04. Battle



悠祈ユウキサン…あの…」




夜警に行く準備をしていた悠祈ユウキのもとに、ウィンがやってきた。

いつも笑顔を絶やさない彼にしては珍しく落ち込んだ顔をしている。

どうしたんだ?と視線で問えば、言いにくそうに口を開いた。




「実は…綾祇アヤギクンがなかなか心を開いてくれなくて…」





綾祇アヤギ

2か月くらい前に死神たちの“霊力狩り”から救い出した少年。

あの日からずっとここで一緒に生活しているものの、悠祈ユウキたちに壁を作っていてなかなか打ち解けられずにいる。





「そうかあ…。彼の身に起こったことを考えれば、仕方がないのかもしれないね。今はもう少し様子を見よう。ただし、夜は出歩かないように注意してて」



「…わかりました…」







■■■






悠祈ユウキサン!!!綾祇アヤギクンが…っ!!」





真っ青な顔をしたウィンが、夜警を終えて戻ってきた悠祈ユウキの部屋に駆け込んできた。

その慌てぶりから云わんとしていることが分かった悠祈ユウキは、再び十字架の剣を手に取った。





「ウィン、行くぞ!」


「はいっ!」





そうして、ウィンと悠祈ユウキは屋敷を飛び出した。








■■■







「へえ~、こんなに美味しそうな人間がまだ居たとはねー」





久しぶりに狩りに出た紫都シト

死神センサーに反応した方に行ってみれば、まだ高校生くらいの男の子。

しかし、纏う霊力は極上のエモノ。

紫都は思わず舌なめずりをして近づいた。





「誰だよ…っ!!!」





綾祇アヤギは近づく紫都シトから逃げるように後ずさりをした。

しかし、薄ら笑いを浮かべたままの紫都シトはどんどん近づいてくる。





「死神、かな。それにしても、まだ君みたいな子がいたなんてねえ…」



「くっそ…!死神かよ!!」





嫌なことを思い出し、思いっきり眉をしかめる綾祇アヤギを見て、紫都シトは楽しげに笑った。





「いいなあ、その顔。食べちゃおうかと思ったけど、死神にするのも悪くないねえ。そうしよっか」



「お、おれは!死神になんてならないっ!!」





ギッと睨み付ける綾祇アヤギににっこり微笑み、ポケットに忍ばせていた指示棒を取り出した。

一振りすると、一瞬で死神のあの巨大なカマに変化する。

身長よりもずっと大きなカマを見て怯えたような目を見せた綾祇アヤギ

紫都シトはスッとカマを振り上げた。





「Welcome to my world...」





綾祇アヤギが思わず目をつぶった瞬間…








キィィィィィ…ン!!!








「…悪いけど、この子は渡せないよ」





突然聞こえた甲高い金属音と静かな声に驚いて目を開けると、目の前には真っ白な背中。

片耳から垂れ下がるモノに見覚えがあった。

さっきまで自分を匿ってくれた人。

自分が逃げてきた人。






「…悠祈ユウキ…また君なの…」






綾祇アヤギを襲おうとした男のカマは、悠祈ユウキの持つ十字架の剣に受け止められていた。

相手はさして驚いた風もなく悠祈ユウキを見返している。





「この子は僕の保護下にある。死神なんかにさせるつもりはないよ」





いままで見てきたこの人の持つ雰囲気とは違う怜悧な様子に、綾祇アヤギ悠祈ユウキの背中から目を離せない。

悠祈ユウキの後から追ってきたウィンは、呆然としている綾祇アヤギにそっと近づき、持ってきたコートをかけてやる。

少年は一瞬びくりと肩をすくませたが、ウィンの顔を見るとほっとしたような顔を見せた。





「帰ろう」





短く告げる悠祈ユウキに、ウィンが頷き、綾祇アヤギを連れて行こうとする。

そんな悠祈ユウキに向かって紫都シトが声をかけた。





「まさか、この私が、君たちをこのまま帰すとでも?」


「…ここが僕の領域テリトリーだとわかっていてのセリフかな?」






そう冷たく言い放つと、悠祈ユウキは手に持っていた十字架の剣を握り直す。

悠祈ユウキの後ろに立つウィンも、綾祇アヤギを背に庇いながら臨戦態勢をとる。

振り返った悠祈ユウキの冷え切った視線に、自分が不利な状況だと察知した紫都シトはそれまで構えていたカマを一振りし、元の指示棒に戻してしまった。





「今日のところは手を引くよ。次に会ったときは、その少年ともども、私たちの仲間にしてあげよう」



「………行こう」





紫都シトの言葉には何も返さず、悠祈ユウキきびすを返して屋敷に向かう。

その後ろをウィンと綾祇アヤギが追いかける。

紫都シトは、そんな3人を黙って見送った。

口元に笑みをたたえながら…。





「つくづく、君は面白い男だね…悠祈ユウキ





紫都シトのつぶやきは突然の風に掻き消された。

次の瞬間、その場にもう、怪しげな笑みをたたえた男はいなかった。


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