第7話 受験その3
「はあ〜……」
「なんだよ、ため息なんて吐いて。そんなに結果が悪かったのか?」
筆記試験の後、要塞のような学校から外に出た所で、カルロスに声を掛けれた。
「魔法学や商学はまだ良かったんだけど、歴史と地理がなあ。田舎暮らしには関係ないと思って、真面目に勉強してこなかったから」
「ああ、確かに。田舎で一生を終えると思っていたら、そこら辺は気にしないか」
「カルロスは?」
「バッチリだ。万全に対策してきたからな」
ニカッと笑う顔は爽やかだが、今はなんだか少し憎たらしい。はあ、筆記試験の事は親に黙ってようかな。怒られそうだ。
「でもブレイドはまだ挽回の余地があるじゃないか」
そうだ。俺にはまだ騎竜の試験があったんだ。カルロスは三科目しか試験を受けられないからこれらに全力……いや、言い訳がましいのは止めておこう。
「カルロスはこれからどうするんだ? 試験は全て終わったんだし、帰るのか?」
「そう思ってたんだが、騎竜の試験にも興味がある。上手くすれば在学中に竜を授かる可能性もあるからな。残って見ていこうかなあ」
「正直そう言って貰えてホッとしているよ。カルロスが見ているのといないのでは大違いな気がする」
「おいおい、筆記でヘマしたからって、ちょっと弱気になってるんじゃないか?」
そうかも知れない。騎竜の試験は対人竜だ。弱気に挑んだら大怪我するかもしれない。気を引き締めていこう。
「試験官のポーリン・ゼメックよ」
騎竜の試験場で待っていた試験官は、女性だった。濃紫の髪は緩く波打ち、赤茶の瞳はとても意志が強そうだ。引き締まった身体で、鍛えているのが服の上からでも分かる。
「騎竜の試験は、特設された空間魔法の中でやって貰うわ」
ポーリン試験官が指差す先では、宙空に巨大な半透明の球体が浮かび、その中で二組の人竜が一組対一組で戦っている。
「うおお! 凄いな!」
全ての試験を終えている横のカルロスは、既に観光気分と言った感じだ。
「この中では、例え竜から振り落とされたとしても安全だから、全力で戦いなさい。試験の合否は勝敗とは関係ないから、そのつもりで。時間は他の試験と同じく砂時計が落ちるまでよ」
ううむ。ドキドキしてきたな。アルジェントに乗ったのだって、今日が初めてだもんなあ。それなのに戦闘なんて出来るのだろうか? 何気に観客も多いんだよなあ。試験の終わった他の受験者たちも、気になるのか、騎竜の試験が目立つのか、残って対戦を見上げている。
「次の者!」
そうこう考えている内に、俺の番が回ってきた。
俺はアルジェントに跨がると、半透明の空間に突入していく。俺の対戦相手は、可憐な少女だった。
空よりも濃い青色の竜に跨がり、俺より少し小柄ながら、片手でハルバードなんて長柄武器を構えている。元々の膂力が凄い。なんて事はないだろうから、魔法で強化しているんだろう。そして銀に近い金髪は肩まで伸び、紫の瞳は真っ直ぐに俺を射止めていた。……と言うより睨まれている。
「貴方! 本気でそのような無様を晒すつもり!」
いきなり罵られた。
「無様ってなんだよ!」
「鞍も手綱も無い! 貴方は竜に乗っているのではなく、竜に乗せて貰っているのよ!」
鞍に手綱! 確かに! 何か他の受験者の竜とアルジェントは違うなあと思っていたが、それだったのか! 見れば眼前の少女も竜に直接跨がるのではなく、鞍に跨がり、片手で手綱を握っている。成程、無様を晒していると言われればその通りだ。
「忠告ありがとう!」
「は!? バカにしているの!?」
そんなつもりはない。だが、誠意と言うものは伝わり辛いものらしく、彼女が俺を睨む目付きが更に険しいものになった。
「マイヤー・タッカートよ! 覚えておきなさい! 貴方を完膚なきまでに叩きのめす女の名を!」
「ブレイドです!」
向こうが名乗ったから名乗り返したのに、更に険しく睨まれた。
「それでは始めて下さい!」
ポーリン試験官の声が飛んできて、砂時計が返される。と、マイヤーは一気に距離を詰めてきた。
それに驚き動きを止めるアルジェントに、マイヤーの青竜が体当たりを食らわす。俺は衝撃で吹き飛ばされそうになるが、それを何とか耐えた所に、マイヤーのハルバードが大上段から振り下ろされる。
それを俺は木剣で受け止めるが、凄い力で、乗っていたアルジェントごと吹き飛ばされてしまった。
「大丈夫かアルジェント!」
空中で踏み留まったアルジェントを心配するが、彼のやる気は削がれていないようだ。
「アルジェント、接近戦は向こうに分がありそうだ。少し距離を保って魔法戦を仕掛けよう!」
俺の提案にアルジェントが一声鳴いてくれた所に、マイヤーと青竜が突っ込んでくる。アルジェントはそれを上空へとかわし、俺は追い縋るマイヤーにファイア・スピアーをお見舞いした。
しかし俺のファイア・スピアーは青竜の首の一振りで消し飛ばされしまう。青竜の耐久力も中々のもののようだ。
しかし接近戦は不利だ。と距離を置いていたが、マイヤーからもアイス・アローの雨あられが注がれてきた。それをこちらもファイア・アローで相殺するが、そうしている内にマイヤーたちの接近を許してしまう。
「くっ!」
青竜の体当たりに耐えるアルジェント。そこに振るわれるハルバードを、俺は木剣で受け流す。
更には木剣を魔法で引き伸ばし、木槍に変えて俺はマイヤーを突きまくった。しかし俺とアルジェントのコンビネーションは付け焼き刃だ。空中戦にも不慣れで、終始後手に回されてしまう。
どうする? どうする? どうする? 常に思考し続け、マイヤーの攻撃をかわし、受け止め、受け流す。アルジェントも不慣れながら青竜の攻撃を身を削り捌いていく。体当たりが繰り返される度にアルジェントが傷付いていくのが心苦しい。
それでもアルジェントは踏ん張ってくれている。頑張ってくれている。それが契約の鎖を通して伝わってくる。だから俺は思考し、隙を見付けては木槍を打ち込み、魔法を放ち、マイヤーの猛攻に負けまいと踏ん張った。
「そこまで!」
気付けば砂時計の砂は全て落ち、騎竜の試験は終わっていた。
「凄かったな! 熱い戦いだったぜ!」
地上に戻ると、アルジェントは直ぐに試験官の一人が治癒魔法で回復治療してくれた。それを眺めている俺の元に、カルロスがやって来て、興奮したカルロスが俺の肩を痛い程に叩いて労ってくれた。更には他の受験者たちまで集まって褒めてくれる。そんなに凄い戦いだったのか、俺には分からないが、アルジェントの具合が気になる。
アルジェントの傷は、それ程酷いものではなかったようだ。試験官の一人に治癒魔法を施されたアルジェントは、すっかり元気に俺に頬擦りをしてくる。
ホッと一安心していると、俺を取り囲む人波が二つに割れた。何事かと見遣れば、マイヤーがツカツカとこちらにやってくる。
マイヤーは俺の目の前で止まると顔を背けながら、モジモジしだした。
「あの……、悪かったわ」
「はあ」
「言い過ぎたって言ってるの! それだけよ! じゃ!」
そう言ってマイヤーは走り去っていった。
「何だったんだ?」
訳が分からずカルロスの方を見遣ると、
「さあな」
とカルロスはニヤニヤするばかりだった。
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