第2話
「眩しいなぁ……。」
春のあたたかな陽気は新学期の始まったばかりの放課後の学校に活気を与えているようで、桜の舞うグラウンドでは運動部が場所を目いっぱいに使いながら元気に走り回っていた。
隣の教室へと向かう。四月の柔らかな日差しの当たるその席に、その人はいた。
「すぅ……。」
日光の当たるがままに体をまかせ腕を枕代わりにし、気持ちよさそうに寝息をたてている。私との待ち合わせをすっぽかして寝ているというのに起こすのが心苦しくなってくるほどの清々しさだ。
「お兄さん、起きてください」
「ん……、椛……?いや遊姫ちゃんか」
私と姉の椛は双子だが、宵宮さんに姉と間違えられたことはない。そんなに似ていないとも思わないのだが、お兄さんとお姉さん曰く言動が違うのですぐにわかるそうだ。
「なにしてるんですか、授業終わったら校門に来てくださいってメールしたじゃないですか」
「あ……、ごめん本読んでたから……」
「昨日借りてたやつですか。無理して読んでたら体壊しますよ」
「大丈夫大丈夫。いや、そんなことより待ち合わせ遅れてごめん。行こう」
そう言うとお兄さんは数回伸びをして鞄を持って立ち上がった。
教室から廊下へ、そして校門を通って目的地へと向かう。歩幅を合わせてくれているのがわかる。一緒に下校するのは小学校以来だろうか。突然お兄さんは顔を覗き込んできた。
「遊姫ちゃん、背伸びた?」
「お兄さん、それってもしかして小学校のころと比べてます?さすがに怒りますよ?」
三年前。小学校のころ、私とお姉ちゃんは特に考えもなく近くの公立中学校へ進んだけれど、お兄さんは私たちに一言も告げずにこのあたりでは一番の他県の私立中学へ進んだ。私たちはお兄さんがそんなことをするなんて思ってもいなかったからとても驚いた。お姉ちゃんはなんでもないような顔をしていたけれど、何も思わなかった訳はない。
「でさ、そのお兄さんって呼び方と敬語をそろそろやめてほしいんだけど」
初めてお兄さん―瀬戸川宵宮と出会ったのは私たちが小学校に上がるころだった。家が隣同士だったこともあり、毎日のように彼の6つ上のお姉さん、瀬戸川茉莉と一緒に遊んだ。いま思い返すと6つも下の私たちとよく遊んでくれたものだと思う。それから6年間。お兄さんが県外の中学校へ進学するまで私たちは毎日のように遊んでいた。外で遊ぶこともあったが、お姉さんの持ってきたボードゲームで遊ぶことが多かった。お兄さんと呼び始めたのは最初からだ。同級生だということは分かっていたが、私は生まれたときから数分早く産まれた姉をお姉ちゃんと呼んでいたので、私より生まれの早かった彼を自然とお兄さんと呼び始めた。
「嫌です。ずっとこう呼んできたのにいまさら変えるのは恥ずかしいじゃないですか」
お兄さん自身半ばあきらめているのかこれ以上追及はなく、その代わりにお兄さんは肩をすくめた。
「ところで椛はどう?」
「お姉ちゃんですか……。」
私の双子の姉、瀬戸川椛(もみじ)。高校に入ってから、一週間に一度のペースでしか学校に来なくなった。本人に理由を尋ねても返事はない。
「ご飯はちゃんと食べてるの?」
「はい。学校へ行っていないこと以外は普通に生活してます」
最低限やらなければならないことはちゃんとやっているようだが、まるで精神が桂剥きされているかのように毎日少しずつ、少しずつ姉はやつれていっている。私はそう感じる。学校に来ない日は代わりに図書館へ行っているようで、数日に一回大量の本を鞄に詰めて帰ってくる。そんな姉を見るのは正直つらい。今日一緒に下校しているのも姉をなんとかして学校へと引きずり出すためだった。
「そういえば昨日部屋に入ったときはどうでした?」
ここ数日、姉をなんとか学校へ来させることはできないかと二人で一緒に説得しているのだがあまり成果は芳しくない。
「昨日か……。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます