第31話 六対百その2

 アルジェントとシエロが交錯する刹那、バギィンン! と俺の木槍が弾かれ、リオナさんの木槍が砕け散る。リオナさんがウインド・シールドを前面に展開し、俺がアイス・シールドを展開したからだ。


 俺とアルジェントは急旋回し、リオナさんとシエロと向き直す。リオナさんの木槍で破壊されたアイス・シールドを張り直すと、リオナさんも木槍を生成し直し、俺たちはまた互いに突進していく。


 バギィンン! それが何度も繰り返され、体力と魔力がどんどん削られていくのを感じる。何か策を講じなければ、相討ちで終わってしまう。


 それはリオナさんも同様だったらしく、向こうが先に仕掛けてきた。急旋回のおり、シエロが冷気のブレスを吐いてきた。


 それを避ける為に姿勢が乱れ、そこを突いて、リオナさんの木槍が打ち込まれてくる。


「くっ!」


 アイス・シールドのお陰で落竜する事はなかったが、更に姿勢が乱れ、そこを突かれて、俺とアルジェントはどんどん押し込まれていく。


 これを好機と見たのが他の二年生たちである。竜のブレスや突進、槍などの長物、魔法などで一斉に攻撃してくるが、それはこちらにとっても好機であった。


 リオナさんとシエロより鈍間のろまな二年生たちの攻撃は、俺とアルジェントにとってはかわしやすく、リオナさんとシエロにとっては、仲間との相討ちを避ける為に攻撃を中止せざるを得なくなったからだ。


 俺とアルジェントは攻撃の間隙を縫うように宙空を飛び回り、二年生たちの攻撃をかわしていくと、一騎、また一騎と木槍で突き崩し、突進で落竜させていく。


 十騎ほど落竜させた所で、二年生たちがこれは分が悪いと散らばっていこうとするが、それをさせない者たちがいた。カルロスとサンダーラッシュである。


 高速で突進を繰り返すいかずちの毛玉は、二年生たちをその場に縛り付け、動きを封じる。そこに俺が木槍で突いて回る事で、二年生たちは瓦解していったが、それでもその攻勢は更に十騎で止まった。


 立ちはだかったのは、やはりリオナさんとシエロだ。高速で移動するサンダーラッシュの動きを先読みし、アイス・シールドを構えると、サンダーラッシュの突進を受け止める。


 電雷がフィールドに迸るが、アイス・シールドでなんとかそれを防ぎ切ったリオナさんは、木槍でカルロスを突き落とし、散々場を掻き回したサンダーラッシュを退場させた。


 突き落とされたカルロスは、下で目を回していた。これはリオナさんの攻撃が凄かったと言うより、サンダーラッシュの突進が速すぎたからだろう。それでも手綱から手を離さなかったカルロスは、敬意に値する。


「随分とお疲れのようですね。自主的に退場なされては?」


「いえ、お気遣いは結構です。まだやれますから」


 サンダーラッシュの攻撃を無力化出来なかったリオナさんは、その突進と電雷でかなりのダメージを受けていた。それはシエロも同様だ。


「なら、俺たちが退場させてあげますよ!」


 俺は木槍を構えて、逆の手でアルジェントの鞍の取っ手をしっかり掴む。それを感じ取ったアルジェントが、リオナさんとシエロに突進していった。


 距離を取って体力を回復するかとも思ったが、流石は根っからの戦士。リオナさんとシエロはこちらへ向かってきた。


 リオナさんの木槍に備えて俺はアイス・シールドを前面に展開する。対するリオナさんもウインド・シールドを展開するが、やはり先程のサンダーラッシュの攻撃が堪えていたのだろう、ウインド・シールドは小さなものになっていた。


 その好機を見逃す俺とアルジェントではない。ぐるんと突進の途中で上下反転すると、弱まったウインド・シールドの隙間から、俺は木槍をリオナさんに突き刺し、リオナさんを落竜させた。


 シエロも本当はリオナさんを休ませたかったのだろう。下に落ちたリオナさんを気遣い、寄り添っている。



「ふう……」


 息を吐いて呼吸を整え気を落ち着かせ、振り返って全体を見渡すと、目立つのは金竜ランスロットに乗るエドワード会長と巨竜デュークに跨がるガイウスの戦いだ。


 両者の実力は拮抗しているようだが、そこに横槍を入れるガイウスの仲間の存在が邪魔をしている。デュークが突進すると避けざるを得ないランスロットの先を、先回りしては攻撃してくるのだ。恐らくこれはガイウスたちの勝ちパターンなのだろう。


 これはどうする? 助けに入った方が良いのか? と思案してる所で、目の端にもう一つの戦いが映った。マイヤーたちである。


 それはいつもの光景と言えばいつもの光景だった。フィールドの端まで追い詰められたマイヤー、アイン、ショーンの三人は、多数の二年生たちによって囲まれ、逃げ出す事も出来ず、生かさず殺さずのなぶりものになっていた。


 この衆人環視の状況でのその行為に、俺の頭に血が上る。直ぐに助けに入ろうとアルジェントをそちらに向けるが、そこで他の二年生五騎が立ちはだかった。


「へえ。あの愚行は見逃しておいて、こっちを足止めするんだ?」


 俺は余程怖い顔をしていたのだろう。立ちはだかる五人の顔が引きつっている。まあ、そんな事はどうでも良い事だが。ちらりと太陽の位置を確認すると、陽が稜線に掛かった所だ。そして改めてフィールドを俯瞰すると、五対六十と言った所か。


 俺たちとサンダーラッシュで結構な数を倒したと思っていたが、まだこんなに残っていたのか。俺はすうっと息を吸い込むと、フィールド全体に轟くように宣誓した。


「お前ら覚悟しろ! あの陽が完全に沈んだ頃、この場で勝利を宣言しているのは俺たちだ! その時お前らは全員地に伏しているだろう!」


 俺の宣誓に二年生たちはかなり頭にきたのだろう、マイヤーたちを囲んでいた内の半数がこちらへ流れてきた。エドワード会長の所に十騎、マイヤーたちの所に二十五騎、俺の所に二十五騎と言った所か。


 良いぞ狙い通りだ。ここから俺とアルジェントがどれだけ持ち堪えられるか、それが勝敗の分かれ目だ。


 頼むぞアルジェント。と俺がアルジェントを擦ると、アルジェントも気合い充分なのだろう、フィールド全体に轟くように咆哮してみせたのだった。

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