第10話 証明せよ
目を覚ますと家のベッドの上だった。そう言えば昨日、傷だらけで家に帰って母の回復ポーションを飲んで、そのまま寝てしまったんだった。しかし流石は母の回復ポーション。一晩で傷が全て癒されている。
などと回想していると、隣のリビングから声が聴こえる。父ともう一人。知らない男の声だ。この山小屋に客なんて珍しいな。
腹が減ってはいたが、客が来ているのにリビングに行って飯を食べるなんて出来ない。そう考えていると、ノエルが寝室のドアを開けてこちらに入ってきた。腕には俺が買ってきた着せ替え人形を抱えている。
「あ、お兄ちゃん! お父さん! お兄ちゃん起きてるよ!」
俺と目が合ったノエルは、俺が起きた事を父に伝える。
「ブレイド! 起きているならこっちに来い!」
父に呼ばれ、リビングに顔を出すと、蒼髪を後ろに流すようにがっちり固めた蒼瞳の男が、父と向かい合うようにテーブルに着いている。男はまるで絵物語に出てくる騎士のような鎧を着込んでいた。
「いらっしゃい」
俺はそう言って一礼すると、両者の斜向かいの席に着いた。と途端に腹の虫が鳴く。父と騎士風の男に笑われ、騎士風の男は、自分の前に置かれていた乾菓子を俺の前に勧めてくれた。
騎士風の男に一礼して乾菓子を齧る。パサパサしていて口中の水分を全部持っていかれた。母がコップに冷えた茶を入れて持ってきてくれたので、それで流し込んだ。父が「ふん」と呆れた目で俺を見ていた。
「こいつがブレイドだ」
改めて父に紹介され、俺は乾菓子を齧りながら騎士風の男に一礼した。
「初めまして。私はゴードン・ラッセル。君のお父さんの学院時代の後輩で、今は王都の竜騎士団で勤めている」
騎士風の男ではなく、騎士の男だった。そう言えば昨日竜狩り組合で、王都に応援を要請したから、王都守備隊やら竜騎士団がやって来ると話していたな。父の後輩と言う事は、ネビュラ学院の卒業生か。
「ゴードンは竜騎士団で隊長を勤めているんだぞ」
珍しく父が我が事のように自慢する。余程学生時代に世話を焼いていたのだろう。ゴードンさんも「ランデル先輩のご指導ご鞭撻あっての事です」などと父を持ち上げていた。
「それじゃあ、俺はこれで。ゴードンさんもゆっくりしていって下さい」
乾菓子を食べ終えた俺は、顔見せも終わったので、寝室に戻ってもう一眠りしようと思っていたら、父に止められた。
「え? 何?」
「ブレイド、お前昨日グリフォン退治に駆り出されただろ? その時の話をゴードンにしてやれ」
父にそう言われ、ゴードンさんを見ると、
「今日、ウーヌム村の竜狩り組合所に行って状況確認をしたら、グリフォンは全て倒した。との報告があった。グリフォンの魔核もあり、南の山にも確認に行ったので、グリフォンが全て討伐された事自体に疑問はないのだが、どうやってあの数のグリフォンを倒したのか、討伐に参加した四人に尋ねても、要領を得なくてね。四人は自分たちだけでグリフォンの群れを退治し、ブレイドくんは見ていただけだ。と言っていたのだが、本当かい?」
成程、そんな事になっていたのか。確かにグリフォンとの戦闘の後、疲れ果てていた俺は、魔核の回収もしないで家に戻ってきたからな。そのあとで四人が魔核を回収し、手柄を自分のものにした。と言う訳だ。
俺は昨日あった事を、包み隠さずゴードンさんに話した。
「成程な。しかしあの数のグリフォンを一組で退治か。悪いがにわかには信じられないな。それを証明する事は出来るかい?」
そう言われもな。ゴードンさんに真っ直ぐ見据えられても、返答に困る。
「ならその四人とブレイドを戦わせれば良い」
父が口添えをしてくれた。いや、だからって自分の行いの証明に、四人と戦えと言われても。
「それで良いかい?」
「良いな?」
これは強制なのではなかろうか。俺は首肯するしかなかった。
アルジェントと共に、ゴードンさんとその相棒の緑竜とウーヌム村の竜狩り組合所にやって来た。組合所には竜騎士団の騎士たちや、王都守備隊の隊士たちが詰めていた。
「ブレイドくん! 来てくれたんだ!」
俺とアルジェントが組合所に顔を出すと、組合所のお姉さんが走り寄ってくる。
「全く、あいつら酷いのよ。ブレイドくんは何もしていない。グリフォンは自分たちだけで倒したって。嘘の自慢話をずうっと続けているの」
どうやらお姉さんも頭にきているようだ。
「その事を証明させる為に彼を連れてきた」
ゴードンさんは最初から俺と先輩竜狩りたちを戦わせるつもりだったようだ。ズンズンと組合所に中に入っていったゴードンさんは、昨日グリフォン討伐に参加した四人に、事の次第を説明し、俺の時同様に俺と戦うように強制している。何か問題が起こったら戦いで解決するのが、竜騎士団のやり方なのかも知れない。
俺は今、四組の人竜と相対している。竜に乗る四人は、俺の顔を気まずそうに見詰めていた。
この戦いが始まる前に、四人は俺に再三話し掛けようとしてきたが、それは竜騎士団の者たちによって阻止されていた。戦いの前に話し合いを行い、戦いで不正を行わせない為だろう。
「それでは、これより双方の主張を鑑み、決闘による解決を行う! 双方構えよ!」
騎士団隊長のゴードンの掛け声で、俺は木剣を抜き木槍に変えて構える。向こうの四組もそれぞれ武器を構えた。
「では、始め!」
合図と共に俺たち五組は空へと飛び出す。そして上空に着いた所で、俺とアルジェントは早速四組へと突進を仕掛けた。
木槍を脇に抱え、四組へと突進していくと、四組は俺から逃げるように散り散りにバラけていく。
しかし速度が遅い。俺は各個撃破を狙い、一組ずつ追い掛けていく。追い縋る俺たちに、一組目の竜狩りは槍をブンブン振り回し、俺を近付けないようにしようとするが、アルジェントはそれをひらりとかわし、上を取った俺たちは、ドスと木槍で竜狩りを突いて気絶させる。
二組目は速さで勝るアルジェントが前に回り込み、
三組目は上へ上へと空を駆ける。それをアルジェントは高速度で追い掛け、俺はそのスピードに乗って後ろから竜狩りを突いて仕留めた。
四組目は昨日俺に話し掛けてきた先輩竜狩りだ。先輩竜狩りは逃げられないと
俺とアルジェントはそれらの攻撃を避けながら、俺は、そう言えば昨日のグリフォンとの戦い、余裕がなくて身体強化以外の魔法使わなかったな。などと思考が逸れる。それを好機と捉えた先輩竜狩りが攻勢を強めるが、俺は木槍を上段から振り下ろし、頭に食らった先輩竜狩りは気絶したのだった。
戻ってくると、皆が拍手で迎えてくれた。俺の主張が正しかったとゴードンさんが皆の前で宣誓し、気絶から目を覚ました四人は俺に謝罪した。
「これを」
四人は昨日のグリフォン退治で獲得したグリフォンの魔核や皮などの素材を俺に差し出してくれたが、結構大量にあり、一人で捌き切れそうになかったので、半分は四人のものとして返した。
「良いのか」
ゴードンさんにはそう尋ねられたが、グリフォンの解体をしたのは俺じゃないので、と断りを入れる。
「やはりランデルさんの息子だな」
とゴードンさんは何か納得していた。
「良いものを見せて貰った。ではな」
ゴードンさんはそう言うと、竜騎士団や王都守備隊を連れだって、東の王都へと帰っていった。
俺はその後、グリフォンの素材をどうすれば良いのかを、組合所のお姉さんに相談する。するとお姉さんは素材を組合所で預り、村で売っておいてくれるとの事。ならばと俺はグリフォンの皮など、今回の報酬の九割をお姉さんに渡すと、残った一部をアルジェントにくくりつけ、記念に家へと持って帰ったのだった。
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