第11話 次なる案件

 季節は初夏を過ぎ、盛夏となる。田舎の夏はうるさい。昼間は蝉が鳴き叫び、夜は夜で夜中まで蛙が合唱をしているからだ。


 そんな中で家業は最盛期を迎える。薬草がそこら中で生えまくり、採っても採っても採り尽くす事がない程だ。


 俺は朝早くから父とノエルと薬草を摘みに出掛け、昼に帰ってきてからは、母と錬金術でポーション作りの毎日を送っている。この機に稼ぐだけ稼いでおかないと、何もない冬を越せないからだ。


 翌日は朝からロバに荷台を付け、その荷台に出来上がったポーション瓶を積んでいき、満杯となったポーションを村に運んでいく。ロバはゆっくりゆっくり山道を下り、村に着くのは昼前だ。


 道具屋にポーションを運び込んでいると、道具屋のおじさんが俺に二通の手紙を渡してきた。こういう村の道具屋と言うのは何でも屋で、村に出入りをする村外の人間宛ての手紙を預かる事も良くある話だ。


 道具屋のおじさんから手紙を受け取ると、一通はカルロスから。もう一通は王立ネビュラ魔剣学院からのものだった。


 ネビュラ学院からの合否通知にドキドキする。ここは先にカルロスからの手紙を読もう、と手紙の封を切る。中身は案の定と言うべきか、カルロスがネビュラ学院に受かったとの報せで、凄い熱量で書かれていた。


 最後に書かれていた「ブレイドも絶対合格だ」の一言に勇気を貰い、俺はネビュラ学院から来た合否通知の封を切る。その結果は、「合格」であった。


 俺は店内で思わずノエルと大はしゃぎしてしまい、父に「何やってるんだ!」と窘められてしまった。


「いや、でも、父さん、合格だよ!?」


「ふん、俺が鍛えたんだ。合格して当然だろ」


 父さんは合格するのを確信していたらしく、俺がネビュラ学院に合格した事をそんなに喜んでくれなかった。「それより荷下ろしを手伝え」と叱られた程だ。



 道具屋へのポーション搬入を終え、昼飯に母が持たせてくれた蒸かし芋を食べた俺は、帰るまで少し時間が出来たので、竜狩りの組合所に寄っていく事にした。


「ああ、ブレイドくん。やっと来た」


 組合所のお姉さんがホッとした様子で俺に近付いてきた。この何日か家業が忙しく、組合所には顔を出していなかったからな。何か動きがあったのかも知れない。


「ブレイドくん指名で依頼が入っています」


 と告げるお姉さん。俺指名? 首を傾げざるを得ない。


「どういう依頼なんですか?」


「う~ん、何と言えば良いのか、この間のグリフォンの一件の続き? みたいな案件です」


 何だそりゃ? 俺は益々首を傾げてしまう。


「まあ、椅子にでも座って聞いて下さい」


 俺が促されるままカウンター席の椅子に腰掛けると、お姉さんはカウンター奥に戻って地図を持ってきては、カウンターテーブルに広げた。


「ここがウーヌム村で、ここが南の山です」


 地図はウーヌム村周辺を中心にした、かなり広範囲の地図だった。


「あのグリフォンたちなんですけど、南の山の更に南西の山脈地帯からやって来たようなんです」


「はあ、そうなんですか?」


「ええ。この前王都から学者さんが来て、ブレイドくんが置いていったグリフォンの素材を調べて分かった事です。あ、あの素材売れたので、後で代金渡しますね」


 おお、臨時収入ありがたい。何買おうかなあ。おっと、今は仕事の話だ。そして学者が来たと。


「それで南西の山脈地帯で何かあったのではないか? と言う話になり、こちらから調査隊を派遣したんです」


 へえ。と聞き入っていると、「俺たちが調査に向かったんだぜ」とあの先輩竜狩りが奥テーブルで声を上げてアピールしていた。ああ、あの四人が行ったのね。


「でも何でわざわざそんな山奥まで? 人も住んでないような場所ですよね?」


 俺は先輩たちに手を振ると、お姉さんとの話に戻る。


「そうですね。確かに南西の山脈地帯は人の出入りはないのですが、その周辺は違います。南西の山脈付近は、鉱山が多く点在しているんです」


「そうなんですね」


 お姉さんの話では貴重な鉱物も多く掘り出されているらしいのだが、最近魔物の出現が頻発し、採掘作業が滞っているらしい。


「それで様々な角度からの調査の結果、南西の山脈で何かがあったらしいと。南西の山脈で更に強い魔物が出現した為、他の魔物たちがそこから逃げ出したのでは? と言う話です」


「成程、で、何かあった訳ですね?」


 でなければわざわざ俺に個人指名が来るはずない。お姉さんは首肯する。


「どうやら最近になってあの山脈に、ワイバーンが棲み着くようになったみたいで」


 ワイバーン。亜竜である。後ろ足に火袋を持っていないだけで、その姿は竜のそれと変わらないと聞く。


「しかも二頭。恐らく『つがい』です」


 う~ん。先輩竜狩りの方を向くと、確かに俺たちは見た。とアピールしている。


 これは問題である。つがいと言う事は、卵を育てているかも知れない。それが育てば更に脅威が増大し、その周辺は閉鎖するしかなくなり、鉱山も閉山。大量に失業者も出てくるだろう。確かに、これは早急に対処しないといけない案件だ。でも、


「何故、俺なんですか?」


「王都の竜騎士団からの推薦です」


 俺は竜騎士団に入った覚えはないんだけだなあ。

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