♮本来ならありえないフラグが立つのも二次創作ならではだよね。


「ちょっと早く着きすぎちゃったな……」

 とある月の、とある週の、とある日の駅前こまけぇこたぁいいんだよ

 待ち合わせ時間の十五分……いや三十分近くも前という盛大なフライングをかましたのは、サイドポニーが特徴の、四人組アニソン系ガールズバンド『icy tail』のマスコット的存在なギター担当、姫川時乃。

 別段せっかちな訳でも、時間にルーズという訳でもない時乃が、どうしてこんなある種のマナー違反めいたことをしてしまったのかというと……


 時間は、昨日の、『icy tail』活動ミーティング後に遡り。


「あっ、あのねアッキー……ちょっといい?」

「……ん? どうしたトキ」

「明日、明日ね? もしよかったら……でいいんだけど……」

 時乃は、プロデューサーである安芸倫也に、二枚のチケットを見せる。

「……ペアチケット、だよな?」

「う、うん……」

 それは、とあるアミューズメントパーク名前を出すと消されるネタで有名のペアチケットで。それは、時乃が、軽い気持ちでなにげなく引いた商店街の福引で、たまたま当たってしまったものでご都合主義


「……ってこれ、期限も明日じゃないか」

「そう、そうなの。だから、アッキーさえよかったら、わたしと一緒に……」

「いや待て待て、他にいるだろ、一緒に行ってくれそうな奴。……なんで俺?」

「あの……それが、大変申し上げにくいのですが……」


 そう、非常に残念なことに、たまたま、本当にたまたま……

 倫也以外の全員が、明日はどうしても外せない用事があるということで……

 そうして、もういいか、もったいない、その間で揺れるに揺れ、悩みに悩んだ末。


「……まさか?」

「そのまさかでゴザイマス」

「俺以外、全滅?」

「おっしゃる通りでゴザイマス」

 

 時乃は、倫也に、ダメ元で、白羽の矢を立てた。


「ずっとほったらかしてたわたしが悪いんだけど、でも、使わずに捨てるのはちょっとさすがにもったいないかなぁって……」

「ふむ……」

「だから、お願いアッキー!」


 本調子の倫也であれば、『そんなことに時間を割いている暇などない』なんて言って、乙女の勇気や覚悟ごと、平気でばっさり切り捨てていたところではあるけれど。


 運命のいたずらか、あるいは、神様の気まぐれか。

 そう、本当に、いや本当に偶然、たまたま……

 個別ルートが書き詰まり、気もうおわかりか分転換すべきか倫也が悩んでいたタイミングと思いますがご都合主義で……


「なるほど、話はわかった。たまにはそういう変化球もいい、付き合おう」


 という経緯があって、倫也と時乃がデートするという、本来原作ではありえないフラグが立ち、冒頭に至るのであった。

 ……倫也がそういう認識でいるのかどうかはさておき。


  ※  ※  ※


「待たせたな……ではいざ参らん!」

 と、約束の時間ほぼぴったりに来た上に、あまりにも普段通りの格好で、あまりにも普段通りすぎる倫也に。

「はぁ……アッキー、いつもどおりすぎフラグに気づかない彼~……」

 相手がそんな倫也だとしても、生まれて初めてのデートということで、きっちり意識して、ばっちりメイクして、せっかくオシャレしてきたのにと……

 ちょっとくらい、今日くらい、女の子として見てくれてもいいじゃんと……

 時乃は、こっそり、年相応に乙女心を爆発させたりもしつつ。


「……でも、なんかアレだね。アッキーとこういうのって、一周回って新鮮かも」

 

 ただ、ちょっぴり非日常な、珍しいシチュエーションと組み合わせだからこそ。

 ちょっとずつ、電車に揺られる時間と共に、二人の、心の距離も縮まって……


「まぁ、確かにな。こういうのは俺も基本加藤とだったりするし」

「……うっわぁ。アッキーデートそれはないよ。そこでそれはさすがにない中に他の女の名前を出すなよ」

「あ……わ、悪い……」


 ……いくのかどうかは、倫也が出すNGの数次第として。

 ただ、それでも、ベクトルが違うだけで、根っこの部分は同じ二人だからこそ。


「なんだかんだ、こっちのほうって全然来る機会ないよね」

「イベントなんてだいたい中野とか新宿あたりでやるしな。わざわざこっちまで出張る必要がないっていうか」

「そーそー。まぁ、変に遠いよりは全然いいけど。交通費、地味に痛いし」

「ああ、学生のつらいところだよな……」

「ただでさえお金飛ぶのにね~……」

「……飛ぶな、余裕で」


 結局というか、やっぱりというか。

 二人は徐々に意気投合し、お互いに濃いオタトークを繰り広げ始め、盛り上がっていくうちに……

 やたら長かったような、途中から短かったような、片道が終わった。


  ※  ※  ※


 休日のいい時間ということもあり、入場待ちの列は大混雑……とまではいかないにしろ、それでも、それなりそこそこには並んでいたりした。

「やっぱ混んでるね~」

「だな。でも、まぁ、このくらいならすぐだろ」

 とはいえ、毎年のコミケ参加によってよく訓練された倫也と、声優のライブや声優関連のイベントで慣れている時乃にとっては、大した列と密度ではなく。

 並ぶ片手間に、時乃はスマホを取り出し、園内マップを表示させる。

「う~ん、時間的に全部は無理かな? アッキー、どれから乗ろっか?」

「……トキ。お前は一つ、重大なことを忘れている」

「……うぇ?」

「これはコミケのスペース回りと同じ……見方によってはロケハンとも言えるな。つまり、いかに効率よく、いかに待ちが発生しないルートを選ぶかだ!」

「えぇ~……もっと気楽にいこうよ~……」

「ダメだ。こういうのはガチであるべきだ。そういうわけで全部乗るぞ」

 別にそこまでのガチを求めていない時乃ではあったが、倫也に『マップ!』と要求されたので、仕方なく、画面を差し出すようにして見せる。


「ここが……ふむ。となると、こう……で、次は……」


 一応、曲がりなりにも、デートだというのに。

 相手を置きざりにして、どこかで見つくさとルートを構築し始めたたような展開、やっぱり平常運転の倫也に対し……

 時乃は、やっぱり、さっきと似たような不満場面転換直後を抱くけれど。


 それ以上に、周りのリア充やウェイ勢に当てられてか。

 それとも、単に、倫也に、思いのほか顔を近づけられたからか。

 一方では、『わたしとアッキー、そういう関係に見られちゃう……?』なんて、倫也とは違った形で、別の方向に、変に浮ついちゃっていたりなんかもして……


「……見えたぞ! エンディングが!」


 そうして、片方は、相変わらずの平常ダイヤなまま。

 もう片方は、特別ダイヤになりつつの中、二人はエントランスゲートを通過した。


  ※  ※  ※


 たくさんの人々が行き交う賑やかな広場、西洋風の建物が並ぶメインストリート、その後ろでひときわ存在感を放っている白亜の城……

 ……はともかく。

 倫也の定めたルートどおりに、スリル系のアトラクションに、早歩きで向かい……


「ひゃあああああぁぁぁぁぁ!」

「うおおおおぉぉぉぉぉ!」


 と、お約束の如く、ひとしきり叫んだりして。


「なんか、アレ乗った後だと……」

「だな……まぁ、感想会は後にして次行くぞ、次」


 回る順のせいか、見たり歩いたりするだけが、地味に感じてしまったりしつつ。


「め、目が、目がぁ~……」

「わかる……わかるが、歩け……歩くんだトキ……」


 かと思えば、ぐるぐるとぶん回され、ふらふらしたりもしつつ。


 そんなこんなを経て、ようやくの休憩に入った直後……

「ふへぇぇぇ……」

 あまりのハイペースぶりに幼女テンプレのような泣き声を発し……いやもう実際に半泣き状態でテーブルに勢いよく突っ伏したのは、『icy tail』メンバーの中で一番背も胸も小さい、サイドポニーが特徴の、早口でマスコット的存在で小動物系なギタリスト、姫川時乃。

 ちなみに、なんでわざわざ再びキャラ紹介を絡めたのかというと、今一度、こんな子だよと覚えてもらうためだけであり、決して、間違っても、これを書いている人が時乃を贔屓した訳ではないということを理解していただきたく。……ほんとだよ?

 というわけで、ひとっ走りしていた倫也が戻ってきたところで。

 時乃は、差し出されたドリンクを受け取るついでに、じとりとした涙目を向ける

「……そんな気はしてたけど、アッキーって基本女の子に優しくないよね」

「ご、ごめんって……」

「それどころかいろいろ無理もさせるよね」

「返す言葉もございません……」

 効率ばかりを追求するあまり、アトラクション後の余韻も、なにもかもへったくれもない回り方に、時乃は深いため息を吐く。

「……まぁ、誘ったのわたしだから怒ったりはしないけどさ~」

 そのため息には、『苦労するんだろうなぁ……』という意味も込められていた。

 ただ、それが、この後も振り回されることになる自分に対してなのか。あるいは、このお話には出てこない、本来のメインヒロイン加藤恵への同情なのか。

 時乃自身ですら、わかってはいないけれど。


「でも、さ……」


 都合がよくて理想の女の子メインヒロインだったり……

 ツンデレでテンプレな金髪ツインテールだ第一巻の表紙を飾ったり……

 みんな大好き黒髪ロングなお姉さんファーストキスを奪う女の子だったり……

 ……は、しないけれど、しないなりに。


「こんなんだけど、わたしだって一応……女の子なんだよ?」


 オタクで声豚なだけで、女の子である以上は、時乃だって。

 やっぱり、いい加減、多少は、それ相応に、扱ってほしかったりした。


「だからせめてもうちょっとくらい……そういうつもりで、っていうか……」


「あ、ああ……そう、だな……?」

 ……倫也も倫也で、そう言われるまで、やっぱり、わかっていなかったけれど。


「な~んで語尾に『?』がついてるのかな~……」

「い、いや……正直、トキをそういう目で見たことって、一度もなかったから……」

「うわ~、うわ~、アッキーってばそういうことはっきり言っちゃうんだ~」

「ごめん……どうにも仲間とか同志とかって感じのほうが強くて……」

「……まぁ、アッキーをそういう目で見たことあるかって聞かれたら、確かにわたしも同じ答えになっちゃうんだけどね」

「じゃあ今のちゃんとフラグ立ったよ的なくだりはなんだったの!?」


  ※  ※  ※


「ゆっくりね……? ゆっくりだよ……?」

「わ、わかってるって……」

「あ、ほら、言ったそばから」

「ご、ごめん……どうにもまだ慣れなくて……」

「アッキーはいろいろがっつきすぎなんだよ~」

「がっつくって……」

「まぁ、わたしのが狭いってのはあるかもだけどさ」

「いや、でも、確かに早いな、俺……やってみてわかったよ……」

「……って、また言ったそばから」

「……ごめん」

「も~……アッキーはほんと~に早いなぁ~……」

「わかったから謝るからだからもう早い早い言うのやめて! 別の意味で傷つきそうになるから!」

「アッキ~、はっや~い!」

「ほんとやめて! しかもそれ怒られるやつだから!」


 という訳で、少し遅めのランチタイム、その最中で。

 時乃は、倫也に、くたくたにさせられたというアドバンテージを活かし……

 女の子のみに許された特権わがままを発動させた。

 それは、埋め合わせと称した、お姫様扱いと言えなくもない、時乃の望むままという方針ではあったが。

 負い目があった倫也は、大人しくそれを飲み込むほかなく。

 結果、これでおあいこのお互い様、それでチャラということで話がまとまり……

 二人は今、ちぐはぐだった歩幅をなんとか合わせながら、散歩するだけのような形で、園内をぶらぶら歩いていた。……あ、いろいろまぎらわしかったらごめんね。

「今思うと、トキにだいぶ無理させてたんだな……いまさらだけど、ほんとごめん」

「現在進行形で埋め合わせてもらってるし、そのことはも~いいよ~」

「そう言ってもらえるのは助かるけど……」

 濁したような『けど』に、時乃は、くりんと不思議そうに首を傾げる。

 倫也は、またしても何かNGを踏み抜いてしまうのではないかと、少しだけ迷ったものの……

「……いいのか? 何か乗ったりしなくても。乗りたいのとかあるなら……」

 今度は、きちんと、時乃の、でを、踏まえた上で、尋ねた。

 そんな倫也の含みを、きちんと汲み取れたのかは、時乃にしかわからないけれど。

「あー、そうだなぁ~……じゃあ~……」

 正直なところ、先程の、ぐるぐる混ぜてもちょうどいい塩梅どころかふらふらしただけの乗り物以外であれば、なんでもよかったりとは思いつつ。

 とりあえず、を求め、時乃はう~んと辺りを見回してみる。すると、すぐ近くの、例のアレ前行参照の後ろに、お化けが出るといってもあながち嘘でも間違いでもない、レンガ調の洋館チックな建物が目に留まる。

 ここからならそう遠くないその建物を、時乃が指差す。

「アレ、行こっか?」

 安直であり、テンプレでもあり……

 しかし、見方を変えれば素直で、特別を求める乙女でもあったりな……

 そんな時乃の選択は、いろいろな意味で、距離を縮めるのには最適だったりした。


  ※  ※  ※


 真っ暗な場所を、ときどき大きな音がしたりもする進路を、組み合わせによっては仲睦まじかったり仲睦まじくなかったりする二人で、ただ進んでいくだけ……

 といったテンプレが、なぜテンプレとまで呼ばれるか、世が立証するか如く。

 実際に、険悪な関係が、大なり小なり解消の方向へ寄ったりしたり。無味乾燥で曖昧模糊だった関係が、鬱陶しいくらい露骨に進展したりもして。

 だから、そんな、緊張感がもらたす、心理的効果は……

 そういった男女の関係に、時乃と倫也が、今は不慣れだったのもあってか……


「なぁに、所詮は子供向け。この程度余裕ですよ、ガハハ……!」

「……いや、震え声で言われましても」

「トキよ、案ずることはない。森羅万象に身を委ねよ、さすれば救われん……」

「いや、だから、そんな震え声で言われましても」

 

 まぁ、倫也の言う通り、大人もマジでガチで殺しにくる本格的なもの例えば某所の戦○迷宮とかに比べたら、いくらか軽減されてしまったりするかもしれないけれど。


「拝啓、お父様、お母様、そして『blessing software』のメンバー一同へ。私、安芸倫也は、俗に言われる『吊り橋効果』なるものがはたして真実かどうか、姫川時乃を道連れに我が身を持って検証……」

「ちょっ、ちょとちょっとアッキー、このタイミングでそゆこと言うのやめてよ。ていうかそれもう完全にフラグじゃん、やめてよ、巻き込まないでよ……」


「……ひうっ!」

「うぉい!」

「……んぃっ!」

「余計ビビるから突然の奇声やめて!」


 という具合に、アトラクションの仕掛けにビビったというよりは、パートナーがビビったことにビビったみたいな、わかりやすいテンプレ展開を挟みつつ。


「く、来る……? そろそろ来るよね……? きっと来ちゃうよね……?」

「あたたたた痛いトキそこ痛いから! そこつねっちゃまずいとこだから!」


 一人は恐怖で、一人は痛みで、それどころじゃなくなったりもしたけれど。

 古今東西、テンプレがテンプレたる所以を、それぞれ身をもって体験し、検証し、同じく立証するかの如く……

 時乃と、倫也の、心の距離は、確実に……


「はぁ……楽しかった~……」

「痛かった……痛かったぞぉ……」

「……どしたの? ぶつけた?」

「違うよトキがずっとつねってたせいだよ!」

「あ~……あれ、アッキーの腕だったかぁ……」

「自覚ないのかよ! むしろ何だと思ってたんだよ!」

「あ、あはは……ごめんね?」

「……あ、いや、大丈夫」


 精神的にも、物理的にも……


「……なぁ、トキ。大丈夫だから。ほんとに大丈夫だから」

「いや、でもほら、わたしのせいだし……」

「それは確かにそうなんだけどこれはこれでなんか変な空気になっちゃうじゃん」

「え? ……あ~……」

「…………」

「…………」

「……ほらやっぱり変な空気になっちゃったじゃん!」

「心配でさすってただけなのにアッキーが変なこと言うからでしょ!」


 その距離は、たった一歩どころか……

 半歩にも満たない、かすかで、わずかな距離だったけれど。

 それでいて、ちょっと鬱陶しくて、ちょっと露骨だったりはしたけれど。

 確実に、今度こそ、縮まったと言えなくもなかった。


  ※  ※  ※


 斜陽の角度が、一度、また一度と、針のように細まっていくたび、一時の夢を望む場所も、夕暮れに染まっていく。

 ナイトパレードのことを考えれば、乗れてあと一つといったところではあるが、しかしこれといって乗りたいものもなかったため……

 最初はスルー……いや正確には倫也によってスルーさせられた、その白き巨大な城を、特にこれといった意味もなく、ただ、ぼーっと眺めていた。

「お城、綺麗だよね~」

「シンデレラ城か……」

「シンデレラストーリー、憧れたなぁ……」

「わかる……わかるぞトキ!」

「ほんと?」

「ああ、成り上がりはいい……とてもいい……」

「……まぁいいや」

 時乃は、内心で、『この人ほんと……』なんて呆れ、ため息を吐いたものの。

 等身大のスクリーンを見ているような感覚と、実際にその中にいるかのようなロマンチックさと、ノンフィクションのシチュエーションということもあり……


「あの話に出てきたガラスの靴って、どんなだろね」


 ほんの少しだけ目を細めて、感慨に耽っているような、ここではない遠くを見ているような横顔で。切なげで、儚げで、今にも消えていってしまいそうな声で。

 時乃は、ぽつりと、夢の熱に浮かされるように、そんなことを言った。

「どんなって、そりゃそんなの……いや、どんなだろうな」


 倫也は、口を衝いて出かけた言葉を……無理矢理、止めた。

 それを言ってしまうのは、彼女にとって、やっぱり無粋で、やっぱり野暮で、やっぱり台無しにしてしまうだろうと思ったから。


「トキは、その……こんなだってのは、あるのか?」

「……うん、あるよ」

 

 断言を質問へと置き換えた倫也に、時乃が微笑みながら、振り向く。


「わたしにとってはね……」


 その瞬間……

 倫也は、目の前の時乃に対して、驚きと、嬉しさを、同時に、覚えた。


「わたしにとってのガラスの靴は……今の、この気持ちかなって」


「エチカとランコと出会って……ミッチーと出会ってさ……

 その縁でアッキーとも出会って、こうやって関わって、デビューのお膳立てとかもしてもらってさ……」


「そしたら、楽しくて、しょうがなくて……

 わたしでも、好きなことでこんなキラキラできるんだって思ったの。

 もっと、ずっと、キラキラしてたいなって思ったの」


「わたしと、エチカと、ランコと、ミッチーと、アッキーと……

 これからも、一緒に、今みたいにやってけたらな~って」


「最初は好きで始めたことなのに……

 それなのに、なんか、こんな大きく膨らんじゃってさ。

 夢って、こういうのなのかなって、らしくないのに思っちゃったりもしてさ」


「でも、シンデレラみたいに、拾ってもらえるかわかんないから……

 だから、途中で落っことしちゃわないように、ずっと抱えてなきゃな~って。

 今はただ憧れるだけじゃなくて、そう思うんだ。……わたしの場合はね」


「……えへへ、喋りすぎちゃった。今のけっこー痛かったよね、作詞とかするようになった影響かなぁ」

「……いや、痛い訳ないだろ、そんなの。少なくとも俺は思わん」

「そっか、じゃ~よかった」


「……なぁ、トキ」

「ん?」

「一枚……いや、一枚じゃ足りないな。お前のこと何枚か撮ってもいい?」

「なに急に……別にいいけど、撮るならちゃんと可愛く撮ってよ?」

「……ご期待に添えられるかどうかはわからんが善処はする」


  ※  ※  ※


 あれから、特にこれといった理由もなく、せっかくだしついでだし的な流れで、パレードもしっかり参加し、なんだかんだで堪能し。

 その帰り、行きの時よりも大混雑となった車内の中で、押され流され、お姫様を守る騎士のようになったり。また、騎士に守られるお姫様になったりとしながら。

 倫也と時乃は、行きと同じくらい……の時間、電車に揺られ。

「さてさて……それじゃ~そろそろ解散にしますか」

 夢の時間の名残を引きずりつつ、珍しい組み合わせによる二人の、ちょっぴりの非日常は、今まさに、少し早めに終わりを迎え……

「もう遅いし、トキさえよければ近くまで送ってくぞ」

「お? なになにアッキー、珍しく優しいが継続中じゃん」

「……珍しくって言うな」

「日頃の行いが悪いっ! ……でも、そだね、今日はお言葉に甘えちゃおっかな」

 ……るのは、やっぱり、もうちょっと先ということで。


  ※  ※  ※


「もうすぐだし、ここまででだいじょぶ」

 やがて、待ち合わせ場所だった場所から、数駅……いや実際は数駅どころじゃ済まないかもしれない距離を、またしても、二人仲良く電車に揺られて。

 それでも、シンデレラタイムは刻一刻と迫り、後はただ、かけられた魔法が解けるだけの如く……

「送ってくれてありがとね」

「……俺のほうこそありがとな。いい気分転換になった」

「そっかそっか、じゃ~誘った甲斐があったよ」

 二人の、もしものおとぎ話めいた時間は、今度こそ、終わろうとしていた。

「あと……ごめんな、いろいろ無理させて」

「わ、まだ気にしてたの? あはは、なんかアッキーらしくなくて調子狂いそ」

「……かもな。自分でもそう思う」


 ……終わりのはず、だった。


「じゃ、またミーティングで……」

「うん、またミーティングで……」


 けれど、夢の時間を共に過ごしたことで。共に夢を見たことで。

 いつもなら、そのまま過ぎていくだけの針が。


「…………」

「…………」


 シンデレラタイムを過ぎようとしている針が、ほんの少しの間だけ、止まる。


 時乃は、上げかけた手を、下げ……

 倫也は、去ろうとしていた足を、止め……


 目の前の相手は、白馬が似合う訳でも、薔薇が似合う訳でもない……

 大きなガラスの靴をくれた、ナシ寄りの、普通で、変わり者な男の子に。


 目の前の相手は、思わず、写真を撮りたくなってしまったほどの……

 落としてしまわないよう、ガラスの靴は胸に抱えた、華奢で小さなシンデレラに。


 決して、物語に出てくるお姫様のようにはなれないけれど、なれないなりに。

 きょとんと寂しくて、ぽつりと虚しくて、だからこその人恋しさを感じて。


 どこかで描かれたかもしれない、どこかにとっての。

 都合がよくて理想の女の子に、もったいなさと、名残惜しさを感じて。


「……あ、えっと、せ、せっかくだし、連絡先、交換しとく?」

「あ、ああ……そうだな、一応……」


                                   (了)


 ここから先は、一方その頃……的なおまけです。

 メタ要素とご都合主義要素を多分に含みますのでご注意ください。


「ラブコメの波動を感じる……」

「……はぁ? いきなり何言ってんの? こじらせすぎてとうとう本当に頭おかしくなった?」

「……よかったわね澤村さん。自分がポンコツパチモン幼なじみで」

「は、は、はぁぁぁぁ~~~~~っ!? い、いい、言ったわね! あんたまた言っちゃいけないこと言ったわね!」

「そんなことより……」

「…………………………………………」

「部屋の隅で膝抱えてドス黒いマイナスイオン振り撒いてるアレ、いい加減なんとかしてもらえる? あなた、親友でしょ?」

「……無理。恵、一度へそ曲げると頑固だし。っていうか、こういう時こそあんたがなんとかしなさいよ、普段散々年上ぶってんだから」

「嫌よ、こうなった時の彼女、とてもとても面倒だもの。それに触らぬ神に祟りなしと言うでしょう?」

「……聞こえてるんだけどなぁ。ていうか二人とも、わたしのことあれこれ言うより、他にやらなきゃいけないこと、あるんじゃないのかなぁ」


                                   (了)

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