強化期間
アルトが吐血した。
「え!?大丈夫ですか!」
一応即死はしないように心臓の辺りは避けたが、俺の攻撃で敵以外が傷付くというのは精神衛生上あまりよろしくない。
「治れ」
アルトが治癒魔術を使用して傷を治す。
「安心しろ。吐血程度ならばすぐに治せる。」
吐血って内臓が傷付いたり割とやばいことなんじゃなかったか……と思ったが、割と俺も吐血してるしそこまで重大な問題ではないか。
「しかし今の一撃はなんだ?鎧の上からの攻撃なのに、肉体にしか傷が無く鎧には一切傷が無い。」
「えーっとですね。これは柔拳という俺の考えた特殊な攻撃の仕方でして」
「要するに衝撃による攻撃を主として、衝撃と魔力を送り込むことで肉体へ攻撃するという技です。」
似たようなものはあるだろうが、この世界に柔拳があるかは分からないので自己流ということにしておく。
「そうか中々に面白い技だな。後で私にも教えてもらえないだろうか?」
「大丈夫ですがこれは片手が空いている前提のような技なので、私のような魔術剣士型以外だとあまり使えないと思います。」
実際剣を片手で持つか、そもそも持たない状態で放つ技なために純剣士型の人間には向かないだろう。
「それは良かった。私も魔術剣士と言われる戦闘方法なので習う意味はあるな。」
おっと。本気を出してない状態ですら実力差が分かるほどに強いというのに、まさか剣士が本職じゃないとな。
とても心が折れそう。
「ということがあったんだ。」
翌日、俺は魔術学校でアリシャとカノンに話していた。
「アリシャが滅多打ちにされるところ……見たかった……。」
おっと、どうやら俺の彼女が変な趣味に目覚めようとしているようだ。
「しかしアルトか。中々に良いところを選んだな。」
「そうなのか?」
「まあな。正直騎士団長って良くも悪くも性格が変わってる人が多いからな。」
「そんなこと言って大丈夫なのか?怒られたりしない?」
「まあ大丈夫だとは思うけど……リーシェは真似しないようにね。」
「一応解説しておくと、第一騎士団長のジェミニは自由な人間。自由過ぎて副団長が毎日困っているぐらいには自由な人間だ」
「第二騎士団長はその逆、超頭の固い人間だな。」
「そんな性格に難アリの人間を上に立たせて大丈夫なのか?」
「実力至上主義だからな。よっぽど性格が破綻していない限りは多少の問題程度ならば目をつぶるだろう」
「変なのが上に立った時には他の騎士団が対処可能なように、騎士団が3つあるわけだからな。」
「なるほど勉強になる。」
「利益にならないことも受けてくれたわけだし……性格に難があるわけでもないし繋がりが作れてよかったね。」
「コネってな。まああっちも建前があるわけだし下手に断ることはできないだろう。」
「ちなみにアルトにも性格的問題はある。」
「問題があったの?」
「半日ぐらい稽古をお願いしてたけど特に分からなかったな。抑えているとか?」
「まあ抑えてるし、極一部の人しか知らない秘密なんだけどな」
「アルトは美少女に目の無い同性愛者なんだ。」
「……マジですか。」
「まあ手を出さないだろうから大丈夫だろう。」
「というより……そういうのって人に言うのは良くないと思う。」
「もちろん俺も簡単に人に言ったりはしねぇけどもさ、一応は数少ない友人が大変な目に会うかもしれないのなら警告はしておくべきだろう。」
「言うて気を付けることなんて無くないか?別に不用意に体に触れるとかしないし。」
「いや……リーシェはどう考えても無防備。」
「うん。お前は自分が女という自覚が無い。」
「失礼な!淑女らしくとまでは行かなくても最低限それっぽくはしてるはずだぞ!」
「暑い時に胸元を空けて仰ぐのは良くないと思う……。」
「アルトには大丈夫だと思うが、男に対して距離感が近すぎる。お前のこと知らんやつは勘違いするぞ。」
「
「後女相手に恥ずかしがるのも逆効果だと思う。」
めちゃくちゃボコボコに言われる。
「あれ。もしかして俺ってそんなに隙だらけ?」
「戦闘以外だと割と無防備というか……自分の性別を理解していないというか。」
「もうちょっと自覚持て。」
「はい……」
「って、もしかしてアルトから第三騎士団に招待されたのってそれが完全にアイツの趣味かよ!」
「実力があって見た目が好みなら……誘わない理由は無い。」
「第三騎士団は女性の騎士団だけど、可愛い系の騎士はいないからなぁ。」
「実力を評価されたと思ってたからきつい……。」
「戦闘向けじゃないとはいえ、単体で上級悪魔と戦えてる時点で騎士団に入る実力は十分あるけどな。」
「あまり落ち込まないで……。」
「よし、新技を開発する。」
「いきなり話題が変わったな。」
「いやな。元々から1つ試したかった技があるんだ」
「ということでカノン。ちょっと後から俺の部屋に来い。」
「行くけど、別にアリシャで良くないか?」
「恐らく使うと動けなくなると思う。」
「私も強化魔術かけたら……リーシェを持てると思うけど。」
「確かに、男にお姫様抱っこされるよりアリシャにされる方が1000億倍良いな。」
「とりあえずその技も見たいし俺も行くか。」
「動けないリーシェに悪戯するつもり……?。」
「中身男に対してそんな気は一切起きないから安心しろ。」
~俺が泊まっている部屋にて~
「
術式を展開する。防音性能を初めとして部屋自体の性能を格段に上げる”個室”にだけ効果があるという微妙な魔術だ。
「じゃあ見せるが。これは割と酷い使い方ができる魔術だから、他言無用で頼む。」
息を吸う。かなり危険な魔術なので軽く手が震える。
イメージする。
全身から魔力を放出し、強化魔術以上の力を得る。
「魔力放出」
全身から魔力が放出されてゆく。
これが新たに生み出した技、柔拳の魔力の使い方を参考とした新たなる強化魔術。
一歩前に歩こうと、右足を前に出そうとする。
直後強化され過ぎた肉体に、放出される魔力によって強化された推力がコントロール不可の領域へと達し、そのまま壁に突っ込む。
しかし壁にはぶつからなかった。常に放出される魔力によって壁に衝突する直前に停止したのだ。
「これが魔力放出。名の通り魔力を放出させることで肉体を強化する上、放出された魔力によって通常ではできないような特殊な動きや防御が可能となる魔術だ。」
「しかし精密動作は苦手そうだな。一歩踏み出しただけで壁にぶつかりかけるわけだし。」
「でもかなり速度出てたのに壁にはぶつからないで止まった……となると遠距離攻撃を強引に躱すこととか汎用性が高そう……。」
「そうなんだ。上手い具合に使えればこの魔術は革命にもなるかもしれない、ってぐらいには可能性があるんだが……。」
「あるんだが?」
「もちろん短所もある。てか短所が酷すぎて使えない。」
「操作が難しくて事故死しちゃうとか?」
「それもあるが、一番の短所は別のだ」
「そろそろ危なさそうだし魔力放出を解くか。」
そう呟き、一番の問題を説明するために一旦魔力放出を解く。
直後世界が歪み、回る。
そして意識を失い俺は床に倒れた。
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