第6話 受験その2

「アース・ウォール」


 ローブの男がそう唱えると、俺やカルロスたちの前に十個の直方体の土壁が現れる。


「えー、では、えー、始めて下さい」


 ローブの男はそう言うと、砂時計をひっくり返した。俺はいきなりで訳が分からないが、カルロス他の受験者たちは、その土壁に攻撃魔法を繰り出し始めていた。成程、あの土壁を魔法で攻撃すれば良いのか。


「サンダー・ショット!」


 横のカルロスは、人差し指を土壁に向け、雷魔法を繰り出していた。指先から雷迅が迸り、土壁を削っていく。雷魔法か。俺は修得出来なかったんだよなあ。やるなあカルロス。


 他の受験者も中々だなあ、とのんびり見てもいられない。気付いたら砂時計の砂は既に半分が下に落ちていた。


 俺は手を眼前の土壁へとかざし、魔力を練って呪文を唱える。


「ファイア・スピアー」


 練られた魔力が手から火の投槍となって飛び出し、土壁にぶち当たる。ドンと言う炸裂音と共に土煙が上がり、当たった土壁を二つに砕いた。よし。これで少しは出遅れた分を取り戻せただろう。


 気を良くした俺が、次のファイア・スピアーの準備をした所で、


「えー、そこまで」


 と声が掛かり、魔法の試験はそこまでとなってしまった。



「ブレイド、凄いな!」


 次の武術の試験場に向かう途中、カルロスに褒められた。


「え? そう?」


 照れる。両親は余り褒めてくれる人じゃなかったから、真っ直ぐ褒めてくれると嬉しい。


「カルロスも凄かったじゃないか。あの雷魔法、最後は土壁を穿っていたし」


「だろ? あの雷魔法は今回の受験の為に大特訓したからな。俺の取って置きだ」


 いきなり取って置きを出したのか。でも試験は何からやるのか分からないし、そう言う事にもなるのか。



 カルロスと話している内に、次の試験場に着いた。武術の試験場だ。


「がっはっはっは! 良く来たな! 俺が武術の試験官を務めるラウド・ブラウンズだ!」


 声の大きい試験官が待っていた。大きな身体は筋骨隆々で、服が今にも破れそうな程パンパン。茶髪を短く刈り込み、目も茶色だ。


「では早速武術の試験を受けて貰おう! 武器はどうする!? 無いなら貸し出すぞ!」


 試験はサクサク進んでいるようで、着いた途端に俺たちの番になっていた。ラウド試験官が言うように、試験場の端には、槍からナイフまで、大小様々な武器が揃えられていた。


 カルロスはどうするか気になり、見るとダガーを二本用意していた。ほう、カルロスは短剣二刀流なのか。雷魔法といい、カルロスはスピード重視のようだ。


「そこの受験生! お前はどうするんだ!? その木剣っで戦うのか!?」


 ラウド試験官が木剣と声高に言うと、周りの視線が俺の腰に集まり、周囲でクスクスと笑いが洩れた。だがまあ、そうなるよね。


「はい。この木剣で戦います」


 更に笑いが起こった。



「武術の試験はこの白線の中で行う! 白線から相手を押し出すか、負けを認めさせた者が勝利! また、勝敗に関係なく砂時計の砂が落ちきったらそこまでた! 勿論! 勝者の方が試験内容では優遇されるが、敗者になったからと言って受験に合格出来ない訳ではない! 皆の精一杯を俺に見せろ!」


 ラウド試験官の言葉に受験者たちがハキハキと返事をして、それに満足したのかラウド試験官は「がっはっはっ」と笑う。


 白線のマスは六マス用意されていた。一度に十二人試験が受けられる事になる。進行が魔法の試験より早いのも頷けた。


 マスに入ると、対戦者が既に待っていた。白髪の美少年だ。中性的な美しさで、さらりとした白髪は腰まで届き、瞳は藍色。一見して武術と縁遠そうに見えるが、手には長槍を握っていた。華美にならない程の細工の施された長槍は、それが試験場に用意されたものではなく、自分で持ち込んだものだと証明している。


「アイン・アイボリーです」


 キチンと一礼をされたので、


「ブレイドです」


 と俺も一礼を返す。そして互いに木剣と長槍を構えると、空気がピリッとした。これは父と対戦する時に感じるものと同種だ。この少年は強い。俺の本能が告げていた。


「始め!!」


 そこにラウド試験官の大声が響き、武術の試験が開始される。砂時計が返された。あの砂時計の時間は短い。先手先手で攻めていきたいが、アイン・アイボリーの長槍がそれをさせてくれそうになかった。


 左右にフェイントをかけて揺さぶってみても、アインの長槍の穂先は俺を捉えて離さない。元々の射程が違うんだ。これは被弾覚悟で前進するしかなさそうだ。


 俺は息を整えて木剣の切っ先をアインに向け、腰を低く落として、アインに向かった突進した。


 と、アインの射程に入った瞬間、長槍の穂先が眼前に現れる。凄い速度だが我が父には僅かに及ばない。俺はそれを木剣に手を添えて僅かにずらすと、速度を落とさず突進を続ける。


 アインは俺の突進が止まないと見るや、長槍を引き、自分も後退しながら、幾度となく長槍を繰り出してくる。俺はその一つ一つを木剣で受け流しながらアインを追い詰めていく。白線までアインを追い詰め、これでトドメと木剣を突き出す。


 が、俺の突きはアインに上体を反らしてかわされる。更に攻撃で隙が出来た俺に目掛け、穂先の反対にある石突きを斜め下から振り上げるアイン。それを直前で飛んで後退してかわすが、折角白線まで追い詰めたと言うのに、また開始の場所まで戻されてしまった。


 それからは二人ともに攻撃の速度が一段上がった。アインは俺を懐に入れない為に鋭い突きを繰り出し、俺はそれを受け流し、捌き、ジリジリと前進する。一歩一歩と前進し、またアインを白線まで追い詰めた。


「そこまでだ!!」


 だが俺の攻撃がアインに届く事はなく、ラウド試験官の大声で武術の試験は打ち切られてしまった。


「ありがとうございました」


 アインが汗を拭いながら一礼するので、


「ありがとうございました」


 と俺も一礼を返した。アインとの勝負が決着しなかったのは、なんともわだかまりが残ったが、試験とはこう言うものなのだろう。次は筆記だ。

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