第355話不快

クリスはイブを連れて個室に戻ってきた。


「君はハルジオンに嘘を言ったのか?」


クリスがじっと見つめてイブの言葉を待っている。


「嘘だなんて…だってあの子が言う人がまさかクリス様だとは…ここの領主なんて一言も言ってなかったので違う方かと…」


「それでも一言僕に聞きに来るのが礼儀ではありませんか?」


「そ、それより!クリス様とあの子はどういう関係ですか?雇い主とメイドですよね!?だってあの子メイド服を着ていましたし…」


イブは話をそらすとハルジオンの事を聞き出そうとする。


「別にどんな関係だろうと君には関係ない、すまないが気分が悪いのでもう帰らせて貰う」


「そんな!ここに一人残されても…」


「君の両親は戻らないそうだよ、しかもお金も払っていくという確信犯のようだね」


「そ、そんな事…私、知りませんでした」


イブが泣きそうになって顔を手で覆うと下を向いた。


「その泣き真似もやめて貰えますか?何度もしてますが涙なんて溜まってませんよね?」


「ひ、酷い…泣かないように我慢してるだけなのに…」


イブが顔をあげると


「ほらね」


カラッカラのイブの瞳を見てクリスが苦笑した。


「クリス様がそんなに意地悪な方だと思いませんでした…」


イブがボソッと呟く。


「君は僕の何を知っているのかな?僕は僕だよ何も偽っていない。君が勝手に勘違いしただけだよね?」


イブは何も言えずに無言になる。


クリスはそれを了承と取って部屋を出ていった。


そしてお店の店員さんに声をかける。


「あれ?もうおかえりですか?」


「はい、ご馳走様です。今度は家族と来ますね。それであのご夫婦が置いていったお金っていくら位でしょうか?」


「え?あっコレですけど…」


店員のお姉さんがお金の入った袋を見せると、クリスはそれを覗き込む。


「今回の食事はコレで足りましたか?」


「はい!多いくらいなのでお返ししますね」


「なら、今回の分はどのくらいでしょうか?」


かかった金額を聞くとクリスはその金額分お店に支払った。


「その袋のお金はまだ部屋にいる方に返しておいてください」


「わ、わかりました…」


店員さんはクリスの行動に首を傾げていたが、クリスは幾分スッキリする。


コレで食事をご馳走になったという事実はなくなった。


クリスは店を出ると馬を繋いでいた場所に向かう。


「おまたせ、お前も何か貰ったのか?」


美味しそうに干し草を食べる愛馬を撫でると…


「なぁ、ハルジオンがここに来たのか?」


聞くが馬は当然の様に答えない。


「だよな…さてもう少しここにいてくれるか?一応町の中を探してくる」


クリスは馬に声をかけるととりあえず心当たりがありそうな場所を探すことにした。




ハルジオンはその頃クリスを探して町中を探していたが当然の如くクリスは見つからなかった…


うーん…やっぱりあの店かなぁ…


ハルジオンは町の端まで来て話を聞くが誰もクリス様を見た人はいなかった。


なのでもう一度話を聞こうと店に戻ことにした。

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