第51話 アイン対ガイウス

「ハンドソープぅ!?」


 気絶していたマイヤーが目を覚ました。どんな夢見てたんだよ。


「あれ? ここは?」


「客席だよ」


「そっか、私会長と戦って……」


 そこで俯いてしまった。あれだけ実力差を見せ付けられては、普段明るいマイヤーでも思う所があるのだろう。しかしマイヤーは一度目元を腕で拭っただけで、試合場に目を向ける。


「今、試合はどんな感じ? 私どれくらい気絶してたの?」


「そんなには眠ってねえよ。今からアインの試合だ」


 俺の言葉を聴きながらも、目は試合場に向いたままだ。そしてアインの対戦相手にちょっと驚いている。


「相手、ガイウスなのね」


 ガイウスは二年生を取り仕切っている、言わば二年のトップだ。前の決闘の時は先頭に立って俺たちに向かってきた。その時はエドワード会長が相手をしてくれていたが、今ならあの会長の相手を出来る事がどれ程凄い事か肌身で理解出来ている。


「アイン、勝てるかしら?」


「どうかな?」


 アインは余り他人と話したがらない性格だ。だが不言実行が彼を表す良い言葉で、その言葉通り黙々と槍を振るっている姿を良く見掛けていた。それがどれ程か、このデュエルで分かるはずだ。


「では! 始め!」


 アイン、ガイウス共に武器は槍だ。腰を落とし、相手に向かって槍を水平に構える両者。しばらく沈黙が場を支配する時間が続く。しかしそれは何もせずにただいたずらに時間が費やされていた訳じゃない。目線を動かし、槍を微妙に動かし、両者共にフェイントを掛け合い隙を窺う為の時間だった。


 先に大きく動いたのはアインだった。腰を落とした低い姿勢のまま、頭をブレさせずスっとガイウスに一歩近付くと、ボッと空気を切り裂く音がこちらに聴こえてくる程の高速突きをガイウスに向かって放つが、それをガイウスは槍を立て半身になって躱す。


 と今度はガイウスが大きく一歩前に出ると上段から槍を叩き落とす。それを半身になって躱すアインだが、叩き落とされるガイウスの槍は途中でピタリと止まると、アインを狙う横薙ぎに変化した。


「ッ!」


 それを槍の柄で受け止めるアイン。アインはそれだけでなく槍をくるりと回転させてガイウスの攻撃をいなすと、回転の勢いを付けたまま槍をガイウスに突く。がこれはガイウスに躱されて、槍は地面に突き刺さる。


 これを見逃さないガイウスは、槍を地面から抜こうとするアインを連続突きで追い払い、槍からアインを遠ざけ、地面に突き立ったままのアインの槍の前に立った。


 これは誰から見ても万事休すだろう。と思った時だった。アインは腰バックから紐を取り出した。両端に重りの付けられた紐をブンブン振り回すアイン。


「サイドアームってやつか」


 ポツリと呟く俺にカルロスたちが首肯する。アインはこうなる事もあると見越して、副装備サイドアームを用意していたのだ。


 いきなりの槍から紐と言う珍しい武器に代わり、動揺するガイウス。それを見越してかアインが先に仕掛ける。紐の先端の重りを回転の勢いを乗せて、ガイウスの顔面に目掛けて投げ付けたのだ。驚くガイウスだったが、躱すのは容易だったようだ。だが、アインの目的はその先だった。


 ガイウスが躱した事でアインの紐はその先のアインの槍までたどり着き、槍に絡み付いた。


「くっ」


 そう言う事か、と気付いたガイウスは槍で紐を断ち切ろうとするが、それより一歩早くアインが紐を引いて槍の回収に成功する。


「やってくれるな」


 一年生に良いようにやられて、ガイウスの声に少し怒気が込められる。槍を手元に戻したアインはまた腰を落として槍を水平に構える。対してガイウスは、その少しの怒気に身を任せるように連続突きを繰り出す。それを冷静に捌いていくアイン。それでもアインは押され気味に後退していく。だがそれは布石であった。


 ガイウスがアインが元いた所まで歩を進めたところで、足を何かに引っ掛けて体勢を崩したのだ。見ればガイウスの足下にはアインがわざと置いておいたのだろう紐が置かれていた。


 この紐に足を取られ体勢を崩してしまったガイウスの眼前にアインの槍が突き出され、突き刺さる手前でピタリと止まる。負けを覚って息を吐くガイウス。


「そこまで! アインの勝利!」


 ラウド先生の宣言でアインの勝利が決まった。

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