第32話 六対百その3

「てめえ、いい加減にしろよ!」


 俺を包囲しようと展開する二十五騎の人竜たち。だがそうはさせまいと俺とアルジェントは全速力で包囲網から飛び出す。


 広いフィールドを縦横無尽に使い、右旋回、左旋回、急上昇、急降下にストップアンドゴーと逃げまくる。


 しかしそれでも数の差はどうしようもなく、二年生の包囲網は徐々に俺たちを捉え始める。


 竜のブレスに突進、騎乗する二年生たちの魔法に武器が俺たちに迫り、それを時に潜り抜け、受け流し、弾き返し、更には魔法や木槍で反撃し、前面に回り込まれれば体当たりで道を切り開き、俺とアルジェントは陽が沈むまで何としてでも持ち堪えようと、ひたすら足掻く。


 しかしその奮闘も虚しく、俺たちは包囲する二年生たちの魔法の鞭によって絡め取られてしまった。


「ちっ、手こずらせやがって!」


 ショーンをいじめていた一人が、息を切らせながらも、ニヤついた顔で俺たちに近寄ってくる。もがく俺とアルジェントだが、もがく程に鞭が食い込んでいく。もうここまでか。と思った瞬間。


「ぜいやッ!」


 上空からの一騎の突進により、俺とアルジェントに絡み付いていた魔法の鞭のいくつかが千切れ飛ぶ。


 救援に駆け付けてくれたのはマイヤーとサファイアだ。それだけじゃない。アインとオクタミル、ショーンとルブルムも駆け付けてきて俺たちを縛る鞭を切り払ってくれた。


「良くあの包囲を突破出来たな!」


 喜びもあるが驚きだ。


「当然でしょ! こっちはブレイドたちの三倍いるのよ! 貴方たちだけに気を吐かせるなんてさせないわ!」


 マイヤーの言葉にアインとショーンも頷いている。仲間ってのは心強いものだな。だがマイヤーたちが駆け付けた事で、俺たち四騎を囲む包囲網は五十騎と倍に膨れ上がった。


「それで、日没まで持たせれば良いのね? 何か策があるんでしょ?」


 俺を振り返るマイヤー。その顔は必死に笑顔を作ろうとしているが、引きつっている。アインやショーンも同じだ。それもそうだろう、周りは俺たちを取り囲む人竜によって塞がれ、ネズミ一匹逃げ出す出口も無さそうだ。


「策がなくて大見得切っただけだとしたら?」


「この場では心中してあげるけど、その後の人生は保障出来ないわね?」


「安心しろ! とびきりデカい花火を打ち上げてやる!」


 俺の宣言に意志を固めた三人は、それぞれ時間を稼ぐ為に、三方向へと散り、二年生たちと戦い始めた。


 そして三騎が時間を稼いでくれるからと言って、俺に敵の手が伸びない訳じゃない。俺とアルジェントも空を駆け、五十騎の包囲網から生き残るのに必死になる。


 俺たち四騎は、仲間の誰かが敵騎に捕まれば助けに駆け付け、誰かが囲まれれば包囲を破り、魔法を放ち、ブレスを放ち、武器を突き刺し、突進する。


「何てしぶとさだ! 分かってるのか? 相手はたった四騎なんだぞ!?」


 いじめのリーダー格が吠えるが、戦況は四対五十だと言うのに、俺たちを仕留められずにいる。衆人環視の中、この醜態は後の評価に響きそうだ。


 そんな事を頭の隅で考えてしまったからだろう。俺は片足を二年生の魔法の鞭で捕らえられてしまった。


「へっ、やっと捕まえたぜ!」


 三騎は自分たちへ向けられる攻撃の対応で今手を離せそうになかった。ならば、と俺はアルジェントの背から飛び出し宙を舞う。


 魔法の鞭で俺を捕らえた二年生の乗る竜へと飛び移り、驚く二年生に一発ぶち込むと、騎上から蹴り落とし、更に二年生の竜から飛び降りた。


 二年生たちが呆気に取られている中、颯爽と俺の下に現れるアルジェント。流石は俺の相棒だ。無茶をしてもカバーしてくれるから本当にありがたい。


 俺たちが無茶をしている間に、三騎も無茶をしたようだ。爆発音がして振り向き目にしたのは、三騎が討たれ、地上へと落下していく姿だった。


「はっはっはっ! 残るはお前と会長だけだぜ!」


 いじめのリーダー格が吠える。二対六十か。もう勝ちを確信しているのだろう。半分がエドワード会長の元に向かっている。


「良いのか? 仲間を分けて?」


「お前に何が出来る? もうボロボロじゃねぇか!」


 確かに、俺もアルジェントも傷付きボロボロだ。だが、


「……陽は暮れた」


「ああん?」


「アルジェント!!」


 俺の叫びに呼応するように、息を吸い込み始めるアルジェント。その様子に異変を感じ取った二年生たちだがもう遅い。


「ルナ・バースト!!」


 アルジェントの口腔から月光色のブレスが吐き出され、空を切り裂き、宙を焦がし、俺たちの前に立ち塞がる二年生の竜たちを殲滅していく。


 逃げ惑う二年生たちだったが、アルジェントはそれを許さず、首を捻ってブレスを角度を自在に変えて、フィールドに残る六十頭全てにブレスを当てた。


 燃え上がり地上に落下していく竜の群れ。ただ一頭を残して竜たちは全て地に伏した。残ったのはガイウスの巨竜デュークだけであった。


 残ったデュークだったが、ブレスを受けた横腹は焼け焦げ、煙を立ち上らせている。そのデュークをエドワード会長のランスロットと俺のアルジェントで包囲する。


「……参った」


 ガイウスの降伏により、決闘は俺たちの勝利で幕を閉めた。

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