第52話 対クリフ
「次! ブレイド! クリフ・バールトン! 試合場へ!」
呼ばれて試合場の中央に向かうと、観客から歓声が沸く。どうやら俺の対戦相手は有名人らしい。歓声と共に現れたのは、背は俺より低いが、筋骨隆々で縦より横に大きい三年生だった。日焼けした肌に短い白髪、エンジ色の瞳をして、自分の身長より長い幅広の大剣を担いでの登場だ。
「シージは惜しかったな」
俺の顔を見るなり馴れ馴れしく口を開くクリフさん。さて、会った事があっただろうか? 首を捻り思い出すと、そう言えば始業式で学内を歩き回った時に、ヴォルフリッヒさんと戦っていた人だと思い当たる。だがあれはこちらが一方的に見掛けただけだ。
「なんだ、折角試合場に放り投げてやったのに、お礼も無しかよ」
ああ! シージの一回戦で試合場にたどり着けなくて、焦っていた時に放り投げてくれたのはこの人だったのか!
「あの節はありがとうございました」
俺は対面するクリフさんにペコリと頭を下げる。クリフさんも満足そうだ。
「お前、面白い戦い方するよな。俺も楽しませてくれよ?」
身長よりも大きな大剣を片手で振るい、その切っ先を俺に向けるクリフさん。あの筋肉は伊達ではなさそうだ。
「では、始め!」
ラウド先生の声が轟き、クリフさんとの試合が始まる。クリフさんはブーストを唱えると大剣を両手で持ちに、剣を水平にしてそれを顔の横まで持ってくる。あれは、
「俺もお前と同じヴォーパル一刀流だ。同門同士よろしくな」
ほう、そうなのか。別に俺はヴォーパル一刀流を名乗った事はないが。確かに俺もああやって顔の横に剣を持ってくる事がある。が、あれは攻撃に特化した構えで、腹がガラ空きになるのだ。あれだけ重そうな武器なのに、それだけ攻撃速度に自信があるのだろう。
それに対して俺はブーストを唱えると中段に木剣を構える。これがどんな状況にも対応出来る構えだからだ。互いに剣を構えると、ジリジリと距離を詰めていく。俺が普通サイズの木剣であるのに対して、クリフさんはあの長大な大剣であり、更には攻撃特化の構えだ。
「ぜいやあッ!!」
先に動いたのはやはりクリフさんだ。大きく一歩こちらに踏み出し、上段から斜めに大剣を振ってくる。上段からの振り下ろしは、大剣の自重も加わり凄い勢いで俺に迫ってくる。俺はそれを木剣を横にして受け止めようとするが、愚策であった。
受けた瞬間にこれはやばい、と直感が働き、素早く身体を半身にして大剣を受け流すように構えを変える。それは正しく、鉄さえ切り裂く俺の木剣は、容易くクリフさんの大剣に両断され、俺のいた場所を大剣が猛スピードで通り過ぎた。
「避けたか。賢明だな」
ニヤリと口角を上げるクリフさん。これは、一撃でも食らったら骨折どころでは済まない。背筋を大量の冷や汗が流れるのが分かる。
俺は直ぐ様両断された木剣を生成し直し、木槍に変化させる。この人とこの人の間合いで戦っては駄目だ、と俺の直感が警鐘を鳴らしていた。
「ほう? 面白いな」
クリフさんの方は余裕綽々と言った感じで、大剣を肩に担いでみせる。ぐっ、余り舐めるなよ。俺は素早く木槍をクリフさんの喉目掛けて突き出すが、俺の木槍がクリフさんの喉に届くより速く、木槍は切り裂かれてしまった。速い。あれだけの大剣だと言うのにブーストを掛けているからといっても速い。
俺はならば数で勝負だ。と槍を連続で突き出すが、それを全て大剣で切り刻んでいくクリフさん。くっ、勝ち目が見えない。俺は更に距離を取ると、木剣を弓に変えて矢を放つ。がそれも届く前に叩き落とされてしまった。成程。
「どうした? もう終わりか?」
「まさか。これからですよ」
「それは楽しみだ」
白い歯を見せて喜ぶクリフさん。どうやら余り小手先の事をしても勝てそうにない。ならば、
「ブースト! ブースト!!」
更にブーストを掛けて身体能力でクリフさんを上回る。「ははっ」と笑顔を深めるクリフさん。それがとても凶暴な何かを内在しているのようで、俺の背筋を流れる冷や汗が止まらない。
やってやる。俺が水平に構えた木剣を顔の横に持ってくると、対してクリフさんは中段に剣を構える。試合開始の時とは反対だ。
俺は水平に構えたままクリフさんに突っ込んでいく。スピードなら今は俺の方が上だ。懐に入った所で、心臓目掛けて突きを繰り出す。しかしそれを大剣の腹で受け止めるクリフさん。ならば、と俺は左に回り込み、足を狙うが、これもクリフさんの大剣に阻まれてしまう。
後ろに回り込み上段から切り掛かっても、大剣で受け止められ、胴を狙っても小手を狙っても大剣が邪魔をする。クリフさんは思った以上に大剣を使った防御に慣れていた。クリフさんの周りをぐるぐる回りながら、隙を窺いそこに木剣で切り込むが、全て大剣で防御されてしまう。幅広の大剣はどうやら盾の要素も兼任しているようだ。防御が厚い。ならば、
「ブースト!!」
更にスピードを上げるだけだ。
「おいおい、そんなにスピードを上げて、身体が持つのか?」
心配なら自分の事だけにして欲しい。それを示すように俺の木剣はようやくクリフさんを皮一枚だが切り裂き始めた。
クリフさんの目から余裕が消える。ここだ! クリフさんが俺の剣を跳ね返し、攻撃に転じようとした所で、俺は木剣を網状に変化させてクリフさんに絡ませる。
それを察知したクリフさんは、網状になった木剣を切り刻むが、スピードが極限まで上がった俺にはゆっくりに見える。俺は切り刻まれた木剣の破片を掴むと、瞬時に投げナイフへと変化させ、何十本となった木製ナイフをクリフさんに投げまくった。
流石にこれを全て跳ね返す事は叶わなかったクリフさんに、次々と突き刺さっていく木製ナイフたち。だが、全て投げ終え、身体中木製ナイフだらけになっても、クリフさんはその場で膝をつく事もなく、剣を構えたままだった。
「耐え切ったぞ」
ニヤリと笑うクリフさん。くっ、まだやる気なのか!? 俺は地面に落ちていた木製ナイフを木剣に変え中段に構えると、もう破れかぶれでクリフさんに切り掛かっていこうとした所で、その木剣を後ろから掴まれて止められる。何事か!? と振り返るとラウド先生が俺の木剣を掴んでいた。
「そこまでだ」
は!? 意味が分からず呆然とする俺の横を通って、クリフさんの様子を窺うラウド先生。
「ここまで! クリフは戦闘不能とみなす! よってブレイドの勝利!」
意外な結末だったのだろう。観客席からは悲嘆と歓声が入り乱れる。俺は、勝ったのが未だに信じられず、呆然としていたが、ブーストが切れた反動で全身が激痛に見舞われたのだった。
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