第4話 王都へ

 竜は進むよ~どこまでも~。


「アルジェント、上昇だ!」


 俺の合図に従い、アルジェントは一鳴きすると、身体を上空に向けると、後ろ足から炎を噴射し急上昇する。


 向かい風が俺の身体を叩き付け、身体を後方へ吹き飛ばそうとするのを、必死にアルジェントにしがみついて、身体を密着させる事でそれを防ぐ。


 息が出来ない程の高速でアルジェントは上昇していき、幾つの雲を突き破っただろうか。随分と上昇した事に満足したアルジェントは、身体全体を広げて宙空にふわりと留まった。


 上空は暗く、星が瞬き、太陽が水平に位置する。地上は緑と青に覆われ、地平線は弓のように反っていた。


 世界の果ては手を伸ばせば届きそうだが、実際には果てしなく遠いのだろう。アルジェントとなら、あの果ての先にまで飛んでいける気がする。


 高揚感に包まれているのは俺だけではないようで、アルジェントも宙返りをしたり、ダンスを踊るように空を駆ける。


 しばらくそんな事を続けていたら、流石に息切れしてしまった。ヒュルヒュルと落下するように下降していき、俺たちは川の側に降り立った。



 二人で川の水を飲み、俺は疲れただろうアルジェントの身体を、川の水で綺麗に拭いてやる。


「グルルルル……」


 気持ち良いのだろう。アルジェントが喉を鳴らす。それが俺も嬉しくて、鱗の一枚一枚まで綺麗に磨き上げた。


 銀鱗はまるで鏡のように陽光を反射し、また、辺りの景色に溶け込むように景色を写し出す。


 俺は綺麗になったアルジェントに満足すると、母に持たされた蒸かし芋で空腹を満たす。


「グルルルル……」


「お前もすっかり芋好きだよな」


 両親の話では、竜は雑食でそこら辺のものを手当たり次第食い尽くすとの事だったが、やはり好みはあるようで、アルジェントは母の蒸かした芋が大好きだ。アルジェントに食べさせる為に我が家の周りは芋畑に覆われてしまった。


「さて、そろそろ行くか」


 アルジェントと二人、蒸かし芋を食べ終えると、また空へと飛び出した。



 竜のような巨体が大空を飛ぶのは不思議な話だ。空気より軽いと言うならそれも分かるが、竜はそれなりに重い。何せ土や岩さえ食べてしまう大食らいだ。そりゃあ重い。


 では何故大空を飛べるのか。魔法のお陰? それだけではない。やはり両後ろ足に備えられた火袋のお陰が大きい、と父は言っていた。


 竜は姿形は様々だが、翼を持ち、火袋を持っているのがその特徴だろう。鱗や牙、角などは枝葉末端だ。


 そんな中でアルジェントはスタンダードな型の竜である。トカゲのような鱗に覆われた四足の身体に、鋭い牙に爪、角はまだ生え始めたばかりで小さい。背にはコウモリのような皮膜の張られた翼を持ち、火袋は後ろ足に備えられている。


 身体の中には魔核があり、それは火袋を通して炎となって噴射される。その勢いは凄いもので、上空へと飛び立つ時の地面は、火袋から噴射される炎で黒焦げになる程である。


 そんな強力な推進力が、重い竜の巨体を宙空に持ち上げ、大空を駆ける礎となっている。竜は魔法と言う力を物理的な推進力に変換して空を駆けるのだ。



「そろそろ王都かな?」


 あれ程遠くに見えた王都も、アルジェントで大空を駆ければ数刻のと言う短い空旅であった。


 大小の建物が向こうの山裾まで続く、我らがガラク王国王都ガラクシア。どの建物も屋根は赤く壁は白い。王城らしき建築物もそうなっているので、王都の法で制定されているのかも知れない。


 壮観なその風景に見とれていると、二頭の飛竜がこちらに向かってやって来た。


「そこの者! 身の証はあるか!」


 恐らく王都の守備隊なのだろう。二頭の竜も騎乗する男二人も、鎧を着こんでいた。


「西のウーヌム村から来ました!」


 俺は誰何する男二人に、ウーヌム村の組合所で貰った首輪を見せる。


「確かにウーヌム村の出のようだな! 王都には何をしに来た!」


「王立ネビュラ魔剣学院で、魔法と武術を学びに!」


「ああ、ネビュラ学院の受験生か! ネビュラ学院は王都の南端だ!」


 男の一人が指差す方には、王城に比肩する程大きな建物がそそりたっていた。デカい。


「では、受験頑張るんだな!」


 男たちはそう言うとその場を飛び去っていった。


 受験、とは?


 訳が分からないが、行けば分かるだろう。俺はアルジェントの鼻先を南に向け、王立ネビュラ魔剣学院へと飛んでいった。

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