第十三話 炎の体現者
それは、人のような何かだった。
いや、人だとわかっているのだが、膨大な魔力をその身に纏い、ある種、人を超越する存在となっていたのだ。
底知れない魔力の量は、仙神ガリウスを彷彿とさせるほどである。
膨大な魔力の奔流が、絶えずその形を変え続けている
オルフレッドの方を見ると、冷や汗をかき、その手をすでに剣へとかけていた。
事情はわかっていたが想定外のことが起きた、ということだろうか。
「おい、これ何だよ!どんどん魔力が膨らんでいくぞ」
「んー、本当はこんな筈じゃなかったんだけどねー。
魔力操作の苦手な王女様に、ちょっと君から指導してもらおうと思って……」
いや待て待て、コントロールが苦手ってレベルじゃないぞ。
しかも元の魔力の量が桁違い過ぎる。
具現化した炎の周囲にあるものの全てが灰となっている。
死体らしきものが転がっていないのが不幸中の幸いか。
「指導でどうにかなるレベルか?
……というか、どうしてあんなになるまでほっとけたんだよ」
「姫様は火系統の天与を授かって生まれてきてね。
強すぎるからって封印していたはずなんだけど……
それが外れちゃったみたい」
てへっじゃねーよ。
そんな簡単に外れるなら封印とは言えんだろ。
しかしここ最近の俺は、まあ運がない。
「それがどうして都合よくこのタイミングなんだよ!
そういうのは国の問題だろ?俺抜きでやってくれよ!!!」
「……魔法の練習をしてたら、人に当てそうになったんだと。
あの人は心が繊細でね、それがすごくショックだったみたい」
……えーっと、それってつまり……
「うーん、まあ誰のせいとは言わないよ?」
そんなことまで責任取れんわ……こんなのばっかりじゃねーか!
つまり俺のせいで精神が極度に不安定になって、枷がハズレてしまったと。
いやでもよくよく考えると、たかだか上級魔法であそこまでの威力が出てた時点ですでに封印の効力も弱っていたんじゃないだろうか。
あの爆発トリオどものせいで……
「……やればいいんだろやれば!」
「そうこなくっちゃね」
腹をくくるしかない。
ここで俺が逃げれば、間違いなくコイツも、その他の大勢の人々が死んでしまうだろう。
家族と離れる苦しさはよく知ってる……ここで引いたら、力を得た意味がない。
とは言え、ただの気合いで勝てるような相手でもないのは確かだ。
ましてや、殺さずに無力化するなど、とんでもない技量がいる。
「お前、何か策はあるのか?」
「うん……だけどちょっと時間がかかるかも」
話を聞けば、転移魔法陣を事前に用意しているらしく、それで郊外まで飛ばそうとのことだった。
その準備が整うまでは時間を稼がなければならない。
そうこうしているうちに、荒れていた魔力がまるで意思を持ったように形作られていく。
その姿はまさに火の化身、朱雀とも呼べる神々しい姿であった。
魔力が自我を持つなんて話は、ガリウスからも聞いたことなかった。
だけど目の前の
……もしかしたら今なら言葉も通じるかも……
一縷の望みをかけ、話しかけてみる。
「もしもーし、昨日のことなら水に流……」
その瞬間、確かに目があった……ような気がした。
だけど、飛んできたのは返事ではなく、強大な
すぐさまそれを
属性の相性なんておかまいなしの威力。
一つしくじれば、消し炭にされる…………骨も残らないだろう。
圧倒的な魔力を前にどうも攻めあぐねていると、
コイツ飛べるのか!?!?
信じられないことに、具現化させた魔力の翼で空へ飛んだのだ。
圧倒的な高密度・高純度の魔力が成せる技なのだろうか。
こんなのが街へと繰り出せば、それこそ国が滅んでしまう。
だがしかし、飛んだのは一人じゃなかった。
オルフレッドは人並みはずれた跳躍を見せ、剣の腹で
コイツもまさにバケモノだった。
「アルム! 援護を頼めるかい?」
「お、おう、任せとけ」
なんかちょっと引いてしまったけど、心強い前衛ができた。
だがしかし、それも長くは持たないだろう。
朱雀は叩きつけられた衝撃など意に返さず、むしろその激しさを増す一方だ。
圧倒的な熱量と燃え盛る姿はまさしく、炎の体現者そのものであった。
羽ばたく度に熱風が吹きつけ、息を吸うことすらままならない。
しかし、そんな中でもオルフレッドは果敢に攻め続けていく。
主となるのは闘神流の剣術でありながらも、敵との駆け引き、攻防一体の剣さばきの中には、光神流の色も見える。
もはやオルフレッドだけの、複合剣技とでも言えるのではないだろうか。
俺もそれに合わせるようにして、水球、
すぐに蒸発してしまうのだが、多少は効いているのか、徐々に炎が弱まっていくのがわかった。
だけどなにか違和感が…………
直感が警鐘を鳴らしていた…………やばい!
その瞬間だった。
朱雀が口から光球を吐き出す。
極限まで圧縮された炎は眩い光を放つと同時に、解き放たれた。
それは、練兵場でみた、
間一髪、朱雀を
地面が抉れ、倒壊した城の一部が瞬時に消し飛ぶほどの威力があり、その直後には肌身を焦がすほどの灼熱が襲いかかってくる。
俺も無傷ではすまなかったが、前衛を務めていたオルフレッドの容体がかなりひどい。
鎧から覗く手足は焼けただれ、意識を保っているのが不思議なくらいの大火傷を負っていた。
不屈の精神というべきだが、これもまた常軌を逸していた。
____
一瞬にして濃霧があたりを包む。
すぐにオルフレッドに
俺自身も大きな怪我だけは治療しておく。
どちらかが意識を失えば、確実に殺されるだろう。
「……おい、オルフレッド。まだ戦えるか?」
「おかげさまで何とかね……正直、倒れてた方がよかったかも」
軽口を言える程度にはマシになったようだった。
しかし、状況は全く変わっていない。
むしろ悪くなる一方だ。
圧倒的な魔力量の差が、俺たちの体力を徐々に奪っていた。
ガリウスの修行がなければ、俺もとっくに魔力が尽きていただろう。
オルフレッドも俺と実力が変わらないのであれば、同じようなところかもしれない。
大きな翼で熱風が起こると同時に、霧が吹き飛ばされた。
だが幸い、やつも大技の後ではあまり身動きが取れないようで、今はその力を溜めているようだった。
あまり猶予がないが、これ以上の策もない。
万事休すか……
……とそのときだった。
二人に続けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
グランスの怒号が響き渡ると同時に、応援にかけつけた十数名の魔法使いたちがいっせいに水魔法を放つ。
個々の力はそこまでだったが、圧倒的な物量で押し始めたのだ。
決定打とはならなかったものの、炎がかなりの揺らぎを見せ、明らかに苦しんでいるのがわかった。
そしてそこへたたみ掛けるようにように、数人から成る、極大魔法が炸裂する。
圧倒的な水量が、朱雀を飲み込み、周囲の瓦礫を砕きながら押し流していく。
そしてその先には、光り輝く魔法陣が描かれていた。
グランスの叫ぶ声が聞こえる。
「団長! 準備が整いました。今のうちに……!」
皆まで言わずとも、俺たち二人は走り出していた。
彼らが作った一瞬の隙、絶対に無駄にできない。
一羽と二人が揃ったその瞬間、魔法陣がその輝きを増す。
『『
次の瞬間、河辺の平原に降り立っていた。
先ほどまでいた王城が遥か先に見える。
そしてこれが第二戦目 開始の合図であった。
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