第八話 武器術と修行の先に
先日の戦いで、二つわかったことがある。
一つは、実践経験が圧倒的に不足していること。
相手のペースに呑まれ、主導権を完全に握られてしまっていた。
経験不足が焦りや激怒につながり、その結果手傷を負わされる羽目になったのだ。
二つ目が、武器術だ。
帯刀していても使えなければ戦闘の邪魔になるだけだ。
現に、俺の渾身のひと振りは、あっけなく弾かれていたわけだし。
完全に力量・技術不足だった。
課題はまだまだ山積みだ。
こんな辺境の地に来る程度の賊に手こずっていたら、この先到底通用しないだろう。
少しは強くなったと思っていたけど、ただのうぬぼれだったのだ。
「おぬしもまだまだよ。あの程度の賊にしてやられよってからに」
このじいさん、ほんとエスパーなんじゃないか?と、密かに思っている。
____っというか、ん???____
「なんで知ってるんですか?」
「そりゃ見ておったからの」
「!!??」
この人、見てて放置したのか? 愛弟子が死にかけてたのに??
「なあに、危うければ助けておったわ。現に皆、無事であったろう?」
いや、自分の予想どおりみたいに言ってるけど、それは俺が頑張ったからなんですけど!
スパルタなんて言葉じゃ甘い、このじいさん鬼畜だ。
「じゃがおぬしも足りぬものを感じたのであろう?」
いい加減、先回りするのやめてくれませんかね……
全て読まれているみたいで怖くなるんですけど。
だがまあ、その通りだから仕方ないんだけどもね。
「師匠、俺どうすればいいんでしょうか。どうしたら強くなれますか?」
センチメンタルな気持ちでそんなことを聞いたら、とんでもない回答が飛んできた。
「戦いで傷付いた精神は、修行で治すのが一番じゃ。
辛くて苦しい地獄のような修行だけがお前さんを癒してくれるのじゃよ」
なに言ってるんだこの人……と思ったけど、目が笑っていなかった。
あっこの人、俺がちょっと苦戦してしまったこと許してない。
こうして、地獄の修行 第三段が幕を開けたのだった。
ーーーーー
まずは武器術への理解から。
当たり前のことだが、武器にはそのそれぞれに合った使い方があり、型も広く存在する。
現代において世界的に広まっているのが、四大流派だ。
闘神流 使用武器:
攻撃は最大の防御という理念のもと、膂力にものを言わせた剣速・剣圧で、敵を圧倒する。
また、相手の武器を狙い撃ち、破壊するのも大きな特徴だ。
言ってしまえば、使い手を選ばない脳筋剣術だが、ハマると強い。
ガロンは闘神流の技を使っていたらしい。
光神流 使用武器:
かつての英雄王レギオムの使用していた剣術で、世界で最も広まっている流派でもある
その真骨頂は、
攻守のバランスが非常に取れた、敵にするとめんどくさいタイプの剣術ということだ。
正統な剣術流派として、王国騎士団やレギオム神皇国の聖騎士などが修めていることが多い。
海神流 使用武器:
もともとは魚人族を中心に使用されていた武器術だ。
斬・突・打の技のバリエーションが多く、また単純に間合いも遠いのが非常に厄介だ。
技量を身につけたとき、無双の強さを誇るとも言われている。
神心流 使用武器:
ジバルグ発祥で、「突かば槍、払えば薙刀、持たば太刀」と称される千変万化の技が特徴だ。
また神心流の掲げる「不殺」の理念に共感するものも多く、近年でその使い手の数を増やしている。
これらの四大流派の中に、刀を扱う唯一の流派:東神流は含まれていない。
なぜならば、その剣技は、大衆が身につけるにはあまりに高度過ぎたから。
東神流において、技と呼べるもは『抜刀』と『流刀』の二つだけだ。
間合いに入った者を、刹那のうちに斬り捨てる、神速の抜刀。
あらゆる攻撃を受け流し、即座に反撃に転じる、無形の流刀。
その極意でもある、『間合いの支配』と『交叉法』には人並み外れた反射神経と天性の勘が命だった。
東神流の開祖であるサクラ=ワギは、女性の身でありながらも、その二つの技のみで、武の極致と称されるほどの強さを誇っていたのだ。
ーーーーー
「彼奴は、それは惚れ惚れするほどの腕前をもっておった。
あの時はワシもまだまだ若くてのぉ_______」
その後、ガリウスとサクラの恋バナを延々と聞かされた。
年老いた師匠の浮いた話なんぞ、誰が聞きたいというのか……
だがしかし、ガリウスはサクラと恋仲でありながらも、一番弟子として初めて免許皆伝を言い渡されたらしい。
やっぱりこの老人はあなどれないのだ。
ひとしきり話し終えると満足したようで、ようやく本題に入ってくれた。
「話が逸れてしまったわい。それでは技を授けるとするかの」
ほれ……といきなり木剣を投げ渡された。
「今からワシがおぬしのことを攻撃する。それを全て捌くのじゃ。
後は抜き打ちをやれ。ワシがいいというまで日に1万本は必ず振るように」
「……それだけですか? 型とかそういうのは……」
「そんなものはない、無心で振り続けるのじゃ。
その二つを修めたならば、免許皆伝としようかのぉ」
それが開祖であるサクラ=ワギの考案した修行法とのことだった。
…………そりゃ流派が廃れる訳わけだ。
今となっては、ジパルグのごく一部でのみ継承される一子相伝の秘剣となっているらしい。
ここ100年くらいで、あまり表舞台に姿を表すこともなくなったのだとか。
だが、その狂気ともいえる修行に耐え切った者だけが、武の極みへと達することのできる。
どの世界においても達人が狂っているのはそういう訳だ。
「流刀は木剣にて行うが、抜刀は真剣で行うように。
重さはどちらも揃えておるから、支障はないじゃろて」
それだけいうとガリウスは木剣を構える。
こうして、極めて実戦に近い稽古が始まった。
ーーーーー
一週間が経過した。
生傷の絶えない先の見えない訓練が続く。
手には大きな豆ができ、常にズキズキと痛むのだ。
しかし、治療は許されなかった。
体を鍛えるためには、あえて治さない方がよい傷もあるとのことだった。
ーーーーー
一ヶ月が経過した。
手の皮は一段と分厚くなり、もう痛みを感じることはあまりなかった。
しかし、止むことのないガリウスの猛攻を捌ききれず、体中が青あざだらけだ。
ーーーーー
三ヶ月が経過した。
抜刀のなんたるかを理解し始める。
それは鞘引きの技術であり、それが音のない、神速の斬撃を生み出すのだ。
ーーーーー
半年が経過した。
刀が己れの一部となるのを感じる。
ガリウスの攻撃は鋭さを増すばかりだが、被弾する回数は減りはじめていた。
ーーーーー
寝食以外の全てを刀に捧げ、一年が経過した。
『抜刀』は無音・神速へと昇華され、不可避の域へと達していた。
このときには、日に抜く数も、既に5万本を越えていた。
ーーーーー
それから重ねて半年、その日は突然にやってきた。
先見ともいえる能力が開花し、相手の『流れ』が視えるようになっていたのだ。
ガリウスの攻撃の全てを捌ききり、ここで初めて一本を取ることができた。
長きにわたる修行に終止符をうつ、『免許皆伝』が言い渡された瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます