第14話 贈答品
「リオナお嬢様ー!!」
翌日。リオナさんをこのまま我が家に住まわせる訳にもいかず、朝一で南の山を越えてバンシャン領へ。バンシャン領に入った所で、竜騎士に上空で声を掛けられた。まあそりゃあ探しているよね。自領のご令嬢が、ワイバーン退治に出掛けたりしようものなら。
「何をやっとるか! このバカ娘が!」
竜騎士の先導でバンシャン伯爵の領館にやって来た俺たちは、そのままバンシャン伯爵の待つ執務室に通された。我々を見たバンシャン伯爵の第一声がこれである。
「今回は生き延びたから良かったものの、単独でワイバーン退治など、我が領の竜騎士でもやらぬ愚行だぞ! 無謀と勇気を履き違えるな!」
え? ワイバーンを単独で倒すのって、本職でもやらないの? え? 俺『個人』へ依頼受けたんですけど。
「ごめんなさい。もうしません」
「その言葉、何度目だ!」
どうやらリオナさんは、結構なお転婆であるらしい。
「いえ、今回は本当に反省しています。確かに命の危機でした。ブレイド殿が通り掛からなければ死んでいた事でしょう」
「ブレイド?」
バンシャン伯爵の視線が、横の俺に向けられる。おっと話が俺に移ったな。俺はナメられないように背筋をピシッと伸ばす。
「我が師匠です! ブレイド殿は凄いのですよ! 相棒の竜アルジェント殿と単騎で二頭のワイバーンを撃破したのです!」
「その小僧が?」
バンシャン伯爵は疑わしげに俺を上から下まで見遣る。
「信じられんな。小僧、どの学校を出ている?」
「いえ、まだ学校に受かったばかりで、通うのは秋口からです」
あからさまに落胆したように頭を押さえるバンシャン伯爵。
「バカか!? 卒業はおろか、まだ学校にも通っていない小僧が、ワイバーンの討伐なんぞ出来るはずがないだろう!」
娘のリオナさんに、バカも休み休み言え、とばかりに怒鳴り付ける。ワイバーン退治が竜騎士一人の手に余るならば、言っている事は至極もっともだ。それでもリオナさんは「本当です!」と引かない。
わあわあと親子ゲンカはいつまでも続き、このままでは収拾しないと感じた俺は、「これを見せればスムーズに話が進むだろう」と父が言って渡してきた、手紙を鞄から取り出した。
「すみません、良いですか?」
話が平行線で進み、二人が息切れした所で、俺は手紙をバンシャン伯爵に差し出す。
「なんだこれは? ……!」
胡散臭そうにしていたバンシャン伯爵だったが、手紙の差出人を見ると、驚いて直ぐに封を切って中身を改めた。
「…………えっと、ブレイドくんだっけ? ご両親のお名前を教えて貰って良いかな?」
「父はランデル。母はスィードです」
執務机に突っ伏すバンシャン伯爵。胃を押さえている。
「今度からそう言う大事な事は最初に言って貰えるかなあ?」
「え? はい。分かりました」
良く分からんが、父の手紙は胃にくるらしい。
「お父様?」
父を心配するリオナさん。
「いや、大丈夫だ。あれは過去の事だ」
父よ、何をしたんだ。
「お父様。それで私、ブレイド殿の所で修行がしたいのですが」
「修行って、ランデル先輩とスィード先輩の所でか!?」
「はい」
バンシャン伯爵、頭を抱えているよ。
「いや、リオナよ、お前秋からまた学校だろう」
「休学します!」
「栄光あるネビュラ学院を、そんな修行で休学になんてさせられるか!」
「リオナさんネビュラ学院通ってるんですか?」
「え? もしかして、ブレイド殿も?」
「俺が秋から通うのもネビュラ学院です」
「さもありなん」
納得するバンシャン伯爵。ここから話はトントン拍子に進み、秋からちゃんとネビュラ学院に通うのを条件に、リオナさんはウチで修行する許可を貰った。
「ナオミと申します」
バンシャン伯爵の領館で一泊して翌日、リオナさんと一緒に、メイドさんが我が家にやって来た。
肩までの黒髪に青瞳。黒服に白いエプロンドレスを身に纏う、正しくメイドさんだ。
「こちらは伯爵からの贈答品となります」
ワイバーンから娘を助けて貰った事。これから娘が世話になる事。それらを鑑みての贈答品だ。内容は、
「まるで嫁入り道具ね」
と母が評したように、ベッドや鏡など女性用の家財が半分。これはリオナさんの空色の竜シエロが持って運んできた。もう半分は金ぴかの鎧や武器、絵画や壺で、これはアルジェントが運んできた。
「良かったな。武器だぞ」
父に肩を叩かれたが、嬉しくないのは何でだろう。この武器や鎧が、実戦で役に立たなそうなのが何故か分かる。これなら食べ物が良かった。領館で食べたご馳走がもう懐かしい。美味しかったなあ。
この日はリオナさんとナオミさん用の部屋を皆で増築した。案外ナオミさんが力持ちな事に驚いた。更に翌日はシエロ用に竜舎を増築。こうして掘っ建て小屋みたいだった我が家が、少し人間用の住まいとしてレベルアップした気がした。
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