間話 宴会と小話
夕方にもなると、徐々に広場へと人が流れ込んできた。
この村の宴会は、それぞれの家庭で作った料理や、畑で採れた新鮮な野菜、近くの川で採れた魚などを持ち寄るのだ。
10世帯ほどの小さな村だけど、かなりの量の食べ物が出揃う。
それに合わせて、今日は俺もすごく頑張った。
結局あの後、鹿1頭、猪1頭、キジ5羽を狩ってきたのだ。
これには村の人たちもかなり驚いていた。
「どうやってこんなにとってきたんだい?」
「いやーたまげたのう。まさかアル坊がここまでやりおるとは」
「あんたがいなくなって、もう3ヶ月も経ってたのねぇ……おかえりなさいアルム」
「それにしてもお前、デカくなったなぁ……いや、大きくなり過ぎてないか?」
意外なことに、俺がいなくなったことを心配してくれる人が多かった。
それと背丈のこと……そんなに大きくなったかな?
何はともあれ、たまにはチヤホヤされるのも悪くないものだ。
俺の仕事は狩り専門なので、この時点でお役目終了。
あとは宴会まで、みんなのとこをフラフラ回ろうかな〜〜
そんなことを考えていると、後ろからポンと肩を叩かれた。
振り向くと、問屋のお姉さんニナが立っていた。
この人はいつも俺が仕留めた獲物を仕入れてくれていたのだ。
人当たりがよくて笑顔の素敵なお姉ちゃん__おまけに胸がでかい(本当はおまけではない)。
村一番の人気者だ。
「やあ、アルム! 今回はお手柄だったみたいだね。
それに君……背のびた? 前はこのくらいじゃなかった??」
いたずらな笑顔をを浮かべながら、屈んで地面スレスレのところに手をかざしていた。
ああ、こぼれるこぼれる。
手で支えて上げようかとも思ったけど、強靭な精神力を発揮してやめておいた。
俺の対応は子どもながらにして、いつも勤勉で紳士的であると評判なのだ。
「いやぁ、お手柄なんてそんなことは……
って背のこと色んな人に言われますけど、俺、成長期ですよ?」
これが普通じゃないの?と思ってたけど、3ヶ月程度で頭一つ分の背が伸びるのは異常らしい。
まあ、この後ガリウスに聞いたらその理由が分かったけど……(魔法〈 成長 〉を使われていた)
「すっかり頼もしくなって……全くもう……見直しちゃったよ」
「えっ!?」
いきなり褒められてギョッとしてしまった。ほっぺたが熱い……ふぅ、落ち着け。
まあ何とは言わないけど、こういうところだよね。
地獄の修行で鍛え上げた強靭な精神力はもはや役立ちそうにもなかった。
それからしばらく話込んだ。
いなくなった3ヶ月のこと、これからの仕入れのこと、他にもたくさんだ。
まあ肝心なことはふせておいたけど。
「仕入れのことは残念だなぁ……君の持ってくるお肉は他でも大人気でね、
お父さん譲りのいい仕事だって、みんな褒めてたんだよ」
「褒めてもらえるのは嬉しいけど……すみません、やっぱり忙しくて……」
「ううん、いいんだよ。アルムのやりたいことをするのが一番だからね」
仕入れ先がいきなり一つ潰れるなんてとんだ迷惑な話だと思うけど、ニナは俺を責めなかった。
それどころか、今後の俺のことを思って応援までしてくれた。
年は5つくらいしか離れていないのに、どう育てばここまでの人格者になれるんだろうか。
やっぱりニナは、俺の憧れのお姉さんだ。
ーーーーー
ダロンの家まできた。
家の扉をノックすると、すっかり目覚めていたようで「おう、入ってくれ」とだけ声が聞こえた。
遠慮なくお邪魔すると、ダロンはまだ寝具の上で寝そべっている。
村で唯一大怪我を負ったことに恥ずかしさを感じているのか、もう起きれるはずなのに何やらモジモジとしていた。
「おう、アル坊か。
今回は全部お前が盗賊どもを返り討ちにしちまったんだってな。
……あの小さかったお前が強くなったなぁ……それに比べて俺は……」
恥ずかしいだけではなかったのだ。
守衛としての務めを果たせなかった上に、村の外の者が全て解決できてしまったことに負い目を感じているようだった。
普段はおちゃらけている癖に、そういうところが真面目だ。
「そんなことはないよ。
おっちゃんが身を挺してみんなをかばってくれたから誰も怪我せずに済んだんだよ。
村で身体の一番丈夫なおっちゃんだったから、誰も死なずにすんだんだよ」
これは本当のことだ。
言い方は悪いけど、ダロンの生んだ恐怖心が、みんなの心を止めた。
そのお陰で怪我人がでなかったのだと、俺は思う。
「だけど俺ぁ、お前がいなけりゃ死んでたぜ?」
「でも、生きてるでしょ? 」
それからダロンは少し黙って、何かを考えていたようだった。
短いようで長い時間、この男がこれほどまで喋らなかったことはあっただろうか。
ほどなくしてダロンはおもむろに口を開いた。
「……まさか坊主になぐさめられるとは、俺も情けねぇ。
やめだやめだ! うじうじしてんのは一番男らしくねぇ!」
「それでこそ、おっちゃん! 早くご飯食べに行こう、みんなが待ってるよ」
____心配かけて悪かったな____
そんな声が聞こえた気がしたけど、多分気のせいだろう。
ーーーーー
最後に訪れたのは、村長の家だ。
俺が一番お世話になっていて、夫婦二人にはお世話になりっぱなしだ。
「村長さん、いま大丈夫?」
「おお、アルムか、入りなさい」
そう言って招かれたけど、何やら慌ただしくしていた。
今回の盗賊襲撃事件の事後対応があるはずだ。
先ほど村で唯一飼育されている、伝書鷹のトンビィを遣いに出しているのを見た。
この村は、キザイス王国の領地の最南端にある。
何か事件が起きた際には、トンビィを放って手紙を飛ばすのだ。
早ければ2日ほどで、王国騎士団の中から数名ほど派遣されてくるだろう。
もちろんその間、拘束を緩めるつもりはない。
今は新たに土円蓋を張り、その中に閉じ込めている。
もちろん地面に埋めているので、身動き一つ取れないだろう……自業自得だ。
「忙しいのにごめんね、ちょっと聞きたいことがあって」
「なに、大したことないわ。それでどんなことだ?」
俺は意を決して、父と母のことを尋ねた。
すると村長は、特に驚いた様子もなく、俺に向き直った。
「いつかこんな日が来ると思ってたよ。
確かに俺がお前にガイルとメイの死を伝えたとき、あいつらは生きていたよ。
………お前にはずっと隠してたことは謝罪させてくれ、本当は許されないことだ。
だけどな、あいつらとの最後の約束だったんだ。それからはもう一度も会っていない」
「行き先も聞いてないの?」
「知れば迷惑をかけると、具体的なことは頑なに言おうとはしなかった。
……いや、ただ一つ、西の方へと向かうことだけはこぼしていたかもしれんが」
西の方といえば、魔法都市サルミリオスがある。
それにあそこには、冒険者ギルドの本部があったはずだ。
あまり進展はなかったけど、情報を得ることはできた。
それだけでも大変ありがたい。
「ありがとう、参考になったよ……それより今日の宴会はでないの?」
「いやあまり協力もしてやれんですまんな。
宴会はもちろん参加する。言い出しっぺが居らなんだら話にならんだろう」
宴会への参加もついでに聞いてみた。
しょうがなく出る、みたいな言い方をしているけど、村長はかなりの祭り好きだ。
本当は楽しみにしてるに違いない。
「それじゃあ待ってるから早く来てね!」
「わかったからほれ、早く行きなさい」
促されて村長宅を後にした。
____いよいよ宴がはじまる____
ーーーーー
始まってみればあっという間だった。
食べて呑んでのどんちゃん騒ぎだ。
終いには、酒の飲み比べなんて始めて、大人たちが子どものようにはしゃぎ回っていた。
結局一番酒が強いのはニナで、男どもはだらしがないと、いじられていたけど……
その後に開催された告白大会も面白かった。
村の紅一点、ニナをめぐる熾烈な争いだ。
出馬したのは村の若い独身連中5名だったが、あえなく撃沈。
その中にダロンが一人混じっていたのも笑った。
えっ?俺??
____高嶺の花は手が届かないから高嶺なのだ____
とまあ、楽しい時間はあっという間だった。
辛く苦しい修行の日々も報われた気がする。
存分に英気を養って、明日からの修行も頑張れそうな、そんな気がした。
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