第354話不信

「離して貰えますか?」


クリスは腕を掴むイブに冷静に話しかけた。


「何か先程からソワソワしてますがなんですか?何か言いたい事でも?それとも…ああ!震えていたし、もしかしてトイレですか?それならここを出て右側にありましたよ」


クリスは笑顔でトイレの道案内をした。


「ち、違います!トイレなんて行きません」


「そうですか…なら僕が行ってこようかな…」


クリスはそういうとイブを残して個室を出た。


個室を出て店内の騒がしいテーブル席をみるとほっとする…


ああ、楽しそうだ。本来なら僕も今頃はハルジオンや姉さん達と一緒に楽しく食事だったかも知れないのに…


一体この意味のわからない食事会はいつ終わるんだ。


クリスは何度も帰ろうと席を立とうとするがもう少しもう少しだけと止められていた。


まぁ初めての町でいきなり一人っきりにする訳にもいかないし…早くご両親が戻ってくるといいんだが…


そんなことを思ってふとクリスは店員に声をかけた。


「すみません、あの部屋にいたご夫婦が用事で席を外したと思うのですが…いつ戻ると言ってましたか?」


「え?ちょっと確認して来ますね!お待ち下さい!」


店員のお姉さんは笑うと厨房の方に行ってしまった、そして少しして戻ってくると…


「あの…あの部屋の方はもう戻らないそうです。何か御用でしたか?」


「そう…ですか…」


「あっお客さん…あの部屋の方でしたね!まだまだ頼んで下さいね!」


「いや、そんなには…」


クリスが苦笑いすると


「もうお金は先に払っていただいているので気にしないでください」


「そうなんですが…わかりました。ありがとうございます」


クリスは悪気の全くないお姉さんの言葉にお礼を言った。


そして再び個室に戻ろうとすると…


「あっクリス様!戻ってたんですか!?おかえりなさい!」


店内にいた顔見知りの町民がクリスに気がついて声をかけてきた。


「ああ、ただいまです。ラオさん飲みすぎるとまた奥さんに怒られますよ、程々に…」


随分と酒の進んでる様子のラオに注意をすると…


「え!?クリス様?お客さんクリスって言うんですか!?」


店員のお姉さんが顔を覗き込みジロジロとみて驚いている。


「なーに言ってんだ姉ちゃん!クリス様はここの領主のご子息様だぞ!」


ラオさんが付け足すと…


「え!?じゃあさっきクリス様を探しに来た子って…」


ブツブツと言いながら考え込む。


「君!」


クリスははっきりと聞こえたつぶやきに一気に目が冴えた!


「僕を探しに誰が来たの!?」


「え、えっと…名前は…でもメイドの服を来た銀色で肩までの髪の可愛い女の子です」


ハルジオンだ!


クリスの頭にはしっかりとハルジオンの姿が浮かんできた。


「なんで居るっていってくれなかったんですか!?」


「す、すみません…私この町に来たの最近で…でも確認しようとしたらクリス様を見たと言う方が来て…この店にはいないと言われまして…」


店員さんが申し訳なさそうに眉を下げている。


「いや、あなたを責めるのは間違ってました。すみません…そのこの店にはいないと言った方はどなたですか?」


「えっと……後ろにいるお姉さんです」


店員さんが気まずそうにクリスの後ろを指さすとそこには顔をしかめるイブが不機嫌そうに立っていた。

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