第50話 三回戦
「次! ヴォルフリッヒ・バイラッハ! リオナ・バンシャン! 試合場へ!」
三回戦が始まった。初戦はリオナさんだ。相手はヴォルフリッヒ・バイラッハと言う三年生だ。金髪赤眼の色男で、試合場に姿を現すと、歓声が巻き起こる。
「ヴォルフリッヒさんか、厳しいわね」
と観客席最前列で俺の横にいるマイヤーは渋い顔だ。カルロス、アイン、ショーンも同様である。
「ブレイドは一般コースが終わったら直ぐに帰っちゃうから知らないかも知れないけど、武術の研究コースじゃ強い事で有名な相手よ」
との事、中々厄介そうな相手であるらしい。
「入学式の日に剛剣の相手と戦っていた、変幻自在の剣の使い手って覚えてますか?」
とアイン。ああ! あの人か。思い出した。あの時は俺より強いと思っていたっけ。成程、三回戦にして厄介な相手と当たったものだ。
「始め!」
ラウド先生の合図で両者ブーストを唱えて真剣と木剣を中段に構える。リオナさんはジリジリとヴォルフリッヒさんを中心に左回りに円を描くように移動しながら隙を窺う。
対するヴォルフリッヒさんは、その場でトントントンと軽く跳ねながらタイミングを図っていた。
リオナさんが先に仕掛ける。ヴォルフリッヒさんの横から潜り込むように接近すると、斜め下から木剣を切り上げる。が、ヴォルフリッヒさんはそれをトンと軽く一歩後退したかと思うと、リオナさんの剣先を自らの真剣で叩いて、リオナさんの体勢を崩すと、身体が流れたリオナさんの頭を狙って上段から剣を振り下ろす。
それを前転する事で間一髪で躱すリオナさん。直ぐに立ち上がりヴォルフリッヒさんに向かって木剣を構えるが、ヴォルフリッヒさんは既に攻撃に移っていた。
鼻、喉、心臓への三点突きがリオナさんを襲う。それを後退しながら体の中心を守るように木剣を立てて直撃は防ぐが、逸れた攻撃によって頬と肩に被弾してしまう。
ヴォルフリッヒさんはそこで攻撃の手を緩めず、リオナさんの左回りに移動すると、膝を攻撃して片膝を付かせ、更に頭を狙った上段からの振り下ろし、をフェイントに、防御に回ったリオナさんの小手を狙って木剣を落とさせると、スっと首に真剣を突き付けた。
「参りました」
リオナさんが両手を上げて負けを表明してこの試合は終わった。
「相手が強すぎましたね」
「ええ。自分の不甲斐なさを実感しました。剣の一つ一つに意味があり、練度が違っていました。私は強くなったと思っていましたが、まだまだやるべき事が多い。身のある実戦でした」
俺の一言にこれだけ返せるリオナさんだ。次にヴォルフリッヒさんと戦う事があれば、もっと良い戦いをする事だろう。
「次! マイヤー・タッカート! エドワード・ベリル! 試合場へ!」
次はマイヤーと…………エドワード会長か!!
「マイヤー、無理はするなよ」
「当たり前よ! 流石に死にたくないからね。でも爪痕くらいは残してくるわよ!」
そのやる気が空回って大怪我しなきゃ良いんだけど。マイヤーはやる気満タンといった感じで、ハルバードを担ぐとドスドスと地面を踏み鳴らしながら試合場中央に向かった。
中央では既にエドワード会長が槍を肩に掛けて待っていた。その正面に着くと、マイヤーはハルバードを構える。その穂先はエドワード会長の喉に向けられている。
対して会長もおもむろに槍を構える。腰を落とし、水平に槍を構える姿は堂に入っていて、隙が見当たらない。
「始め!」
ラウド先生の合図で試合が始まった。
「ぜいやあッ!!」
気合いと共に先手必勝でマイヤーがハルバードで突いていく。マイヤーの連続突きを槍でもって全ていなしていくエドワード会長。
「くっ!」
突きでは会長の防御は崩せないと理解したマイヤーは、攻撃方法を変える。ハルバードとは穂先である槍先部の横に斧部と
マイヤーはこちらの被弾覚悟にエドワード会長との距離を更に縮め、会長の顔を穂先で突く。それを顔を横に動かしスレスレで躱す会長。だがそれがマイヤーの狙いだ。穂先の横についた斧部を横に振るい、会長の顔へ追従する。
それを槍の柄で受け止める会長。そこからはマイヤーの乱打戦だ。ハルバードを振るい、柄の反対に付いている石突きで会長の足元を狙う、がこれを阻止され、ならばと鉤部で引き摺り下ろそうとするが、受けた柄の部分を滑らされていなされる。斧は躱され、穂先は避けられ、鉤も石突きも擦りもしない。
「実力が違い過ぎるな」
「ああ」
傍から見てると大人にじゃれつく子供のように映る。それだけ実力差があるのだ。シージの時の俺もこうだったのかも知れない。
ギイイインンッ!! エドワード会長が円を描くように槍を振り回すと、マイヤーのハルバードはエドワード会長の槍に巻き込まれ、弾き飛ばされてしまった。
「ぐっ!」
取りに行こうとする間もなく、マイヤーはエドワード会長の石突きの一撃を
「そこまで! エドワードの勝利!」
ラウド先生の勝利宣言が告げられた直後、俺たちは素早くマイヤーの元に近寄り、気絶したマイヤーとハルバードを回収して観客の元に戻っていった。
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