第53話 アイン対セシリー

「か、身体が痛い」


 バキバキのピキピキである。ポーションドリンクを口にするが、これ程度では到底回復しない。


「そりゃあ、そうでしょうよ。あれだけブースト連発したんだから」


 マイヤーが呆れている。


「まあ、そう言わずに。ここはあのクリフ殿に勝った事を素直に賞賛すべきでしょう」


 そう言ってリオナさんがスっと自分のポーションを差し出してくれた。


「え? でも、悪いですよ」


「良いんですよ。私は既に敗退していますから。ブレイド殿が使って下さい」


 そう言って貰えるのはありがたい。俺はリオナさんから差し出されたポーションを飲み干した。不味かった。母の味がしたので母の調合したポーションなのだろう。効果は直ぐに出始め、痛みがスっと消えていく。


「すみませんリオナさん。俺の準備不足でした。このお代はちゃんと払います」


「良いんですよ。気にしないで下さい」


 そう言う訳にもいかない。まあ、今は手持ちが無いので後で払おう。



 俺とアインは順調に四回戦を突破した。そして次の五回戦を突破すれば、アインとの直接対決である。


「次、アイン・アイボリー! セシリー・ピジョンズ!」


 アインの五回戦の対戦相手は女性だ。青灰色をした髪を首の後ろで二つに結び、血のように赤い瞳が真っ直ぐにアインを見据えている。紫の差し色の入った制服を着ているので、四年生なのだろう。だが何より驚かされるのは、彼女が無手と言う事だ。


 アインが愛用の槍を持って彼女の前まで進み出るが、セシリーさんがどこかから武器を取り出すような仕草は見られなかった。


「では、試合開始!」


 そのうちにラウド先生の合図で試合が始まってしまった。


「ハッ!!」


 そしてラウド先生にも負けない大声で気合いを入れたセシリーさんは、半身になって無手で構える。どうやらセシリーさんは本当に徒手空拳の流派のようだ。対してアインも少し驚きはしたが、腰を落として槍を水平に構える。


 ジリジリと距離を詰める両者。だが当然長物を扱うアインの方が先に攻撃範囲に到達する。足で強く地面を踏み締め、高速の突きを繰り出すアイン。セシリーさんはそれを後ろ足を一歩横にズラす事で躱すと、アインの槍を掴みにくるが、そうはさせまいとアインは高速で槍を手元に戻す。


 更に槍を繰り出すアイン。槍を掴まれないように注意しながらの連続突きだ。その全てを避け切るセシリーさん。流石に五回戦まで勝ち抜いてきただけあって相応の防御力を備えている。しかし、避けるだけではここまで勝ち上がってこれていないはずだ。


「ハッ!!」


 更に気合いを入れたセシリーさんは、腹を突きにきたアインの槍を寸前で膝と肘で受け止めた。それを引き抜こうとするアインだったが、どうやらビクともしないようだ。そしてセシリーさんは肘で挟んだのと反対の手でアインの槍を捕獲すると、槍ごとアインを宙に持ち上げ、そこからアインを地面に叩き付けた。


「ぐはっ!?」


 地面に叩き付けられて顔を歪めて痛がるアイン。槍を持つ手を離してしまう。これを好機と槍を明後日の方角に放り投げて、まだ倒れたままのアインの元に近付いていくセシリーさんだったが、もう一歩でアインに攻撃出来る距離と言う所まで来て、足を何かに取られて転びそうになってしまう。


 見ればアインのサイドアームの紐がセシリーさんの足に絡まっていた。してやったりのアインは痛がっていたのが嘘のように、素早く立ち上がると、明後日の方に投げられた槍を素早く取りに行く。


 対するセシリーさんは足に絡まった紐を無理矢理引き千切ろうとするが、どうやら紐は特別製らしく引き千切れない。ワタワタとセシリーさんが紐を振り解いている間に、槍を取り返したアインが迫る。


 アインが足に紐が絡まったセシリーさんに突きを繰り出すが、それは悪手だった。自分に突き出される槍に向かって、自分の紐の絡まった足を突き出すセシリーさん。そうやってセシリーさんは槍でもって紐を切ってみせたのだった。


「くっ」


 紐からの脱出の手助けをしてしまったアインは、セシリーさんを仕留めようとドスドスドスと突きを連続して繰り出すが、それを横に回転して全て躱すセシリーさん。


「ふぅ」


 アインの槍を全て躱したセシリーさんは、アインから距離を取った場所で立ち上がると、自分に付いた土や草を払う。


「ハッ!!」


 そして気合いの掛け声と共に、アインへと突進していくセシリーさん。突き出される槍を半身になって避け、しゃがんで躱し、飛び跳ね、回転し、全てを避け切ったセシリーさんはアインの懐に切迫しており、そこは無手のセシリーさんの距離だ。


 今までのお返しとばかりに突きを繰り出すセシリーさんだったが、それを槍の柄で受け止めるアイン。


「おっ?」


 その後もどんどん突きを、蹴りを、肘を、膝を、繰り出していくセシリーさんだったが、アインは器用にそれを槍の柄で防いでいく。前のガイウスとの戦いでもそうだったが、どこまでの戦いを想定して戦術を組み立てているのか、恐らく無手との戦いもアインにとっては想定内だったのだろう。


 アインはセシリーさんの蹴りを柄で受けると、素早く石突き部でセシリーさんの軸足払う。これですっ転ばされるセシリーさんの上に馬なりに乗ったアインは、両膝をセシリーさんの腕に乗せて封じ、槍を短く持つと、穂先をセシリーさんの喉元に突き付けたのだった。


「はあ、参りました」


「そこまで! アインの勝利!」


 う〜ん、アイン、すげえ強くなってるな。正攻法で倒せる気がしない。おっと、その前に俺も五回戦があるんだった。対戦相手はあの人だったな。

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