冒険者ゴエ・イスルの非日常


 俺の名前はゴエ・イスル。

 シュトロハイドで何でも屋を中心としている三級冒険者だ。


 万年三級冒険者であり、戦闘能力も低い。

 しかし真面目な性格で様々な依頼を受けたり、初心者の補助を始めとして組合からの信頼は高いという自負はある。

 

 主に何でも屋という側面が大きく、幅広い依頼を受けるのも特徴だ。


 そんな俺に対して直々に依頼が来た。

 しかも相手は組合長の友人であり、流水の魔術師の二つ名を持つリレートさんだ。



「これはとても重要な依頼です。報酬も高いですがあなたに命の危機があるかもしれません」

「なので依頼の詳細は受けるか決めた後に教えます。」

 報酬はある程度変わるようだが、一日金貨百枚で最大三日間受けれるらしい。

 

 控えめに言って破格だ。俺の日給は金貨一枚も無い程度。

 しかも命の危機があるかもしれないと来た。


 組合長にはお世話になっているし、それに加えてあの流水の魔術師からの直接の依頼となっている。



「命の危機ですか……。」


「あくまであるかもしれない程度です。」


「分かりました、受けます。」

 命の危機とやらは怖いが、ダンジョンに行けば命の危機なんてよくあることだ。

 

 何より嫁や娘により良い生活をさせたい。

 万年三級冒険者のちっぽけな自尊心だ。



「依頼内容は即売会での列整理などとなります」

「後付けで武器に付与する人造魔剣の制作を売るので、かなり過酷な作業になると思いますが頑張ってください。」

 この話を聞いた時に聞き返してしまった。

 

 後付けで武器に付与する人造魔剣?おかしいだろう。

 魔術を齧っている程度の俺ですら分かる。人造魔剣を後付けで作るなんて馬鹿げている。

 作成自体はできるが、恐ろしく威力が低く実用的ではない。

 

 曰くリレートさんの弟子はその問題を解決したらしい。

 二つ名持ちの弟子もやはり天才だったのか。



「えーっと。あなたがゴエさんですか?」

 確かに女とは聞いていた。しかし年齢は十二歳ぐらいの年端もいかない少女だった。



「わざわざ面倒な依頼を受けていただきありがとうございます。」


「仕事ですので大丈夫です。かなりの金額は報酬としていただきますので問題はありません。」


「ならば遠慮なくさせていただきますね。まずは契約魔術をかけせていただきます」

「条件は今日見る私、私の使用する魔術に対することを他人に話すことの禁止。罰は死亡で大丈夫ですか?」

 なんて重い条件なんだ。確かにリレートさんからは『ある程度重い契約魔術をかけられると思います』なんて言われていたが、命をかけないといけないとは。


 いや違う。後付けでの人造魔剣なんておかしい魔術だ。これぐらいは普通なのか。



「問題はありません。契約を受けます。」

 そうして契約を受け。俺は即売会の手伝いをすることとなった。



 

 後付けの人造魔剣という怪しい商売。しかも値段は金貨五十枚と内容にしては安いにしても、気軽に手を出せる値段ではない。 

 故に最初は暇をすると思っていたがこれは間違いだった。


 店を開き始めて少ししてから顔見知りの一級冒険者の男が来た。

 全身を隠すような特殊な服を着ており、声も変えるように言われているために俺とはバレてはいなさそうだ。


 紙にかかれた注意文などを渡し、後は列の整理をするのが俺の仕事だ。

 しかしまだ列ができていないために適当にしておいてくれと言われた。


 一級冒険者の愛武器を魔剣にしてから少して客が来た。

 そして客の多さは一気に爆発した。


 

「リーシェさん!予定より一気に客が増えました!列の整理間に合いません!」

 雇い主の予想では、ゆっくり話題となっていき少しづつ客が増えていくということだった。

 多少の予想外れは覚悟していたにしろ、一人では整理が追いつかないほどに増えるとは思わなかった。


 雇い主は客から見えない奥の部屋で魔術を使用している。

 もし何かがあった場合、邪魔をしても良いから入れと命令されているために躊躇なくその部屋へと入る。


 中では高度な魔術が使用されていた。

 同時に五つの術式を展開し、それを精密に操作して客の武器に術式を付与している。



「そうですか。どうしたものでしょうか。」

 そういいながら術式を操作している。

 齧った程度でしかない俺ですら分かるとても難しい魔術だ。



「とりあえず私の知り合いを呼んでどうにかしましょう。こういうのに慣れてはいないでしょうが、ある程度は良くなると思います」

「それとある客個人で列を作るように伝えてください。そして匿名で騎士に対して”列ができて大変なことになっている”と通報してください。」

 道には騎士に対して連絡が可能な通信魔具が設置されている。おそらくそれで通報しろと言うことだろう


「分かりましたが大丈夫ですか?」


「あなたとばれないように声を変えて、さも部外者が大変な状態になっていると言った感じに通報してください」

「そして来た騎士に”思ったより列が多くなって人手が足りません。手伝ってください”と言えば手伝ってくれると思いますよ。」


「そんな上手く行きますかね……。」


「もし騎士が疑問に思ったとしても、今の状態を放置するわけにもいきませんから大丈夫でしょう。」

 ぎりぎりで合法、ってぐらいには中々に酷い解決法だ。

 

 

 出動してきた騎士達に心の中で謝りながらも、何とかその日は裁くことが可能だった。

 しかり雇い主は謎が多い。一体何もなんだろうか?

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