第12話 対ワイバーン
出来るだけ早い方が良いだろう、と俺とアルジェントは翌朝、南西の山脈へと飛び立つ事に。
夏とは言え山の朝は涼しく、上空は更に冷たい。寝惚けていた俺の眼もシャキッとする程だ。
俺が取っ手と鐙に力を加え、姿勢を固めると、アルジェントは大地と水平に姿勢を取り、火袋から炎を噴射し、南西の山脈へと高速度で発進した。
アルジェントが高速度で空を駆ければ、まだ昼にも早い時間に南西の山脈付近までたどり着く。さて話では、ここら辺からワイバーンの縄張りらしい。
高速度の飛行の後でワイバーンとの連戦となると、アルジェントはともかく、俺の体力が持たないので、谷を沿うように流れる川の側で一旦休憩をする。
川の水を飲み、木陰で一休みしていると、そこから見上げる一際高い山の頂上がなんだか騒がしい。目を凝らして見てみると、何かと何かが空中戦を繰り広げていた。
更に魔法で視力を強化して見ると、それは一頭のワイバーンと一組の人竜との戦いだった。
ワイバーンはくすんだ赤茶い鱗を纏い、火袋を持っていないとは思えない速度で、人竜に
更にワイバーンは離脱しようとする人竜に追い縋り、ブレスを吹いた。赤い炎のブレスが人竜を包み、人竜が墜落していく。
「おいおい!? アルジェント!」
俺は直ぐにアルジェントに跨がると、墜落していく人竜の元へ駆け出す。人竜はワイバーンのブレス攻撃に、何とか一命を取り止めたらしく、俺たちが駆け付けると、地面にその巨体を叩き付ける前に、姿勢を直して着地した。
「おい! 大丈夫か!?」
俺は声を掛けるが、人竜共に反応はない。それどころか着地したのがやっとだったのだろう、そのまま横倒しに倒れてしまった。
「おい! 大丈夫か!?」
近付いて抱き上げもう一度声を掛ける。人竜どちらもまだ息があった。人は女性であった。俺は素早く鞄から回復ポーションの瓶を取り出すと、両者に振り掛けたり飲ましたりと回復に努めた。
「うぐっ、ああ……」
それが奏功したのだろう。何とか声が漏れる程には回復してきた。
「おい! 大丈夫か!?」
三度目の呼び掛けに、女性はこちらへ目を向けた。
「あ、貴方は……?」
「今回のワイバーン退治を依頼された竜狩りだ」
それを聞いた女性は、ホッとしたのか気絶してしまった。何なんだよ。ワイバーン退治を依頼されたのは、俺だけじゃあなかったのか?
俺は女性をゆっくり地面に寝かせると、顔を上げる。ワイバーンが山頂から俺たちを見詰めていた。笑い声のような声を上げて。
「アルジェント、やるぞ」
俺はアルジェントに跨がり、木剣を木槍へと変えると、俺たちは山頂のワイバーン目掛けて飛び出した。
高速度での飛び出しにぎょっと目を剥くワイバーンは、直ぐ様その場を離れようとワタワタするが、遅い。
俺とアルジェントの高速アタックがワイバーンに直撃しようかと言う寸前、何かが猛烈な勢いで横から飛び込んで来て、俺たちに体当たりする。
「ぐはっ!?」
「ゲハッ!?」
俺とアルジェントはそれに吹き飛ばされ、俺たちは空中を三回程回転して何とか立て直す。何事か? と見るとそこにはもう一頭ワイバーンがいた。そうか、そう言えばワイバーンはつがいだった。
ワイバーンは二頭で頬を擦り付け合い、仲が良いのが分かる。ワイバーンからすれば、俺たちが縄張りを荒らす余所者なのだろうが、これも仕事で、このまま見過ごす事は出来ない。
「アルジェント」
「グルルル」
俺の掛け声にアルジェントが一声鳴くと、仲睦まじいつがいのワイバーンも、こちらを敵と見定める。
鞍の取っ手を掴み前傾姿勢になる。木槍を脇に抱え込み、振り落とさせず、攻撃の反動にも耐えられるように、戦闘態勢を取る。
「行くぞ!」
アルジェントの火袋から炎が噴射され、ワイバーンに向けて突進した。しかしそんな直線的な攻撃、ワイバーンにとって何でもないように、二頭は左右へと離れて俺たちの攻撃を避けた。
ワイバーンのいた場所を通り過ぎた所で、急旋回して切り返し、次の攻撃態勢に入ろうかと言う所で、左右のワイバーンから炎のブレスを吹き掛けられる。
ぎょっとした俺たちは、直ぐに急速上昇してそれをかわすが、ワイバーンはそれを見計らっていたらしく、体当たりを仕掛けてくる。
「ぐっ!?」
ブレス攻撃に体当たりを、二頭はコンビネーションで見事にこなす。間断なく遠近両方で攻撃を仕掛けられ、こちらに攻撃をさせる隙がない。
今の所致命傷にはなっていないが、このままではじり貧。俺とアルジェントの体力が削られていき、なぶり殺しになるだけだ。
「アルジェント!」
戦闘の風向きを変えようと、俺とアルジェントは高高度へと急速上昇していく。それについてくる二頭のワイバーンだったが、どうやら上昇限界があるらしく、俺たちはワイバーンの連続攻撃から抜け出した。
下を見ると、かなり下方でワイバーンたちが何か吠えているが、それも聞こえない程だ。
「はあ、はあ」
俺は一息吐くと、アルジェントにポーションを掛けて回復させ、自分も飲んで回復する。
「まだ行けるな?」
俺の声にアルジェントが嘶く。攻撃されっぱなし、フラストレーションが溜まっていたようだ。
「行くぞ!」
切り返して急下降。更に火袋から炎を噴射し加速する。これにはぎょっとしたワイバーンたちも直ぐ様その場所を退く。加速のついた俺たちは、直ぐには止まれず、山肌に激突しそうになる所で、無理矢理急旋回で切り返し、今度は急上昇する。
急下降と急上昇を繰り返し、ワイバーンたちに攻撃の隙を与えない。そして俺たちは一方に狙いを定め、それを狙い撃ちするように急下降、急上昇を始めた。もう一方のワイバーンは助けに入りたくても、アルジェントの高速度にはついていけないようで、遠巻きに見守るだけだ。
そして俺は更にファイア・アローを攻撃に加え始めた。俺の木槍も当たっているのだが、強固な鱗相手では決定的なダメージに繋がらない。急下降、急上昇の度に食らうファイア・アローに、ワイバーンの鱗も徐々に焦げついていき、そして、
「グワッ!?」
ファイア・アローの爆発で出来た煙幕で、俺とアルジェントの攻撃を避けきれなくなったワイバーンの翼、その皮膜を俺の木槍が突き破った。皮膜であれば俺の木槍も効果があるのだ。
飛べなくなって地面へと落ちていくワイバーン。もう一方のワイバーンがその後を追う。
そのワイバーンに向かって、俺たちは追撃する。迫る俺たちに気付いたワイバーンが、振り向きざまに炎のブレスを吐いてくるが、俺はファイア・スピアーでそれを相殺し、もう一方のワイバーンの翼も木槍で突き破る。
「グルルル……」
地面に激突した二頭のワイバーンは、まだ息をしていた。流石の生命力である。直ぐに態勢を立て直し、空を飛ぼうとするが、翼の皮膜を破られ上手く飛べない。これでは速度も出ないだろう。
「アルジェント」
アルジェントも、このまま二頭の無様な姿を見ていたくないと感じたようだ。しかしワイバーンも亜竜とは言え竜。俺の木槍では皮膜は破れても、余り鱗に覆われた身体にダメージを与えられない。なので、
「グルア!!」
アルジェントがその鋭い牙と強靭な顎ででワイバーンの頭を潰し、俺たちはその命を狩ったのだった。
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