第十八話 冒険者自由協同組合
魔法都市サルミリオス。
そこは世界で最も繁栄している都市の一つとも呼ばれている。
また、世界で最も異種族の集まる都市でもあった。
この都市には君主がおらず、公平・中立の名の下に、多種多様な『人』が集まるのだ。
そして主な理由が二つほどある。
1つが、魔導学園サルミリオス。
この学園では、四大元素〈火・土・風・水〉を始めとする、ありとあらゆる魔法の研究開発・運用が行われており、世界最高水準の魔法教育を受けることができる。
そのため、世界中の名だたる王族、人族の中でも富裕層と呼ばれる者たち、亜人族の中でも選ばれた者たち、学びを得るために大陸を渡り来る魔族たち、多くの者が集うのだ。
公平・中立を掲げるこの学園は、どんな者も、どんな種族も拒まない。
初等部から始まり、中等部、高等部、大学部の4部からなる超大型の学園で、その者の年齢や魔法の練度により、クラスが分けられることになっている。
極端な話、才なきものは三十路を過ぎても初等部にいるし、神童と呼ばれる者の中には、齢10つにして大学部に籍を置くものすらいるのだ。
入学し卒業するに至る者の割合は全体の3%にもみたないらしいが、歴史的に名を残すような魔法使いは、この学園を卒業していることが多いらしい。
ただ、入学費用が高額であるが故に、実践的な学びを得た後にはすぐやめてしまう者も多い。
特に冒険者などにその傾向が強く、ある程度魔法が使えれば良い、という考えの流浪人たちが入って一年で止めて行くケースも多い為、近年ではそれ専用のカリキュラムまで用意されているとのこと。
実際、俺もそんなには長いするつもりはなかった。
そして2つ目が、冒険者自由協同組合の総本部がこの地にあるという点。
冒険者自由協同組合、、、通称『ギルド』と呼ばれ、今やこれに加盟していない国はないと呼ばれるほどの規模を誇っており、どの国に行っても大抵の支部があるのだ。
このギルドはそれぞれ部門が4つに別れている。
1.冒険者管理部
ここに加入することで、ギルドの斡旋する依頼を効率よく受け、金を稼ぐことができるようになる。
戦闘力が認められた者や多くの実績を積んだ者に対する特典も数多くあるため、多くの冒険者たちは日々上を目指しているのだ。
またギルドへの加入で発行される、
2.商工管理部
行商やその土地で商売を始めたい者たちは、ギルドに加入することで、他国間であっても物品の取引が格段にしやすくなり、また国によってはギルド加入者への入国税を一部免除するところもある。
またギルド公認の店として保証されることにもなるため、まさに入って損はないと言えるだろう。
3.財産管理部
路銀として多くを持ち運べない者でも安心、ギルドに預けてしまえば、世界各国でその金を引き出すことができるのだ。
ただし、ギルドが公式的に貨幣として取り扱っているのは、城塞都市アロバキアで発行されている、リミオス金貨・銀貨・銅貨のみとなっているため、他の貨幣では使用することができない。
まあ世界で最も流通する貨幣であるため、困ることはないだろう。
4.顧客管理部
ギルドが斡旋する依頼の受付・事後処理はここで一手行われており、国を通しての大掛かりな案件から個人単位での依頼まで、様々ここで精査され、冒険者へと割り振られるのだ。
……………………
そして今、俺とリリアは、
建物がめちゃめちゃでかい、そして兎に角広いのだ。
大袈裟だけど、城を思われるくらいの壮大さであった。
敷地の中には、宿から飲食店、冒険者御用達の武具屋から雑貨屋まで、大なり小なりの店が乱立している。
総本部ともなると世界中から人が集まるようで、その賑わいは、キザイス王国の首都パノヴィアの比にならないほどだ。
ギルドの中に足を踏み入れば、人でごった返していた。
人波をかき分けながら、リリアとはぐれないように奥へと進んで行く。
まずここに来た理由はいくつかあって、一つはキザイス王国でもらった金をさったと預けてしまいたかったから。
金貨30枚。
親馬鹿にも程があるのではないだろうか。
こんな大金を持ってると知れたら、それこそ危険な目に遭う気がするんだが。
カウンターでそれを広げた時も、受付のお姉さんに大そう驚かれた。
「お、お客様、全てお預かりで……よろしかったでしょうか?」
「えっと、お願いします」
周りの視線も痛いほど感じるし、お金はちょくちょくと預けに来ようと心に決めた瞬間でもあった。
まあこれほどの大金がそうやすやすと手に入るわけもないけど……
それと、冒険者登録もすませておいた。
リリアのために貰ったお金を使いまくるわけにもいかないし、俺は俺でちゃんと稼がなければならない。
これからはやらなければならないことが山積みだ。
リリアの装備品の調達、常宿の選定、情報収集、金稼ぎetc………
ガリウスが紹介状を書いてくれた学園の先生にも会わなければならない。
まずはあらゆる分野における、情報収集が必要だろうか。
なにせ新米の俺たちには、ここの地理も店も人もよくわかっていない。
俺の両親の手がかりだって、生きていることと、村から西の方角へ行ったこと以外には、まるで情報がないのだ。
先ほども、ガイルとメイの名を受付で聞いてみたのだが、個人情報は開示していないと断られてしまった。
あるいは、等級が低すぎて、開示されない情報があるのかもしれないけど。
今の俺とリリアの冒険者としての等級は『
どのような基準で上がるのかは知らないが、下から『銅』『
受付のお姉さん曰く、
「実力を示せば、最大、金等級までは上げることが可能です。
ですが、それ以上の等級は、ギルドへの貢献度に応じて総合的に判断されます。
本日は、等級審査の日となっておりますので、よければご参加ください」
参加費用は、一人金貨一枚とのことだ。
……結構高い。
そんなことで、まずは等級上げと情報収集から行っていくことになった。
その他は急ぎでもないしな。
……………………
リリアとその辺の店で腹ごしらえしているとき、場内に女性の声が響き渡った。
「これより、等級審査を開始いたします。
参加を希望される方は、第一闘技場までお越しください」
一気に人が流れ始めたので、それについていくことにした。
少し歩くと、吹き抜けの大きな広場のような場所にでた。
会場をぐるっと一周するように席が設けてあるのも特徴的だ。
リリアに聞けば、ここでは普段、人と人との闘いを興行として執り行うような場所とのことだった。
それじゃあ、対人戦で等級を測るのか?
そんな疑問に答えるように、係りのお姉さんからの説明が始まった。
「皆様揃いましたでしょうか。これより、等級審査を実施いたします」
第一次審査では、ギルドの用意する
それを突破したら、第二次審査、対人戦闘へと移ることになる。
これは参加者同士で競い合うというもの。
もちろん相手を死に至らしめる行為は禁止されている。
そしてそれをも突破した強者は、最終審査 ギルドの手配した冒険者との戦闘を行うこととなる。
全二日の審査の結果から相対的に評価され、最終的な等級が決定される、とのことだ。
「リリア、対人の戦闘もあるけど平気か?」
「アルム君と訓練もしたし、大丈夫だと……思うけど……」
全く自信なさ気だけど、ポテンシャルだけはこの会場で最強なんだよなぁ。
魔法も使えるし、闘気もそこそこ扱えるようになっているから、おそらく、第一次審査くらいなら、簡単にパスしそうな気もするけど。
だけど時間は待ってはくれないのだ。
こうして、等級審査が幕を開けたのだった。
……………………
俺に順番が回ってきた。
土人形は思ったよりもデカく、だいたい俺の二倍程度の大きさがある。
すでに結構な数の冒険者たちがコイツにやられていた。
実際に闘ってみると、これがまあまあ強いのだ。
……けれど、今の俺の相手ではない。
道中で開発した、新技を試すのにちょうどいいかもしれない。
水と風の混合魔法。
『
これは朱雀との闘いで見た『熱線』の
一瞬にして手足と頭を斬り飛ばされた土人形は、ただの土塊となり、場内にどよめきが走る。
人の形をした何かに技を使うと、どうしてこうエグさが出るんだろう。
こうして俺は難なく第二次審査へと進むことになった。
一方、リリアはというと……
「破っ!」
緋色の髪をなびかせながら、闘気を纏わせた拳で土人形を跡形もなく粉砕していた。
リリアの二倍は優に超えるサイズのそれが見るも無残な姿に変わったところで、今日イチの歓声が闘技場内を包み込んだ。
「アルム君! やりました!!」
「お、おう、やったな!……」
無邪気に駆け寄ってくるリリアに対して、思わず引いてしまった。
いや可愛いし、嬉しいんだけど……そうなんだけど、怖すぎるのよ。
俺も何かの拍子で、
身の振り方には気をつけておこう。
こうして無事に二人とも、第一次審査を突破したのだった。
そして多くの冒険者を魅了したリリアの闘いが、後のリリアファンクラブ結成のきっかけになることを、この時点ではまだ誰も知らなかった。
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