柔拳
剣術を学ぼう。
そう思ったのは王にあった翌日だ。
あくまで俺の剣は攻撃手段の1つに過ぎないが、実力があるに越したことはない。
今までのような自己鍛錬でも支障はないが、前世の知識と兄達の見様見真似では正直限度がある。
師匠とまでは行かなくても、ある程度具体的な目標を作ることは大事だ。
そんな訳で、学園長からアルトに稽古をつけて貰えるようにお願いした。
「騎士団に入団しないけど私に稽古をつけて欲しいか。中々に凄いことを言うな。」
「すみませんね。今はまだ騎士団に縛られたくは無いんですよ…もう少し成長したら入る可能性があります。」
実際問題、地位と名誉と言う点では騎士団に入るのもありだとは思う。
しかし俺の戦闘スタイルの本質は魔術師だ。故に剣士スタイルが基本の騎士団の中で上の役職に着くのは恐らく難しい。
「成長と言えば、アルトちゃんとリーシェちゃんは同じ年齢とは思えない成長違いねぇ。」
そう言うのは第三騎士団副団長、バララ・マッス。
女性ではあるが、高い身長に見てわかる筋肉の凄さが特徴だ。
「副団長。それはリーシェに対して失礼ではなかろうか。」
まあ俺の中身が女なら失礼だけど、生憎中身は男。
少しイラッとした程度でノーダメージだ。全く問題がないと断言しても差し支え無かろう。
「いえ、気にしていませんので大丈夫ですよ。」
第一成長したらそれはそれで強姦の対象になるしで嫌だしな…いや、この少女の肉体に興奮する人間も少なからずいるから駄目か。
気を取り直して訓練スタート。
今回の訓練は俺が切り込み、そこからアルトが攻撃に転じるからそれを俺が守ると言うものだ。
「せいや!」
鞘を傾け軽く剣を抜くことで、抜刀と同時に攻撃が可能となる。
左下から右上に向けた一閃。
しかしアルトはその一撃を剣で受け、そのまま上に流し俺の攻撃を無効化する。
直後アルトがこちらに切りかかってくる。
一撃一撃は上級悪魔の威力には程遠いが、回転率が高い上にそこそこ重い攻撃。
一撃は受けきれるも、そのまま滑らかに進む剣による連撃を受けきれない。
そのまま俺は一撃を貰い地面に倒れる。
お互いに強化魔術を剣自体にかけていないため、本来は当たっても痛い程度でダメージにはならない。
しかし肉体にかけた強化魔術を貫通し、鈍器によるダメージを与えてくる。
これが柔拳。
俺がヒューマノイドに対して使った流波掌同様に、装甲などを無視して内部にダメージを通せる技。
敵からの攻撃を受け流し、こちらの攻撃は防御を無視して与える技術。
ただし、俺のは魔力によって強引に再現しただけであり、本物の柔拳には程遠い。
故に俺はアルトに剣の師範をお願いしたのだ。
父のような剛の剣は俺には向かない。
アルトのような最低限の筋力でも戦えるような剣術が理想だ。
「まだまだ終わらないぞ!」
アルトの連撃。
攻撃を受け流すことが限度で、状況を良くすることなんて出来ない。
そして受けに徹していれば次第に限界が来るというもの。
ある程度凌げたが気の緩みか、又はアルトの策略かは不明だが腹に一撃を貰ってしまう。
「治れ」
1発で倒れた俺に対して、アルトが治癒魔術をかけてくれる。
普通の治癒魔術と違い、暖かい力が流れて治っていくのが分かる。
「え!なんなんですかこれ?」
「聖魔術だ。知らなかったのか?」
聖魔術。確かアルトが基本的に使う魔術だったか。
極稀に女性が適性を持つ魔術であり、人を傷を即座に治すことが可能な魔術らしい。
普通の治癒魔術と言うのは、あくまで回復速度を急速に上げるだけなので瀕死の重症とかには意味が無い。
しかし聖魔術は魔力によって傷を治すことが可能。
故に重宝され、聖女とまで言われるほどに強力な聖魔術使いはその者の為に戦争が起こってしまうほどに強力だ。
聖女は一国に1人しか認定されなく、アルトも強力な聖魔術使いではあるがそれ以上の使い手がいたために聖女では無いらしい。
この辺は二つ名や魔女(その国で1番強い魔術師)と同じで、敵国の牽制兼実力を示しに近い存在なのだろうな。
「そろそろ休憩を終わりにするか。」
アルトは地味にスパルタだ。回復してもらって少ししか経っていない。
とは言え、こちらとしてもスパルタなのはありがたい。
魔術の要領だ、できると思うことが大切。
イメージするのは水、何度も近くで見た流水のイメージだ。
流れによって攻撃を受け流す。
まずは何度も繰り出した左下からいの一閃。これをアルトは受け止める。
何度も間近で見た今ならわかる、アルトは一切力を使っていないというわけでは無い。
最低限の力を使い、強引に力を流れをコントロールしてその後流しているのだ。
俺の一撃を剣で受けるが、そのまま流れるように剣で絡め取られ弾かれる。
そして直後にくる連撃、しかし連撃をさせてはいけ無い。
連撃というのは反動が付く、故に加速して攻撃が続けば続くほどに威力が上がり速くなる。
俺の剣を絡め、流し、弾くことで両方ともが剣を上げた形となり、アルトはその後振り下ろすことで攻撃を始める。
それを俺は避ける。避け体勢を整える。
しかしそう甘くはない、体勢を整えるべく少し離れた瞬間にアルトが突きを放ってきた。
本来突きは避けるのが基本で、ましてや刀で弾くのは控えめにいってリスキー過ぎる。
しかし今までの戦いで集中力の高まった今ならできるかもしれないと、俺は刀身をアルトに対して向ける。
刀身で突きの攻撃を受ける。強化魔術を発動させることで、強烈なアルトの一撃も刀身で受けることが可能となる。
そしてそのまま左に攻撃を受け流し、アルトの突っ込んでくる速度を利用したカウンターを叩きこむ!。
「流波掌!」
完全に一撃が入ったのが鎧越しでも伝わる。
直後アルトの体が後ろの飛ぶ。
柔拳は威力以上に、攻撃対象が飛ぶので見た目ダメージが重そうなのが怖い。
「中々やるじゃないか。」
そういって飛ばされたアルトは着地する。
そして直後吐血する。
「え!?大丈夫ですか!」
やりすぎてしまったか!?。
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