苦労とは


「さーて。気を取りなおして人造魔剣の制作と行きますか!」




魔術工房パーソナルスペース

 術式を発動させる。


 自分を囲むように魔力で作りだした薄い壁を作り、その中を自分にとって程よい環境にするという魔術だ。


 部屋強化アイソレーション同様に孤立した場所を作る魔術なため、シュトロハイドの探知には引っかからない。

 故にこの中で完結させればそもそもアリシャの家にくる必要は無かったのだが……まあ一発成功できるとは思わないしアリシャとクリームに相談できる方が良いだろう。



 アリシャがこちらに対して何かを言っているが、防音効果もあるために聞こえない。

 先に説明しておいた方が良かったなこれは。



「さて。アリシャにも悪いし早目にやりますかね。」

 そう呟きながら、まずは腰につけている短剣を鞘から抜く。


 日本だとアウトだが、こっちの世界ならばこれぐらいの刃物は持ち歩いていても問題は無い。



 そして今気がついた。とても重要なことに。


「これ術式付与できるのかなぁ……。」

 うん。まあどう見ても小さいよね。


 小魔術と言われる最低火力の魔術がバスケットボールぐらいの大きさなので、サバイバルナイフよりちょっと小さいぐらいの大きさのこの短剣はどう見繕っても大きさは足りない。


 もちろん小魔術は小さくできる上、ある程度術式を小さくしても威力を保持する方法はあるのだが……。



「うーん。これはいっそ短剣は付与対象から外したほうが良いか?。」

 そもそも受けにくる人間がどんなタイプなのかは不明だが、もし護身用!ってのならば短剣が最適だろう。

 そもそもメインウェポンにはつけたくないけど、サブウェポンにつけるって人もいるかもしれないから短剣に付与できるできないは大事だ。


   

 短剣の鍔の真ん中あたりに指をつけ術式をイメージする。

 触れなくても問題は無いが、触れた方が効率よく術式を描ける。


 内容は小魔術の火球で良いだろう。


 条件は魔力を通すこと。


 ちなみにこの回路を反転させ『通していた魔力が無くなった』場合に発動する術式が、今も装備している魔力版鎖帷子くさびかたびらの内側につけている魔石に刻まれていたりする。

 常に強化魔術をつける癖をつけ、強化魔術に適した肉体を作るために強化魔術が切れたら攻撃するようにしたというスパルタ装置だ。


 発動回数はとりあえず1回からスタート。

 担い手の魔力にしか反応しない、という条件を付けるにはスペースが足りないから無し。




「ということで試作品第1号ちゃんです。」


「早いね。」


「まあ術式自体はある程度構想してたからな。後は多少の調整をしつつ実際に付与するだけだし」

「んじゃどっちが試す?」


「じゃあ私が試してみたいです!魔剣って初めて触るので楽しみです!」


「一応暴走したら怖いから、強化魔術かけてやってみてね。」

 一応暴走しないとは思うが……一概に断念できるほどに完全に紋章術を把握できてはいないから怖い。



「じゃあやりますねー!」

 そういってクリームが短剣に付与されている術式に対して魔力を流す。


 すると術式が反応し、そのまま球状の火炎が突撃した。


「あ。」

 

 ボン!と言う音がしてクリームに直撃した。



「おい!大丈夫か!?」


「大丈夫……とは思うけど……。」


「大丈夫ですよー!」

「やってしまいました。術式をこっちに向けて発動させてしまいましたから。」

 どうやら興奮のあまり凡ミスをしてしまったようだ。



「でも一発で成功するなんて……意外とあっけないね。」


「元々からある程度できるってわかっていたからなぁ。一発成功は出来過ぎな気もするが、このまま弾数などを突き詰めていけばなんとかなりそうだな。」


「そうはいきません。これには色々と問題があります」

「まず分かりやすい問題は、そもそも魔術師以外は術式を発動させにくいって点ですね。」


「どういうことだ?」


「私達は自然にやってるので分かりにくいんですが、一般的な剣士って魔力の扱いは強化魔術以外慣れていないんですよ」

「それなのに今の人造魔剣は剣を通して術式に魔力を通さないといけなく、売れるには売れるでしょうがあまり喜ばれないでしょうね。」


「確かに……盲点だった。」


「物理的に触れて使う……は、そのまま攻撃が自分に飛んでくるか。」


「更にいえばあくまで試作段階なのでこれ以上上がると思うんですが、威力の低さも問題ですね」

「恐らく短剣に付与するってことは護身用などのような、主力武器以外の扱いが主だとは思いますがそれにしても威力が足りない。」


「ちなみに喰らった本人としては、威力は現在どれぐらいなんだ?」


「強化魔術込みで驚いた。恐らく強化魔術無しでも軽い火傷ぐらいですね」

「祭りとかの余興や、相手を驚かせる時には使えるかもしれません。」


「火魔術で威力が無いってことは速度も無いわけだから、実用性は微妙そう……。」 

 生活魔術が無かったらライターとして売り出せたかもしれないのになぁ。

 

「となると剣全体に風水的に意味をあるようにして、術式を強化するとか?」


「それをやっているのが既存の人造魔剣なんですが……1から作る場合以外だと微妙ですね。」


「剣全体に術式を纏わすとか……。」


「それだと斬った拍子や、攻撃を受けた拍子に壊れてしまう。」


「柄と鍔全体にする感じならば今より威力を上げれそうですね」

「後、魔力を通すことで術が発動するのはいささか条件が緩すぎませんかね?」

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