家出と日記と停戦協定/ナディア

 最初に『彼』と出会ったのは、今から七年ほど前のこと。

 ワタシが六歳くらいの頃だ。


 故郷は中東のとある小国で、常に内乱が絶えず、命が軽く扱われる環境でワタシは生まれ育った。

 ワタシが生まれるずっと昔から、国民の大半は大らかで気さくな人が多く、生活が苦しくても貧しくても、幸せに生きていたと聞かされていた。

 だけど、それは嘘だ。

 人の心も国も荒れ果てた姿を見て、ワタシは子供ながらにそう思った。


 複数の先進国が「新たなビジネスチャンスを得る都市開発」だの「地元住民の生活をより高水準にするための支援活動」だのと旨い話を持ち掛けては国民をそそのかし、こぞってワタシが住む国の土地やレアメタル採取を目的にしてきたのがそもそもの始まりだった。

 そして特に力の強いふたつの国が、ワタシ達の国の上で勝手に領有権や所有権を主張し、旨い話をエサに地元住民をそれぞれの陣営に引き摺り込んで武器を持たせ、互いに殺し合わせた。


「苦境から独立するために」

「国を豊かにするために」


 貧しさと、大人でも字が読み書き出来ない者が多い国民の無学さを逆手に取り、大義名分を吹き込んで洗脳させ、ワタシの国での利権を巡ってワタシたち地元民を代理戦争の駒として利用した。


 結果、多くの同胞が血を流し、死んでいった。

 両親や兄弟を亡くした子供が溢れ、彼らは生きるために食べ物を盗み、大人を襲って金目の物を奪い、必死に明日があるかも解らない今日を生き延びていた。

 それは両親と兄と妹を失ったワタシも例外ではない。

 年端も行かない子供たちは、戦火とはまた別の脅威に晒されていた。親を失った子供たちを、慈善事業団体の名を騙る犯罪者に誘拐されるのも日常茶飯事だ。


 当時のワタシは何も知らな過ぎる子供だったため、誘拐された子供たちの末路を知った時の衝撃は凄まじいものだった。


 ある子供は性奴隷に。

 ある子供は洗脳されて少年兵に。

 ある子供は臓器売買のために攫われ、解体される。


 『彼』に助けて貰えなかったら、ワタシもいずれかの運命を辿っていたことだろう。


 初めて出会った時から『彼』は命の恩人で、特別な人だ。

 今でもワタシは『彼』に憧れ、傍に寄り添えることを強く望むくらいに。



 ***



 ワタシが鋼和市北区の一角にあるクロガネ探偵事務所に転がり込んで、はや三日目の朝を迎えた。


 目覚めてすぐ、ワタシは気配と足音を消して事務所二階の自室から出ると、階段を下りて一階に向かう。

 この探偵事務所の主であるクロガネこと黒沢鉄哉――そう名乗る以前から、ワタシが『クロ』と呼んでいる青年は、仕事場でもあるリビングの床に布団を敷いて安らかに眠っていた。

 クロはとても寝相が良く、寝返りはおろか身じろぎも滅多にしない。寝息も穏やかかつ静かなため、まだ幼いワタシに添い寝をしてくれた頃は、実は死んでいるんじゃないかと不安に思ったことが度々あったくらいだ。

「相変わらずだナ……」

 小声で呟きつつ、そ~っと彼の布団の中に忍び込む。

 大きな物音や殺気がない限り、彼が目を覚ますことはない。

 現にこうして彼に抱き着いて足を絡ませても、起きることはなかった。

「はぁ……あったかイ……落ち着ク……」

 懐かしい彼の匂いと体温に心が安らぐ。この安心感は本当に久しぶりだ。


 ……さて、このまま至福の二度寝をしたいところだが、そろそろ起こそう。

 ここにはワタシだけでなく、も居着いているのだ。余計なちょっかいを出してくる前に、ヤることはヤってしまおう。

「クロ……」

 穏やかに眠る彼の、その唇に自身の唇を重ねようとして――


「何をしてやがりますかぁッ!」


 ――ちっ、良いところで邪魔が入りやがった。


「ッ! 何事ふぁにごろッ!?」

 アレ――クロの助手にしてガイノイドである安藤美優の怒声に、クロが驚いて目を覚ました。彼の鼻をつまんでいた手を離す。

「おはよウ、クロ」

「えっ、ああ、うん、おはようナディア」

 戸惑いつつも、クロはワタシの名を呼んでくれる。

 ただそれだけのことでとても嬉しい。

「美優もおはよう」

 ワタシの後ろに居たミユにも挨拶するクロ。

 ただそれだけのことで少し面白くない。

「おはようございます。……それでナディアさんは今、クロガネさんに何をしようとしていたんですか?」

 パジャマ姿のミユが、目を三角にして問い詰めてくる。

「そろそろ起きる時間だから、起こそうとしただケ」

 しれっと答えると、

「それなら普通に起こしてくださいッ。布団に入る必要も、キ、キスして起こそうとする必要もないでしょうッ」

 顔を赤くし、漫画みたいに髪の毛を模した擬態放熱線から蒸気を僅かに漏らしながら、ミユはそう説教してきた。

「恋人にキスして起こすのは国際常識だロ?」

「ナディアさんはクロガネさんの恋人じゃないでしょうッ」

「キスして起こすのは国際常識で合ってるのか?」

 クロが疑問を挟んで来るが、たぶん合ってる。古今東西の恋愛作品にしっかり描かれているのだから間違いない。

「百歩譲って同衾はともかく、キスは駄目ですっ」

 ミユが妥協案を出してそう言った。

 同衾も禁止しないのは、いずれ自分もしようと考えていたからだろう。このビッチめ、ガイノイドの分際でワタシのクロに色目を使うんじゃない。ぶっ壊すぞ。

「そんなに怒らなくても良いだロ? 人工呼吸の練習も兼ねてクロを確実に起こそうとしただけだシ」

「鼻をつまんでいたのはそれか」合点がいったクロ。

 鼻をつまんで口を塞げば嫌でも起きる。

 おまけにキスも出来て、二度美味しい。

「屁理屈言うんじゃありませんっ。窒息の危険もありますからマウス・トゥ・マウスも駄目ですっ」

 目くじらを立てるミユ。

 クロの嫁を気取るのだけはやめてほしい。

 ぎゅっとクロに抱き着く。「ああッ」とミユが悲鳴を上げる。

「オマエにはやらン」

「何ですとッ!?」

 ミユと睨み合っていると、クロが欠伸を噛み殺しながら言った。

「朝っぱらから仲良いな、お前ら」

「「良くないッ!」」

 ……思わずハモってしまったけど、仲は良くないぞ。絶対に。




 今日は日曜日だ。

 日曜と祝日は探偵事務所も定休日であるため、午前中にライフワークでもある職場の掃除を簡単に済ませた後は、クロもミユも思い思いの時間を過ごしている。


 休日だけあって普段は黒いカジュアルスーツのクロも、オフの日は割とラフな格好をしている。だけど黒の上下であることは変わっていない。前の職場で黒服を着る機会が多かったことに加え、ファッションについては無頓着だからだろう。

「派手過ぎず、周囲に溶け込める無難な服であれば何でもいい」とは本人の弁だ。


 そのクロは、リビング兼オフィスのデスクに着いて拳銃の手入れをしていた。


 45口径ガバメント・クローン――キンバー1911。

 かつてクロが愛用していた銃だ。


 鋼和市において、探偵や警備員など危険と隣り合わせな職業に限り、護身用として拳銃の所持を認める制度がある。

 最近は市内で発生するオートマタ犯罪の深刻化に伴い、市から支給される38口径では威力不足だという現場の声から、より強力な弾丸を使用する拳銃が所持できるように制度が改定された。

 クロも自前の45口径の旋条痕とシリアルナンバーの登録をデルタゼロかつての仲間に依頼して、こっそりと済ませておいた。改定前に市が認可していない45口径を所持していたことについての追及を避けるためだ。

 とにもかくにも、これで合法的に暗殺者ゼロナンバー時代の愛銃をいつでも使えるようになったわけだが。

(……皮肉だな)

 ワタシは率直にそう思った。

 探偵として表の世界を歩んでいこうと決めたクロの意志とは裏腹に、ずるずると古巣に引き戻されているような感覚を覚える。

 それはそれで、ワタシはちょっと嬉しい。

 やはり、彼はゼロナンバーワタシが居る所へ戻ってくるべきだ。

 ワタシと、昔の仲間が一緒にいる所へ。

 そう伝えようと来客用のソファーから腰を上げ、クロの元へ向かう。

「クロ」

「ん?」

 作業していた手を止め、クロはワタシを見る。

 と、そこへ。

「失礼します。コーヒーをお淹れしました」

 ミユが人数分のコーヒーカップを乗せたお盆を手に現れた。

 ……このタイミングで邪魔するなよ、ポンコツが。

「ああ、ありがとう」

 ミユが笑顔でクロに淹れ立てのコーヒーを差し出し、クロも穏やかな表情でそれを受け取る。

 ……面白くない。別にイチャついているわけでもないのに、何か面白くない。

 例え美優が、今は亡き獅子堂莉緒雇い主の娘の作品だとしても。

 彼の穏やかな表情は。優しい声は。力を振るう理由は。

 自分や元の仲間のためだけにあるべきだ。

 間違っても、機械人形オートマタのためにあってはならない筈だ。

 所詮は機械で、道具なのだから。

「ナディアさんもどうぞ。ミルクと砂糖入りで良かったですか?」

 気さくに訊ねてきたミユに、とりあえず頷く。

「ナディア」

 無言でコーヒーを受け取ったワタシを、クロが咎めた。

「……アリガトウ、ゴザイマス」

 不本意ながらミユにお礼を言った。くそ、面白くない。

 口元にカップを寄せて、

「フー、フー、フー、フー」

 コーヒーを吹き冷ます。

 そして、一口コーヒーを啜って――


 ブフッ!


 ミユに向かって噴き出した。

「ちょっ……!」

 ミユが着ていた白いパーカーの所々が、まだらなコーヒー色に染まる。

「……ゴメン、まだ苦かっタ」

「い、いえ、大丈夫です……」

 汚れてしまった服を悲しそうに見つめたミユは、

「ちょっと着替えてきますね」

 いそいそとオフィスから退室した。

 よし、お邪魔虫が消えた。

「……ナディア」

 クロの低い声に振り返ると、彼の怒った顔にビクッとする。

「今の、わざとやっただろ?」

「……何のコト?」

 咄嗟にとぼけるも、目が泳いでしまう。

「お前が美優を嫌っていることは薄々感じていたし、何か事情があるんだろう。すぐに仲よくしろとは言わない。だけど、今のは許さないぞ」

 想い人の剣幕に怯えながらも反論する。

「クロは、あの人形の腕を持つのカ?」

「人形じゃなくて美優だ、ちゃんと名前で呼びなさい。それと持つのは腕じゃなくて肩だ」

「……ミユの肩を持つのカ?」

 律儀に言い直す。

「肩を持つ以前の話だ。お前がしたことは、人としてやってはいけないことなんだよ」

「人としてやってはいけないコト?」

 俯く。本来ならばぐうの音も出ない正論であるが、一体どの口が言うのだろう。


「……散々人を殺しまくっていたくせ二、いまさら善人ぶるのカ?」


 それは、とクロは言葉に詰まった。

 クロも自分と同じ人殺しのくせに。

 二年前、クロはゼロナンバーを引退し、ワタシの前から姿を消した。

 引退の理由は、今も納得がいかない。

 おまけに守秘義務やら情報漏洩防止やらの規律厳守のせいで、会いたくてもコチラからは会いに行けなかった。

 実に二年もの間、言葉を交わすことすらも出来なかったのだ。

 それがワタシにとってどれほど寂しくて悲しかったのか、解らないのだろうか?


「……昔のことは関係ないだろ」


 ――関係ない? いま関係ないと言ったのか?


 クロと過ごした日々が、ワタシにとってどれ程かけがえのないものだったのか、どれだけ救いになったことか、それを「関係ない」の一言で一蹴したのか?


 ワタシと一緒に過ごした時間は、どうでもいいことだったのか?


「今はお前が美優にやらかしたことについて説教してるんだ。誤魔化すんじゃない」

「やっぱリ、クロはアイツの腕を持つのカ……」

「肩だ、肩。俺が言いたいのは」

「うるさイッ!」

 声を荒げてクロを見上げる。クロの目に映るワタシの顔は怒りに歪み、自分でも解るくらい涙をたたえていた。

「アイツばっかり構っテッ! ワタシの前から居なくなったのモ、ワタシのことを嫌いになったからでしョッ!?」

「そんなわけないだろ!」

 クロが椅子から立ち上がり、大声で否定する。

「――ッ!」

「ナディア!」

 クロの制止を振り切り、ワタシは探偵事務所を飛び出した。



 ***


 ――設定変更――


 ――英語音声入力の文章を日本語に翻訳……完了――



 ――これに喋ればいいの……わ、本当に文字が入ったすごい。声だけで日記がつけられるなんて本当にすごい。あれ、これどうやって消したり書き直したりするんだろ? ねぇ、これってどうやれば……そのままでいい? 解った。

 えっと、これが日本に来て初めての日記だ。昔お母さんに「一日を振り返って日記をつけなさい。字の練習にもなるから」と言われたのがきっかけで始めた。

 今日からワタシは、ワタシが生まれ育った国から遠く離れた日本で暮らすことになった。なので、その日のことをここに書いておくことにする。

 ねえ、これどれくらい文字が入るの? え、たくさん? 本当に?

 そんなに入れてページ? がなくならない?

 それじゃあ、ずっと喋っていることが記録されて今みたいにほらこれ(以下省略)



 ***



「……やっちまっタ……」

 その場の勢いで事務所を出てしまった。

 しかも着の身着のまま、財布と兼用しているPIDも置いてきてしまった。

 取りに戻るにしても、気まずくて帰れない。

 こうなったら一度獅子堂の屋敷に戻るか?

 いや、そんなことをすればもうクロとは会えなくなってしまうかも。

「(ぶるっ)寒イ」

 十月上旬とはいえ肌寒く感じる。上着も着てこなかったから尚更だ。

「(ぐ~)ひもじイ」

 所持金はゼロのため、コンビニで食べ物も調達できない。

「(そわそわ)不安ダ」

 謹慎中のため、護身用の銃も今は手元にない。

「どうしよウ……」

 いや本当にどうしよう……。

 自業自得とはいえ、途方に暮れる。

 ここまで心細く、寂しい思いをしたのはいつぶりだろうか。

「クロ……」

 ここまで追い掛けてきて連れ戻してくれないかと期待してしまうが、流石にそれは虫が良すぎる上に都合が良すぎる。

 一体どんな顔でクロと会えば良いのだろう。

 それに戻ったところで、事務所にはミユも居るのだ。気まずいことこの上ない。

「はぁ……」

 大きな溜息を一つ。

 行く当てもなく、とぼとぼと街中を歩いていると。

「あれ? ナディアちゃん?」

 聞き覚えのある声に俯いていた顔を上げる。そこには見覚えのある顔があった。

「……マナ」

 クロの命の恩人で医者でもある海堂真奈。

 手に提げている食材が入った袋から察するに、買い物帰りなのだろう。

「どうしたの? こんな所でしょぼくれて」

「マナぁ……!(がばっ)」

「えっ、ちょっと何っ!?」

 いきなりワタシに抱き着かれて戸惑うマナ。

「お願イ! マナの家に泊めテェエエエ……!(ズビッ、ぐりぐり)」

「はぁッ? 何があったの……って、鼻水を服に擦り付けないでェエエエ……ッ!」


 この後、マナの家に居着いた。

 そして汚れた服をめちゃくちゃ洗濯した。マナが。



 ***


【獅子堂重工に引き取られて一年目】


 〇月〇日

 

 獅子堂重工。世界でもトップクラスの大企業にしてその会長が住む屋敷に、ワタシは引き取られた。

 そして戦火に晒された中東にある故郷で、外国人の人攫いからワタシを助けてくれた(拾ったともいえる)『彼』の元で、しばらくお世話になることになった。

 聞けば、『彼』には名前がないらしく、この屋敷のお嬢様から『クロ』と呼ばれているらしい。

 由来は黒い髪と黒い瞳、そしていつも黒い服装をしているから『クロ』。


 クロは口数が少なくてあまり笑うこともなかったけど、ワタシに対して本当に親切にしてくれた。


 食事の時は、それまで食べたことのない料理の数々と美味しさのあまり、勢いよく口に運んではむせ込むワタシの背中を叩いて、汚れた口元を拭いてくれた。


 お風呂はそれまで湯船に浸かる習慣がなかったため、溺れたりしないよう最初の内は一緒にお風呂に入ってくれて、ワタシの髪や背中を洗ってくれたりもした。


 寝床は当初、ベッドをワタシが使い、すぐそばの床に布団を敷いてクロが寝ていた。

 だけど、毎晩家族が殺される悪夢にうなされては目を覚まして泣いているワタシを見かねたのか、同じベッドで添い寝をしてくれるようになった。

 その日からワタシは悪夢を見ることなく、スヤスヤ快眠寝覚めもバッチリになる。


 ……翌朝のクロの寝巻が、ワタシの涎とか鼻水とかでぐっしょり濡れていたけど。



 〇月×日


 クロに連れられて屋敷に住んでいる獅子堂莉緒お嬢様と初めて会った。

 彼女はとても嬉しそうにワタシのことを歓迎してくれた。

 リオは「妹が出来たみたい」と、とても喜んでいた。


 リオは病弱で屋敷の外には滅多に出られないことを除けばとても頭が良くて、とても英語が上手だった。すぐに打ち解けて、暇さえあれば彼女とよくお喋りしていた。

 その甲斐あって、ワタシも日本語を少しずつ覚えてきたように思う。



 ×月△日


 突然、大人たちに連れられて変な建物に来た。机と椅子がたくさんあって、『学校』みたいな所だ。

 ここでは、ワタシの他に同年代か少し年上の子供たちが十人以上は集まっていた。人種も国籍もバラバラで、日本人以外の全員が母国語を日本語に変換できるインカム型の機械を片耳に着けている。

 ここでワタシ達は様々な『先生』から基本的な一般常識と教養を学ぶことになった。ワタシ以外にも学校に憧れていた子供は数多く、ワタシ達は毎日楽しく勉強した。



 □月××日


 年長のクラスメイトから聞いたけど、どうやらこの建物は、獅子堂重工と関わりがある児童養護施設らしい。ワタシの故郷で言うところの孤児院みたいな感じだ。

 ここでワタシ達は、読み書き計算や体育の他に、銃やナイフなどを使った護身術も教わっている。

 ワタシ達は全員、紛争や犯罪に巻き込まれて死ぬ寸前で助けられた子供がほとんどだった。

「自分の身は自分で守る、そのために必要な勉強だ」と、先生が言っていた。

 そうだ、その通りだ。ワタシ達は生きるために、真面目に勉強した。


 何故か「護身術の勉強については秘密にするように」と、先生からしつこいくらいに言われた。

 何でも、「実は強いことを隠していた方がカッコイイ」とのこと。

 なるほど、確かにそれはカッコイイ。

 それならば秘密にしておこう。

 クロやリオの前で悪いやつをやっつけて、二人を驚かしてやりたい。

 その日が来るのがとても楽しみだ。



 ●●月□日


 久しぶりにリオと会えた。

 そして嬉しいことに、クロとも会えた。

 最近は仕事やら任務やらで会えない日が多くて、とても寂しかった。


 どうもワタシが勉強に励んでいる時に、二人だけでゲームをしたり映画を見たり小説や漫画を読んだりして遊んでいたらしい。

 ズルイ。ワタシも二人と遊びたかった。

 二人は困った顔で謝って、お詫びにと手作りのお菓子をご馳走してくれた。

 とても美味しかったので許すことにした。


 その後、三人でス○ブラとかいうゲームをした。とても面白かった。

 ちなみにクロが一番弱かった。



 〇●月△日


 そういえば、ワタシ以外の子供と二人は会っていないことに気付き、不思議に思ってクロとリオに訊ねてみた。


 リオは、ワタシがクロにしがみついて離れようとしないことを知って、ワタシに興味を持ってくれたのがきっかけだったそうだ。

 それに彼女は体力的な問題もあって、たくさんの子供たちと関わることが出来ないという。


 クロの方は、ワタシが懐いているのを見た上司から面倒を見るよう指示されたとのことだった。


 何となく、ワタシだけが特別な感じがして嬉しかった。



 今日の授業で、初めて実銃を使った模擬戦を行った。ペイント弾だったけど、当たったら泣きたくなるくらい痛かった。特にワタシだけ『殺され』まくって青やらピンクやら派手な色に全身がベトベトに汚れてとても悔しかった。


 シャワーを浴びてもインクが中々落ちないし、全身がアザだらけだ。

 しばらくは二人に会うのを控えようかな。今の姿を見たら、きっと心配する。



 △月□×日


 髪をばっさり切ったワタシを見て、クロとリオがとても驚いていた。

「いめちぇん」と覚えたての言葉を使ってごまかす。

 本当は、髪に着いたペイント弾のインクが中々取れないから思い切って短くしたのだ。

 リオが残念そうに短くなったワタシの髪に触れる。

 ワタシの長かった髪を櫛ですくのがお気に入りだったらしい。

 ちょっと悪いことしたかな。



 ***



「ふーん、それで家出したんだ」

「まぁ、そんなトコ……」

 マナのマンションで、一緒に夕飯のビーフシチューを作りながらこれまでの経緯を話した。

「お、良い匂い……ナディアちゃんは鍋料理、得意なんだね」

「割と得意な方だナ」

 こう見えて野外でのサバイバル経験も人並み以上に豊富なのだ。

 イナゴや川魚に兎や蛇、時には猪や鹿などの大物を食材として現地調達し、調理は大体が煮込みか炒め物になることが多い。

 そのため、鍋料理は得意中の得意なのである。


 ちなみにマナは自他共に認める料理オンチのため、ワタシが指示した通りに材料を切り刻む係を担当している。



「それじゃ」

 テーブルの真向かいに座ったマナが、手を合わせて音頭を取った。

 ワタシも彼女に倣って手を合わせる。

「「いただきます」」

 炊き立ての白飯に出来立てのビーフシチュー、そしてあらかじめ加工されたスーパーの野菜サラダ。

 マナとの会話を交えながら、個人的に豪華な夕食を摂る。

「出て行ったのは結局さ、鉄哉にヤキモチしたからでしょ?」

 ビールを一口飲んだマナが、家出の話を切り出した。

「ヤキモチってあれカ? ニッポンの年末年始で食べるあれカ?」

「あーうん、全然違うかな」

 違うのか?

「要は、美優ちゃんにばかり構ってる鉄哉に、ナディアちゃんが嫉妬したからでしょ?」

「SHIT?」

「ジェラシーって意味よ」

「ウ……」

 冷静に思い返せばまさにその通りなワケで、今更ながら恥ずかしくなってきた。

「図星ね。顔が赤いわよ」

 にやりとするマナ。

「……気のせいダ。きっとこのドリンクのせイ」

「ジンジャーエールにアルコールは入ってないわよ、未成年」

 むゥ、と唸っていると。

「でも、気持ちは解るわ。確かに鉄哉は美優ちゃんには甘いわよね」

 マナは同意するように頷く。

 彼女もクロのことを好意的に見ている。その点で言えばマナも、ミユがクロを半ば独占状態にしている現状に思う所があるのだろう。

 マナのことは好きだけれども、ワタシは誰が相手だろうがクロを渡す気はないぞ。

「いや、甘いというか過保護というか、どこか父性を拗らせた感じよね」

「やはりミユは、ズルしてクロに取り入ったのカ……」

 逆手に持ったフォークで、サラダにあったトマトをブスリと刺し貫く。

 あのメカビッチめ、いつかこのトマトのようにしてやる。

「いや、ズルの『不正』じゃなくて、父親らしいって意味の『父性』よ」

 マナがどこか呆れた風にそう言った。

 ……がっでむ。日本語って本当に難しいなオイ。

「美優ちゃんのお母さんは莉緒お嬢様でしょ? お嬢様には鉄哉もかなりお世話になったし、恩返しとして美優ちゃんを大事にしているんだと思う」

「恩返し、カ……」

 いかにもクロらしい。

 ワタシもリオには本当に良くして貰ったし、ワタシだって彼女に対する恩がないわけじゃない。

「……でも最近は、鉄哉も美優ちゃんに対する接し方が変わって来たわね」

「ンダトォッ!?」

 ガタンッ、と椅子を倒す勢いで立ち上がる。聞き捨てならんぞ、それは!

「ちょ、落ち着いて」

「クロはメカフェチなんカ!? ならワタシもサイボーグになってやル! マナ、改造手術ダ! 今すぐショッ●ー本部かゴル●ムにカチ込むゾッ!」

「勢いだけにも程があるでしょ! ていうか、ショ●カーとゴ●ゴムって相手が悪いわよッ!?」



 ***



【二年目】


 〇月○日


 今日の訓練で初めてライフルを使ってみた結果、ワタシには狙撃の才能があったらしい。遠く離れた的の中心にいくつも弾が命中していた。

 ワタシにも得意なことがあったと解って、とても嬉しかった。



 ○月×日


 今日はクラスメイト達と演習を行った。八対八のチーム戦。

 結果はワタシ達の圧勝。

 相手チームの四人をワタシが仕留めた。

 これは嬉しい。チームの役に立ったばかりか、いつもワタシにペイント弾を撃ち込んで笑っていた連中に一泡吹かせたのだから。

 ワタシは狙撃の天才だ。

 クロとリオにも教えてやりたかったが、先生から固く口止めされている。

 どうして教えては駄目なのだろう? こんなにもワタシはがんばったのに。

 そういえば、最近ふたりに会ってない。

 クロとリオに会いたいなぁ。



 〇●月××日


 今日も授業だ。


 読み書き計算に加えて、最近は国内外の社会情勢とか宗教とか政治とか難しいことを学んでいる。

 ちなみに社会科の授業に関してはビデオ映像を見て勉強している。

 どうせだったらアニメとか映画とか観たい。

 大して面白くもないし、所々で一瞬だけ変な映像が映ったりするのだ。

 ノイズだろうか?

 きっと録画ビデオを重ね撮りでもしているのだろう。

 先生はそこまで適当というか、雑な感じはしなかったのに、意外だ。



 ×月△日


 明日から久しぶりの連休で、ワタシも含めた生徒たちがどこか浮ついている。

 放課後、ワタシ達が武器を使った秘密特訓をしていることをうっかり口にしないよう、ひとりひとり特別カウンセリングを受けた。

 ワタシも白衣を着たおじさんと何か話したような気もするけど、内容は全然憶えていない。何の話をしたんだっけ?


 それよりも、明日はリオの所に行くから楽しみだ。

 クロもいるといいなぁ。



 ×月○日


 リオの体調が悪いらしく、面会制限を喰らった。せっかくの休みなのにショックだ。リオは大丈夫だろうか?

 屋敷の書庫で漫画を読みながら時間を潰していると、クロと会った。

 クロもこの日は仕事が休みだったけど、リオと面会できるまで手持ち無沙汰だったらしい。

 暇人同士、ワタシはクロと一緒に過ごすことにした。


 クロがトレーニング室に足を運べば、ワタシも一緒に身体を鍛えた。

 先にへばって、一人ベンチを占領して休んでいたけど。


 クロが自室の掃除をしていたら、ワタシも一緒に掃除を手伝った。

 何故か掃除をする前よりも散らかしてしまい、クロから戦力外通告を受けて部屋の外に追い出されもしたけど。


 クロが自炊をしている時は、ワタシも食材の皮むきや切り分けを手伝った。

 うっかり指を切って泣いてしまい、その度に手当てをして貰ったけど。


 皿洗いを手伝った時は、手を滑らせて皿を割ってしまった。

 五枚目を割ったところで、テーブル拭きなど無難なものを任せられたけど。


 とても楽しい一日だった。


 結局、この日はリオと会えなかった。



 ***



(何アホなことやってんダ……)


 あの後、ワタシとマナは黙々と食事を済ませた。


 ふたり並んで食器を洗いながら、ワタシが落ち着いたのを見計らっていたマナは先程中断していた話を再開する。


「――てなわけで、コンビを組んでいる以上は鉄哉も美優ちゃんのことを相方として信頼してるって感じなのよ」

「それはまァ、知ってル……実際、この目で見てたシ」

 つい数日前に、ワタシとクロとエイハチが『黄昏タソガレ』と呼ばれる非合法組織と戦った時のことだ。(デルタゼロ? 知らんなぁ)

「ハイウェイで戦車型のオートマタが、ワタシ達もろとも自爆しようとした時、ギリギリまでクロだけはミユのこと信じてタ」

「……初耳よ、それ。また随分と危ない状況だったのね」

 今更だけど、と呆れるマナ。どこか呆れ慣れている。

「デモ、一緒にABS……チームを組んでいる時、クロはワタシのことだって信用してくれてるシ……」

「そりゃあ、自分の命を預けているんだから当たり前でしょ? ナディアちゃんだけじゃなくて、新倉さんのことも信用しているだろうし」

 実際に現場に居ないマナですらそう断言する。クロの人柄を知っていれば当然か。

「……だけど、クロはワタシのことを信じてくれない気がするんダ」

 まだ本人の前で話したことはない体験談を、マナに打ち明ける。


 それは、クロがまだゼロナンバーに所属していた頃。

 ワタシが標的を狙撃で仕留め、誇らしげにクロと合流した時のこと。

 その度にクロは、ワタシのことをどこか複雑な表情で褒めてくれていたのを覚えている。

 それはどこか辛く苦しそうでいて、どこか怒っているような印象を受けた。


「ふぅん……なるほど、ね……」

 話を聞いたマナが、どこか神妙な顔で頷く。

「もしかして、解るノ?」

「……ナディアちゃんが鉄哉とチームを組んだのはいつ頃?」

「えっと、十歳になる少し前に〈シエラゼロ・スナイパー〉になったから、四年くらい前」

 そう言うと、マナは何故か目を伏せた。

「十歳で殺し屋……本当に酷い……」

「マナ……?」

 彼女は悲痛な表情を浮かべていた。

 それはどこか、あの時のクロと似ている。

「……鉄哉はナディアちゃんのことを嫌ってなんかいないよ。むしろ好きで、大事にしたいと思っている」

「それは、どうしテ?」

「ほら、鉄哉って何気に子供には優しいでしょ?」

 ウンと頷く。

「紛争が絶えない国に居た小さい頃のナディアちゃんを、鉄哉は助けた」

 ウンと頷く。

「……多分だけど、鉄哉はナディアちゃんのことをんじゃないかな?」

「自分ト?」小首を傾げる。

「鉄哉も、四歳の頃に家族を失ったから。自分と同じように家族を失って泣いている子供を助けたかったんだよ」

 ワタシは黙ってマナの言葉に耳を傾ける。

「そして、助け出した子供たちは、自分と同じ殺し屋にだけはなってほしくなかったんだと思う。でも、ナディアちゃんはゼロナンバーになった。自分と同じような子供を生み出さないように何度も手を汚してきたのに、その努力が報われなかったのを目の当りにしたから、だから……鉄、哉は……ぅ」

 マナの声が次第に震えて口元を手で押さえる。ついには泣き崩れた。

 ワタシはしゃがんで彼女の頭を撫でる。

「マナ……」

 涙を流して顔を上げるマナに、


「……何で泣いてるノ?」


 涙に濡れたマナの瞳に、心の底から彼女が言わんとしていることが理解できないワタシの顔が映る。


「……え?」と、呆けたマナの顔はどこか間抜けに見えて、少し笑えた。


「ワタシは、


「どう、して……?」

 震える声で訊ねるマナ。

「どうしテ?」

 おかしいな、マナもクロのことが好きなら解るだろうに。


「クロの傍に居られるかラ、クロを守れるかラ、クロの敵を殺したいからに決まっているだロ?」


 さも当然に言って小首を傾げたワタシは。

 誇らしげに。

 どこか楽しげに。

 口の両端を吊り上げる。



「クロのためなら、ワタシは何だってやるヨ? 



 ***



【三年目】


 ×月●●日


 ワタシ達はもうすぐ実戦に投入されるという話を聞かされた。

 ゼロナンバー、クロが所属する部隊と合同で任務にあたるらしい。

 様々なことが頭に浮かぶ。

 大人たちの勝手な都合で故郷が紛争状態になって、家族を失って、ワタシも攫われそうになって、もう死ぬんだなって思った時に、クロに助けて貰った。

 今こそ、クロに恩返しをする時が来たんだ。


 ライフルの手入れをしていると、先生がワタシに言った。

 今度の作戦で結果を出せば、九歳のワタシが歴代で二番目に若い暗殺者になれるという。

 ちなみに、歴代最年少はクロで暗殺者デビューは八歳の時だったらしい。

 やっぱりクロはスゴイ。


 先生はワタシたち生徒の実力を、現役のゼロナンバーやご当主に見せる時が来たと喜んでいた。クロの後輩として絶好の晴れ舞台を用意してくれた上に、ここまでワタシ達を立派な暗殺者に育ててくれた先生には本当に感謝しかない。

 今のワタシを見れば、きっとクロも喜んでくれるだろう。



 〇月△日


 ついに実戦デビューの日を迎えた。


 標的は人身売買、特に子供を攫って売り飛ばす筋金入りの犯罪組織だ。この手の輩にはワタシも思う所があるので絶対に容赦しない。


 作戦会議ではワタシを含めた狙撃班は後方支援、最大戦力であるゼロナンバーが仕留め損ねて逃げようとする敵の始末だ。


 実に簡単な仕事だった。

 指定された狙撃ポイントに身を潜め、各自狙撃可能な範囲内に現れた敵に向かって引き金を引くだけ。あとは銃弾が全てを終わらせる。


 この日、ワタシは三人仕留めた。

 初陣にしては上出来だろう。

 作戦終了後には、前線にいるゼロナンバーと合流して打ち上げすると聞いている。間違いなくクロとも会えるだろう。クロはゼロナンバー随一の暗殺者なのだから。


 その時に、ワタシがクロの仕事を一緒に手伝ったんだって伝えよう。

 きっと驚く顔が見れる。ちょっと楽しみだ。




 クロが、先生を殺した。



 ×月○○日


 あれから一週間くらい、クロの姿を見ていない。

 あの日、ワタシが狙撃手になって一緒に仕事をしたと知った時のクロの顔を思い出す。


 とても驚いて言葉を失って、そしてとても怒っていた。

 てっきり喜んでくれると思っていたワタシは、今まで見たことのないクロの顔にびっくりして、何も言えなくなった。


 その後、クロは先生の元に行って打ち上げ会場から彼を連れ出した。

 しばらくして、乾いた銃声が三発聞こえた。


 クロが先生を撃ち殺したのだと誰かから聞いた。

 至近距離から心臓に二発、頭に一発撃ち込み、先生は即死だったそうだ。


 すぐに駆け付けた警備員に、現場に佇んでいたクロは取り押さえられた。

 それからずっと、クロに会っていない。面会も許可が下りなかった。


 どうしてクロは先生を殺したのだろう?

 あんなにも良い先生だったのに。

 クロも昔は先生の教え子だったと聞いた。どうして先生を殺したのだろう?



 △△月××日


 新倉永八――〈ブラボーゼロ/ブレイド〉が、クロに代わってワタシの世話役に任命された。

 クロとよくチームを組んでいることを知ったワタシは、エイハチに相談する。


 エイハチの話によれば、クロはワタシよりも小さかった頃にテロに巻き込まれて家族と記憶を失ってしまい、以降は獅子堂に引き取られてワタシと同じように暗殺者になる英才教育を受けていたらしい。


 初陣は八歳の頃。

 子供であることを活かして、主に子供の人身売買を専門とする犯罪組織にわざと誘拐され、敵本拠地を探る囮捜査を任された。

 だけど、クロ以外にも攫われた一般人の子供たちが泣き叫んで犯人たちの怒りを買ってしまい、五歳くらいの男の子が目の前で撃ち殺された。


 その後は、クロが全部終わらせた。


 子供相手に油断したといえばそれまでだが、エイハチをはじめ味方が到着する頃には、犯人たちは皆殺しにされていたという。

 返り血を浴びて全身が真っ赤に染まり、熱を持った拳銃と血塗られたナイフを手に、ロボットのように感情のない表情で佇んでいたクロの眼は、世界のすべてを憎んでいるかのようだったとエイハチは言った。


 それからクロは、女子供を標的にする犯罪者専門の暗殺者として次々と暗殺をこなしていったという。

 一五歳で〈アルファゼロ/アサシン〉のコードネームを貰った以降も、そのスタンスは変わっていない。

 ワタシと初めて会った時も、「子供の命を食い物にする連中は絶対に許さない」とクロは言っていた。


 でも、そんなクロを育ててくれた先生をどうして殺したのか、これが解らない。


「アルファゼロは、自分と同じ境遇の子供が生まれることを嫌っていた」

 エイハチはそう言った。

「自分が命懸けで救ってきた子供たちが、自分と同じ暗殺者として育てられたという事実は、子供の命を食い物にしている連中と同じだったのだろう」


 ようやく、クロが先生を殺した理由が理解できた。


 ワタシは元々が紛争国の出身だったからすぐにはピンとこなかったが、普通の子供は飢えをしのぎ、身を護るために銃や刃物を振り回して人を傷つけたり殺したりはしない。

 善良な人間であれば、大人であっても死ぬまでそんなことはしないだろう。


 クロは、ワタシが殺し屋になることを望んでいなかった。


 クロは、ワタシを殺し屋として育てた先生を許さなかった。


 クロは、先生に裏切られた。


 なんだ。


 最初から先生はクロの敵だったわけか。


 そうと知っていたら、ワタシが真っ先に殺してやったのに。


 クロの敵は、ワタシの敵。

 

 クロを傷付け、殺そうとする者は全て消す。


 クロは家族を失ったワタシを救ってくれた特別な人。


 たとえ世界がクロを傷付けるというのなら、その世界すら滅ぼしてやる。



 ああ、そうだ。



 先生がクロを裏切ったのなら、先生よりも『もっと上の人』も裏切り者だよな。


 そっちは動けないクロに代わってワタシが消してやる。


 待っててねクロ、今度はワタシが助けてあげる。



 ***


「……あの時って?」

 マナの問いに、 

『恐らく、獅子堂家当主・獅子堂光彦――でしょう』

 ワタシに代わって第三者が答えたので、ぎょっとする。

「ミユ/美優ちゃん?」

 声の主はミユで、声の出所はマナのポケットにあったPIDからだ。

 マナがPIDを取り出すのを待ち構えていたかのように、横長のホロディスプレイが展開され、人魚の姿を模したミユが表示される。電脳世界における彼女のもう一つの姿だ。

『ごめんなさい、不躾ながら話は全部聞かせて貰いました』

 ミユは頭を下げた。

 ガイノイドである彼女は、ネットに繋がっているものならば何でもハッキングできるチート機能を備えている。街中の監視システムやマナのPIDを通して、ワタシの所在を探知したのだろう。

『それともう一つ。ナディアさんのPIDにあった日記も、勝手ながらさせて貰いました』

「オイゴラ」とミユを睨む。

 完全にプライバシーの侵害だろ、それは。

『ごめんなさい。ちなみに、日記の内容はクロガネさんには教えていません』

 ならばミユ一人を葬れば済むな。

「それで美優ちゃん、ナディアちゃんが貴女のお爺様を暗殺しようとしたって……」

 不穏な空気を察したマナが話を戻す。

『はい。日記にはお二人を幼少時代から暗殺者として育てた教官を、クロガネさんが殺害したとあります。殺害に至った動機は、先程の真奈さんのご想像通りです。

 その後、ナディアさんはお爺様――雇い主であるご当主を暗殺しようとしました。新倉さんが止めたので、未遂に終わったようですが』

「どうしてナディアちゃんはそんな真似を?」

『それは』

「クロの敵だからダ」

 ミユの発言を遮ってワタシは言った。

「先生はクロが戦う理由を知っておきながラ、ワタシ達を暗殺者として育てていタ。クロを騙して裏切ったんダ。ならば先生より上の立場にあった奴も同罪だロ。保護した子供を暗殺者として育てられていることを知らない筈がないんだからナ」

 そんな短絡的な、とマナが絶句する。

『一理あります』

「美優ちゃん!?」

 意外にもワタシの考えに賛同するミユに、マナは驚きの声を上げる。

『私もクロガネさんの身に何かあれば、誰が相手であれ割と容赦しないことは、真奈さんもご存知の筈でしょう?』

「だからって、身内の暗殺まで容認するッ!?」

『結果的に未遂に終わったわけですし、すでに過去の話です』

 クロの助手をしているからか割とドライだ。不覚にも、その割り切りの良さに親近感を覚える。

『話を戻しますが、ご当主の暗殺が阻止された後、ナディアさんは監視の意味合いも含めてクロガネさんと新倉さんのチームに編成されました。

 そしてご当主は、次世代ゼロナンバー候補者育成計画……通称〈ネクストゼロプラン〉を完全に白紙抹消し、ナディアさんを含め一部を除いた子供たちは真っ当な養護施設で保護されるようになります』

 つまり、ワタシは最年少ゼロナンバーであると同時に、育成計画最後にして数少ない成功例でもあるのだ。

『それと、ナディアさんの証言に一つ訂正を』

 あん? 訂正だと?

『獅子堂家のデータベースから得た情報によれば、

「………………エッ?」

 マジで? 初耳なんだけど?

「……つまり、美優ちゃんのおじい――いや、ご当主もナディアちゃんが暗殺者として育てられたことは知らなかったと?」

『その通りです』

 ワタシもマナも驚きを隠せない。それでは、ワタシがご当主を暗殺する理由は最初からなかったことになる。

『元々ゼロナンバーは各方面で充分な素質や実力を有していた方々を現場から引き抜いて構成されています。中には戦闘向きのスキルがない、非戦闘員も居ますし』

「それじゃあ、鉄哉は?」

『クロガネさんは幼少時に家族と死別しています。

 絶句する。

 その例外で暗殺者として育てられたクロが想像以上の結果を出してしまったため、皮肉にもネクストゼロプランが発案されたとのことだ。

 この経緯も、クロがゼロナンバーを辞めた理由の一つかもしれないと、ミユは言った。

「……ン? つまりアレか、クロはワタシを嫌ってゼロナンバーを辞めたわけではないんダナ?」

『資料を見た限りでは、そうだと思います』

 ミユの肯定に、「ヨッシャ」とガッツポーズ。

「この子は本当にブレんな……」と呆れるマナ。

『ナディアさんのクロガネさんに対する執着心は、計画内での訓練や洗脳によって形成されたものです』

「……もうちょっとこう、オブラートな表現はないの?」とマナ。

『ナディアさんのヤンデレ属性は、計画内での悪影響に因るものです』

「あんまり変わってない」

 ミユの訂正にツッコむマナ。

 黙って聞いていれば、執着だのヤンデレだの言われ放題だ。

『勿論、ナディアさんがクロガネさんに対する元々の恋慕の情は本物で純粋なものでしょう。今となっては、だいぶ歪んでしまいましたが』

 いちいち一言多いな、このガイノイド。

「オマエにワタシの何が解るんだヨッ」

『何も解りませんよ』

「ナ……」

 間髪入れずの返答に、思わずたじろぐ。

『当然じゃないですか? お互い出会ってまだ数日程度、ナディアさんは私のことを嫌っているからまともな対話も出来ません。現状で判明しているのは、私とナディアさんは敵同士という事実です』


 敵同士というフレーズに、ピクリと反応する。


 ワタシの敵は――消す。


 ホロディスプレイごしに、ミユを見据える。

 冷たく、熱く、暗く、激しいものが胸の中に広がるのを自覚する。


『もちろん恋敵、という意味ですが』


 ――ピンポーン。


 ピリピリとした空気を遮るかのように、インターホンの音が鳴る。


 マナが応対しようとした矢先、外側から解錠されて扉が開いた。

「こんばんは、お邪魔します」

 大きな荷物を背負ったミユが現れた。

「美優ちゃんっ」

「どうしてオマエがここ二……?」

 マナ共々突然の来訪に驚く。

「クロガネさんに頼まれて、ナディアさんの着替えとPIDを持ってきました。真奈さんの部屋の合鍵も預かっています」

 しっかりと扉の施錠をしてから、部屋に上がり込んできた。

「待テ。ワタシの荷物を届けに来ただけなのに、何で鍵を閉めてオマエも上がってくるんダ?」

 玄関先で荷物を渡せば済むだろ。コッチはオマエの顔なんか見たくないのに。


「ついでに私も一泊させて貰おうかと思いまして」


「何でさ?」

 突然の宿泊客追加に、家主マナは疑問符を浮かべる。

 ワタシだけの着替えにしては荷物が多いとは思っていたが、まさか自分の分もあったのか。

「勝手に逆ギレして自分の言い分のみを喚き散らして出て行ってクロガネさんを困らせた以上、彼の助手としてはここでナディアさんを改心させてから連れ帰ろうかと思いまして」

「……ヨロシイ、ならば戦争ダ」

 スラリ、と洗ったばかりの包丁を手に構える。

「家出の経緯は事実でしょうに」

 一方で、とことん理詰めで攻めてくるミユ。

「頼むからウチで喧嘩しないでくれる? ていうか、私を巻き込まないでよ」

 ワタシから包丁を取り上げて片付けるマナ。

「ちゃんとクロガネさんから外泊の許可は取りましたよ」

「まずは私に許可を取りなさいよ」

「すでにクロガネさんから連絡が入っていると思いますが?」

「……げ、ホントだ。ヤッバ、気付かなかった……」

 PIDで着信履歴を確認したマナは、顔を渋くする。

「それに真奈さんも他人事ではないですよ。この場に居る三人は全員、

 ミユのその言葉に、マナは「む」と真顔になる。

「クロガネさん抜きで、私たち三人が集まることも滅多にない良い機会だと思いませんか? そこでここは一つ、楽しい停戦協定の話し合いガールズトークでもしません?」

 どこか凄みのある笑みを浮かべて、ミユがそう提案してきた。

 ていうか、目は笑っていない。その緑色の義眼が鈍い光を帯びている。

 ……本気だな、コイツ。色々な意味で。

「そういうことなら良いでしょう。ただし、人ん家で絶対に暴れたりしないでよ」

 話に乗ったマナがそう条件を出す。

 結局、ミユも泊まることが確定した。

「勿論です。協定の場での野蛮な行為は厳禁、よろしいですね?」

「わざわざコッチ見て言うなヨ。国際常識ダロ」

 念を押してくるミユに、舌打ちする。



 ――決して和やかとは言えないピリピリとした雰囲気の中、何やかんやでガールズトークが始まった。



 この面子では、絶対に世間一般で言うところの楽しいガールズトークにはならないだろうに――


「学園祭の帰りにクロガネさんの方から手を繋いでくれました」

「そこのベランダで夜景を見ながら後ろから抱きしめてくれたわね」

「クロの膝の上に座って映画を観たことがあっタ」

「ちょっとお二人とも、随分と羨ましいシチュエーションじゃないですかっ」

「いや、美優ちゃんも大概でしょ?」

「ポップコーンをお互いに食べさせ合ったりもしたナ」

「「なにそれ羨ましい」」(ミユ&マナ)


 ――と、思っていたんだけどなあ……。


 色々なお菓子をテーブルに広げて、各自飲み物を手に、意外にもガールズトークが弾んでいる。

 ちなみに今は『クロにされて嬉しかったことの言い合いっこ』というお題で盛り上がっていた。


「それじゃあ次のお題は~」

 言い出しっぺのミユが、上機嫌でトークの進行をする。

「初めてクロガネさんと出会った時のことを語り合いましょうか」


集中治療室ICUで」

 缶ビール片手にマナがそう言うと、

「戦場デ」

 スナック菓子に手を伸ばしたワタシが続き、

「段ボール箱で」

「「いや、どういうこと?」」

 と○がりコーンを指に着けていたミユに、ワタシとマナが同時に訊ねた。


 ……後で冷静になって考えてみると、三人ともロクな出会い方をしてねぇな。



 ***



 ▲□月〇〇日


 ワタシとクロとエイハチの三人でチームを組んで以来、凄まじい戦果を挙げている。周りから『ゼロナンバー最強チーム』と言われて誇らしい。

 せっかくだからチーム名を決めようとワタシが提案した。


 最有力候補としては【ABS】。


 クロ……〈アルファゼロ/アサシンAssassin〉のA。

 エイハチ……〈ブラボーゼロ/ブレイドBlade〉のB。

 ナディア……〈シエラゼロ/スナイパーSniper〉のS。


 ワタシ達三人のコードネームの頭文字を並べたものだ。

 シンプル・イズ・ベスト、実に良い……と思ったら。

「プラモデルの素材か」

「昔流行ったアイドルグループか」

 と、二人は何とも微妙そうな顔で難色を示した。


 ……良いじゃん、ABS。


 結局、ワタシがそのチーム名でゴリ押した結果、ゼロナンバー内で自然と定着した。



 ××月△〇日


 ABSの快進撃が止まらない。

 ワタシ自身のキルカウントも27に更新した。やったぜ。

 その度にクロがワタシを褒めてくれる。

 やっぱり、どこか辛そうな表情で。

 クロの助けにもなっているんだから、喜んで欲しかった。


 ここのところ、クロの活躍は目に瞠るものがある。

 ワタシが正式にチームに加入してから、次々と標的を仕留めていた。

 ワタシの出番があまりないくらいに。


 ……少し、つまらない。ワタシの獲物も残して欲しい。



 〇月△日


 無理な暗殺を強行したせいか、クロが怪我を負った。


 幸い大した怪我でもなかったし、すぐにエイハチがフォローしたから命にも別状はなかったけど、正直肝が冷えた。クロが死んでしまうんじゃないかって。


 もう少しワタシにも頼って欲しい。

 狙撃の援護もあれば、リスクも少なくなるのだから。



 ×月×日


 もう我慢ならない。

 クロに直接どうしてワタシを頼ってくれないのか訊いてみたら、彼はワタシに銃を撃たせたくないらしい。

 そんなにも頼りにならないのだろうか。

 クロのためなら、ワタシは何人でも殺してやるのに。

 そう言ったら、クロはやっぱり悲しそうな顔をする。


 銃を取ったら、ワタシには何もないのに。

 クロを助けられる力を、ワタシから奪わないで欲しい。



 ***



 お風呂場に場所を移しても、三人のトークが途切れることがなかった。


 タワーマンションの最上階がマナの部屋ということもあって、浴室もかなり広い。

 浴槽は三人が入ると流石に手狭だが、一番小柄なワタシがマナに抱っこされる形でどうにか全員入れた。

 浴槽から溢れたお湯が、音を立てて流れ出す。

 ふぃ〜、いい湯だな〜。

「……マナ」

「なぁに?」

 背中に感じる柔らかい二つの物体。

 最後に抱きしめられた時のことを思い出す。

「胸、また少し大きくなっタ?」

「……うん」

 どこか照れながら、控え目にマナが頷いた。

 ワタシは自身の胸に両手を当てる。

 なだらかな曲線が掌に伝わる……ウン、なくはない、筈だ……。

 正面のミユを見やる。

 彼女のはワタシとマナの中間あたりだろうか? この中の誰よりも形が綺麗に整っていた。ガイノイドであれば大きさも形も自在に調整できるだろうが、些か不公平なものを感じる。

「……ちょっと失礼します」

 突然ミユは湯船から出ると、シャワーを冷水にして頭から被り始めた。

「流石にお風呂はキツイんじゃない?」

「こうして冷却を挟めば大丈夫ですよ」

 マナの指摘に微笑むミユ。

 排熱と冷却の都合上、彼女は湯船に浸かる必要はないのだが。

「ふぅ……何やら人間は女性の胸部質量の多寡たかについてよく議論するようですが、どうしてですか?」

 浴槽の外からミユがそう訊ねてきた。

 胸部質量の多寡?

 ……ああ、おっぱいの大きさのことか。

「そりゃあ……男の人って、胸が大きい方が好きってよく聞くし」とマナ。

「……クロガネさんもでしょうか?」

 おぉっと、ここで話題が『クロの性癖について』になってきたぞ。

 ぶっちゃけ、ワタシも気になります。

「うーん、どうだろ?」

「以前、真奈さんのご両親が来た時、真奈さんの容姿について褒めていたと記憶していますが」

「でも胸とか、一部分を凝視されたことはないかな。チラ見程度はあったかもしれないけど」

「クロもムッツリだナ」

「むしろ男性としては健全で正しい反応かと。少し安心しました」

 確かに、もしもクロが男好きだったらショックだ。

「結局、クロは胸が大きい女が好きなのカ?」

「さぁ? 直接訊いたら教えてくれるんじゃない?」

 マジか。

「正直者ですものね。返答次第では、私たちの関係にもひどく影響を及ぼしそうですが」

「……もしも、クロが巨乳好きだったラ」

「だったら?」

 背後のマナを見上げる。

「マナの胸をもグ」

 全力でむしり取ってやる。

「もがないでくれないッ!? 目がマジだから怖いよッ!」

「胸がない真奈さんなんて、シャリのないお寿司みたいなものですね」

「刺身になるの、私ッ!?」


 お風呂場に、ワタシたち三人のじゃれ合う声が反響する。


 ……何を話してんだ、ワタシらは?



 ***



 □月◆日


 リオが誘拐された。


 掛かり付けの病院で謎の武装集団に誘拐された。


 ゼロナンバーも緊急出動が命じられたが、何故か今回の作戦の指揮を執るのは、リオの兄のレオらしい。

 正直、アイツは気に食わなかった。

 実の妹が病弱なのに全然見舞いには来ないし、偶然会ったら会ったで嫌味を言って去っていく。

 リオのことを嫌っているのだとばかり思っていたが、流石に実の妹の危機には他人事ではないのだろう。

 よく知らない、良い印象のない奴の指示で動くのは不安でしかないが、腐っても雇い主の息子だ。従う他ない。

 作戦内容はリオの救出のため、流石に今回ばかりはクロもワタシの狙撃を頼りにしてくれることだろう。良いところを見せねば。


 作戦が成功して、リオの具合も良くなったら、また三人で遊ぼう。




 クロの左腕がなくなった。


 リオも危篤状態になった。



 □月△日


 調査の結果、リオを誘拐させた黒幕は兄のレオだったらしい。

 前々から気に食わなかったけど、本当にヒドイ奴だ。

 今は謹慎の身らしいが、いつか必ず撃ち殺してやる。

 よくもワタシのクロを、リオをあんな目に。


 リオはまだ予断を許さないが、クロは重傷ではあるものの命に別状はなかったらしい。

 少しだけ、ほっとする。



 □月×日


 リオが、クロの心臓を移植したと聞いた。


 クロは、死んでしまったの?


 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ――ワタシを置いてかないで。



 〇×月△日


 クロの心臓を移植されて元気になったリオが、疑似心臓? というものを完成させた。それを海堂真奈というお医者様がクロに移植した結果、彼は息を吹き返したらしい。よかった、本当によかった。


 マナは機械義肢の研究者でもあって、左腕を失ったクロに機械の腕を着けてくれた。

 義手に関してはリオも協力してくれたらしく、日常生活に支障は出ない程の造りらしい。スゴイ。



 ××月〇日


 しばらくクロは仕事を休み、リハビリとトレーニングに励んでいる。

 その甲斐あって、義手も生身の腕と同じくらいまで動くようになった。

 これもクロの担当医となったマナと、すっかり元気になったリオのサポートのおかげだ。


 あのクズ兄貴のマッチポンプな事件以来、出撃していない。実に平和だ。

 暇さえあれば、ワタシはクロの病室に入り浸ってリオやマナとお喋りしたり、遊んだりしている。

 たまにエイハチやデルタゼロ(コイツは毎回違うオートマタで来やがる)が、クロのお見舞いに来たりする。


 クロも、ワタシが殺しをしていない時は、とても穏やかな表情をしていた。


 こんな時間がずっと続けば良いなぁ。



 〇×月△□日


 クロが前線に復帰することになった。

 久しぶりにABS復活だ。嬉しくて気合いが入る。


 今回の敵は戦闘用オートマタが出て来たけど、クロの新必殺技で一撃だった。

 何アレ?

 訊けば、リオが開発してマナが組み込んだEMP? 電磁パルスとかナントカってやつらしい。よく解らんけどカッコイイ!



 〇●月××日


 エイハチが切り込み、ワタシが狙撃で援護し、クロが確実に標的を仕留める。

 この日もABSがMVPだ。


 復帰してからクロの近接戦闘術が以前よりもキレが増してる。

 義手パンチがよっぽど強力なのだろう。

 普通なら苦戦しそうな対オートマタ戦でも、ABSはそれぞれ有効手段を持っているし。

 ワタシが特殊弾頭を撃ち込み、エイハチが高周波ブレードで何でもスパスパ斬り、クロの鉄拳とEMPが炸裂する。


 クロのパワーアップ復活もあって、最近ではABSが対オートマタ戦の切り札として運用されることが多くなってきた。


 ワタシが狙撃でオートマタを仕留めた作戦後、クロはよく褒めてくれるようになった。相手が人間ではないからか、以前のような悲しい表情ではなく、どこか誇らしい笑顔をワタシに向けてくれる。


 嬉しかった。


 これからも、どんどんオートマタをぶっ壊してやろう。

 そうすれば、もっとクロは褒めてくれる。



 □月▲×日


 リオの容体が急変した。



 〇月×日


 リオの容体がかなり悪いらしい。

 どうすることが出来なくても、そばにいたい。

 だが、今日は重要な作戦がある。

 クロも、エイハチも、いつも以上に固い表情で口数が少ない。


 今日は早く帰れると良いなぁ。


 神様、どうかリオを連れて行かないでください。





 かみさまのいじわる しんじゃえ



 ***



 マナのベッドに、三人で川の字で寝る。

 いや、三人の中で年長で背が高いマナを真ん中にしているから、『川』というよりは『小』の字で寝ている。

 ワタシとミユが隣同士だと、「何かちょっと危険な感じがする」と言ったマナの提案でこうなった。解っているじゃないか。

 ていうか、三人が雑魚寝できるって随分と大きなベッドだな。

「……ナディアちゃん」

「……何ダ」

「そんなに抱き着かれると、寝づらいんだけど……」

 戸惑いつつも、マナがそう指摘してくる。

 ワタシは彼女の腕を掻くようにして抱きかかえ、脚を絡めていた。

「……寒いんだから、仕方ナイ。我慢シロ」

「そんなご無体な……」

 文句を言いつつも、振り解こうとはしない。マナのこういうところが好きだ。

 柔らかくて暖かくて良い匂いがする抱き枕を堪能していると。

「昔のクロガネさんに対しても、そんな風にしていたのですか?」

 マナの向こう側からミユが訊ねてくる。

「まァ、そうだナ」

「……羨ましい限りです」

 心底羨ましそうなその声に、フフンと上機嫌になる。

「さっきから何かと鉄哉の話ばっかしてるわね」

 マナが今更なことを言う。

「なにぶん、私たちに共通した話題がクロガネさん関連のものしかありませんので」

 まぁ、確かにな。

「他にあるとすれば、私のお母さん――獅子堂莉緒のことでしょうか」

「莉緒お嬢様か~」

「…………」

 マナは懐かしそうにその名を呟き、ワタシは押し黙る。

「お嬢様のことなら私よりもナディアちゃんの方が詳しいんじゃない?」

「ワタシ?」

 突然話を振られて戸惑う。

「付き合いなら鉄哉と同じくらい長いでしょ?」

「それはそうだけド……」

「教えてくれませんか?」

 興味津々のミユ。

「……ワタシの日記を読んだんだかラ、わざわざ話す必要もないダロ」

 恨みがましくそう言って拒否する。

「そのことについては申し訳ありません。ですが、やはり当事者の口から語られる情報の方が重要だと思いますし、無礼を承知で教えて頂けませんか?」

 それ程までに母親リオのことを知りたいらしい。

 だが当事者といえば。

「……クロからは聴いてないノ?」

「クロガネさんからは、お母さんに読書や映画などの娯楽を教わったとか、まだ断片的な情報しか得られていません。時間がある時に詳しく話してくれると約束してくれましたが……」

 顔は見えないが、ミユの声は少し寂しそうな感じがする。

 ワタシが知る限り、クロは約束を破らない。

 長くはなるだろうが、昔話をする時間も取れないほど忙しいのだろうか。

 いや、本当は昔のことを話したくないのかもしれない。

 あるいは話す内容を選ぶのに手間取っているのかも。

 リオの話題ならば、少なからず自身の過去も振り返らなくてはならないし、流れ的に物騒な話も出てくるだろうから。

 もしかすると。

 相棒でありながら、なるべくミユを血生臭い世界から遠ざけたいのかも。


 ……ムカッ。


「オマエには何も教えン」

「えっ」

「ナディアちゃん、意地悪しなくても良いでしょ?」

 戸惑うミユと呆れるマナ。

「そのうちクロから聴けるダロ。オヤスミ」

 ミユが何か言っていたが、無視して目を閉じ、ぎゅっとマナの腕にしがみつく。


 ……クロに特別扱いされている奴に、ワタシ達の思い出を教える義理などない。



 ***



 ×月×日


 リオが死んでしまった。


 作戦が終了してすぐ、その知らせは届いた。

 クロもエイハチも、他の仲間もみんな無事だったのに。


 知らせを聞くなり、誰よりも早くリオの元に駆け付けたのはクロだ。


 リオは眠るように目を閉じて、冷たくなっていた。


 クロがあんなに声を上げて泣く姿を初めて見た。


 ワタシも泣いた。


 リオの葬儀を済ませた後、彼女の父親であるボスから、しばらくゼロナンバー全員に休暇が与えられた。

 暗殺者集団であると知りながら、リオはゼロナンバーの面々とよく接していたし、その関係も良い方だった。

 ワタシ達もリオの死に多かれ少なかれ動揺し、心の整理がついていない。

 ボスの気遣いはとてもありがたかった。


 クロは、どこか上の空でいることが多くなった。

 ワタシが話し掛けても、反応が遅れることがしばしばあった。


 リオが居なくなっても、ワタシがいる。

 だから、元気を出して欲しい。



 ▲月△日


 クロがゼロナンバーを辞めた。


 突然「辞めることにした。今までありがとう、お世話になりました」とワタシ達にそう挨拶をして、本当に居なくなってしまった。


 どうして?

 なんで?


「……俺が守ると誓った人は、居なくなってしまったから」


 リオが死んだから、ゼロナンバーを辞めると言った。

 確かにクロは本来、リオの専属ボディガードだった。

 だけど。

 それなら、これからはワタシを守って欲しかった。

 ワタシをあの地獄みたいな日々から助けてくれたように、そばに居て欲しかった。


「あの時、ナディアを救えたのは俺の誇りだ。だけど、その後の人生を狂わせてしまったのは……」


 暗殺者となってしまったワタシを救うことが出来なかった、とクロは言った。


 それは違う。


 ワタシは望んでクロの隣にいただけ。

 ずっと一緒にいたいと望んだだけ。

 ワタシの今までの人生は、決して悪いことばっかりじゃない。

 クロは何も悪くない。

 責任を感じることも背負うものも何もない。


「俺は殺すことは得意でも、誰も何も守れない無力な人でなしだ」


 そんなことない。


 少なくともワタシは、リオは、クロに救われている。


 そう言ったのに、クロは。


 行かないでと泣きじゃくるワタシの前から、居なくなった。





 ばか  だいきらい




        ###ここが最後のページです###



 ***



 夜が明け、月曜日の朝を迎える。

 PIDの天気予報では、今日も晴れとのことだ。

 日本では秋の晴天は『秋晴れ』というらしい。

「はぁ~……」

 窓の向こうに広がる青空に溜息をつく。気が重い。

 今日は月曜日だ。

 マナは仕事。ミユも学校で、放課後は探偵事務所に……クロの元に戻るだろう。

 そしてワタシは……どうしようか。

「マナ、今日も……いや、しばらく泊まってイイ?」

「いや、美優ちゃんと一緒に帰ったらどう? 鉄哉もきっと怒ってないわよ」

 そりゃあ、クロは全然悪くないし。

「ナディアさんが百%悪いだけですし」

 制服姿のミユが無情な現実を突き付けてくる。

「……ガイノイドは人間と違って空気が読めないようだナ」

 ゆらりと振り返ってミユを睨む。

「はいはい、喧嘩してないで朝ご飯にするよ」

 マナがパンパンと手を叩き、ワタシ達の間に割って入ってきた。

 いや待て。

「……マナが作ったのカ?」

 恐る恐る訊ねると、

「いいえ、私が作りました」

「よくやっタ」

 すかさず否定したミユにサムズアップを送る。

「急に仲良いな、おい」

 と、どこか納得いかないマナ。

「一つだけ、ワタシが作った黄金の卵焼きがあったんだけど、美優ちゃんに処分されちゃった」

暗黒物質ダークマターという名の炭そのものは、流石に食べられませんよ」

 もはや黄金要素は皆無だな、ソレ。食ったら絶対に腹壊すだろ。

「動かすナ」

 本当に卵焼きなのか、ソレ?

「アレを見た時、思わず私の義眼と真奈さんの頭を疑いましたよ」

「だろうナ」

「……仲良いな、おい」

 意気投合するワタシ達に、【メシマズの錬金術師】は顔をしかめた。



 白米、目玉焼き、味噌汁。ミユが作った無難で健全な(当たり前だ)朝食を摂った後、それぞれ身支度を行う。

 ワタシも気が進まないまま支度して、二人とマンションを出た。


 ……と、そこに。


「あっ」

 軽く驚くミユ。

「あれ?」

 意外そうな顔を浮かべるマナ。

「ウ……」

 そしてワタシは、思わず目を逸らした。

「……おはよう」

 マンション前の路肩に停めた車の傍で、クロが軽く手を振った。

「おはようございます。どうしてクロガネさんがここに?」

「今朝、事務所前を掃除してたら、たまたま清水さんと会ってな」

 ミユが訊ねると、クロは車の運転席に座っている男――クロの知り合いの刑事だったか――を指差した。

「ちょうど良かったから、無理言って一緒に迎えに来て貰ったんだよ」

「ったく……何が悲しくて、お前の女どもを迎えに行く足にされなきゃならんのだ……」

 不機嫌そうに不満を口にするシミズ。本当に無理を言ったな。それでも引き受けてくれる辺り、良い人だ。

「わざわざありがとうございます、清水さん」

「あいよ。とりあえず時間が押してるから、早く乗ってくれる?」

 ミユが礼を言うと、シミズが後部座席を指差す。

「私も相乗りして良いですか?」とマナが便乗する。

「最寄りの駅までだったらな」

「充分です、ありがとうございます」

 ミユ、ワタシ、マナの順番で後部座席に乗り込む。

 ……流れでワタシも乗ってしまった。

 助手席にクロが乗り、自動運転でシミズの車が発進する。

「お嬢さん方は海堂女史の家に泊まっていたのか?」

 シミズの質問に、ワタシは思わずギクリとなる。

「はい、お泊り会です」とミユが笑顔で肯定し、

「賑やかで楽しかったわね」とマナが続いた。

「そうか、そいつは何よりだ」とシミズが笑う。

 ……あれ?

 二人とも、ワタシが家出したことを話さなかった。

 助手席のクロも、何も言わない。

 家出のことはシミズに関係ないからだろうか?

 何はともあれ、ほっとする。


 それから間もなく、駅前に到着してマナが降りる。

「ありがとう清水さん。それじゃあね」

 駅に向かうマナを見送ると、「あれ?」とシミズは振り向いた。

「確か美優ちゃんの学校も、海堂女史の病院と同じ西区だったよな? 一緒に行かなくて良いのか?」

「すみません。ちょっと、事務所に忘れ物があって」とミユ。

 シミズはそれで納得するが、ワタシは疑心暗鬼だ。

 忘れ物なんて、ワタシがクロに謝るのを見たいだけの方便じゃないのか?


 車はクロガネ探偵事務所に向かった。


 十分ほどで、事務所に到着する。

「ありがとう、清水さん」

 クロに倣い、ワタシとミユもお礼を言って頭を下げる。

「機会があったら、また頼むよ」

「あほ抜かせ」

 冗談を言い合えるくらい、クロとこの刑事は仲が良いようだ。

 ……ワタシの前から居なくなった後に出来た、クロの友達。

 複雑な思いでシミズを見る。

「軽自動車くらい買ったらどうだ?」

「うーん、考えとくよ」

「そうしてくれ。俺はお前の専属ドライバーなんかじゃないんだからな。じゃあな」


 走り去っていくシミズの車を見送ったクロは、事務所の扉を開ける。

「ただいまです、クロガネさん」

「ああ、おかえり」

 ミユが事務所の中に入ると、早足で二階の自室に向かう。

 あれ? 忘れ物は本当だったのか?

「さて」

 ミユを見送ったクロは振り返り、ワタシを見た。

「ウ……」

 気まずい。勢いだけで家出してしまったから、気まずくてしょうがない。

「とりあえず、入れ」

「……ウン」

 促され、事務所の中に入る。

 見覚えのある、落ち着いた内装がワタシを迎え入れた。

「……お、怒ってなイ?」

 扉を閉めたクロに、恐る恐る上目遣いにそう訊ねた。

「いいや?」

 クロは首を振って否定する。

「美優とは、少しは仲良くなったか?」

「……解らなイ」

 正直に答えた。

「否定しないだけ上々だ。これからお互いのことを知っていけば良い」

 穏やかな声でそう言うと、クロはワタシの頭をなでてくれた。


「おかえり」


「……ァ、ただ、いマ……」

 どうしよう、限界だ。涙がこぼれる。

 ガバッとクロに抱き着く。

「ゥ、ヒッグ……ごめんなさイ……クロ……ッ」

「うん」

 震える背中に手を回し、頭をなでてくれる。

 変わらない、クロはいつだって優しかった。

 今まで、ずっと。



 ……どれくらい時間が過ぎただろう。


 溢れた涙も感情も収まって冷静さを取り戻したところで、ふと気付く。

 完全に離れるタイミングを逸してしまった。


 ……まぁ、良いか。


 このままクロにハグされたままでも、ワタシは一向に構わない。


「はーい、そろそろナディアさんも落ち着いたようなので、いい加減離れましょうかー」


 と思っていたら、ミユが強引にワタシとクロを引き剥がしてきやがった。

「……何すんだヨ」

 恨みがましくミユを睨む。

「それはこちらの台詞です。いつまでもクロガネさんに抱き着いているんじゃありません。羨まし――もとい、これから仕事なのですからサービスタイムは終了です」

 そう言いつつ、ちゃっかりクロの左腕にしがみつくミユ。

「サービスタイム? ナニ上から目線で言ってんダ? クロはオマエのものじゃないゾ」

 ワタシも負けじとクロの右腕にしがみつく。

「貴女のものでもありませんし、私のご主人様マスターです。あるじにいつまでもベタベタするのは、いくらクロガネさんのでも看過できません」

「ワタシは友人じゃなくて妹分ダ。なんかこう、血の繋がりがない的ナ」

「どことなく背徳感のある設定を追加しないでください。ただでさえ『褐色ロリのスナイパー』でも充分なのに、これ以上属性を増やさないで貰えます?」

「知るカ。マナも言ってたけど、クロの嫁を気取るのはヤメロ」

「助手は女房役と言いますし、何も問題ありません」

「その例えが気に食わン。ていうか、早く学校に行けヨ」


 想い人を挟んで「「う~」」と睨み合っていると、


「朝っぱらから仲良いな、お前ら」

 当のクロがそう言った。


「「良くないッ!」」

 思わずミユとハモった。


 ……あれ? なんか既視感デジャヴ




 ***




 最初にはっきり書いておく


 ミユ


 また日記を覗くような真似したら


 容赦なくぶっ壊すからな






 クロが居なくなって二年。

 その間、日記をつけることも辞めていたけど、今日からまたつけることにした。


 またクロと会えた。

 マナとも会えた。

 リオの娘であるミユとは、恋敵にして同士という対等な関係となった。


 今日のワタシは、これまでとは違う新しい一歩を踏み出した気がする。

 日記をまた書き記すのにも、丁度いい機会かもしれない。



 あれから、オンラインでまた三人と話し合った。


 その結果――


「抜け駆けあり」

「自信があるならどうぞご自由に」

「お互いに合意の上ならば既成事実も認める」


 ――という方向で固まった。


 要は「クロが心から好きになった女性こそが正妻」というルールだ。

 正妻の座を巡る争いにも、最低限順守すべきルールがあるということらしい。



 【これからの目標】


1.クロにワタシを好きになって貰う。クロの愛想が尽きない限り手段は選ばない。


2.クロの敵はワタシの敵。クロが掲げるルールの範囲内でこれを確実に排除する。


3.クロを悲しませない。ワタシ自身やマナ、ミユが傷付いたり死なせたりしない。



 強敵が二人ほどいる。


 相手に不足はない。


 このワタシが、必ずクロのハートを射止めてみせる。


 スナイパーだけに。


 スナイパーだけに!

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