて…いらしたのですね/たな/ましたネ)))






やはりどこか抜けてる主であった。


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