第三騎士団団長


 騎士団。

 ハウンドには騎士と呼ばれる、兵隊と警察を足して割ったような職業が存在している。


 その中でも実力が高い人物は1から3まである騎士団と言われる、強力な部隊へと入団することが可能となる。

 そしてそのトップ。リーダーでもある騎士団長は国でも有数の強さを誇る存在。


 その存在が俺をお姫さま抱っこし、降ろしてくれた後に騎士団へと入団しないかと誘ってきたのだ。




「え?いきなり過ぎませんか?」

 流石にいきなりが過ぎるだろう。

 

 確かに潜伏していて人間に擬態できる上、恐らくは認識阻害系の能力もある上級悪魔を発見。人的被害は無しに抑えたのは我ながら割と凄いだろう。

 だからと言ってそもそも彼女、アルトからすれば上級悪魔の能力が分からないどころか、こいつが中級悪魔か上級悪魔からすら分からないはずだ。


「待ってほしい。そんな人を怪しむような眼で見ないでほしい。」

 どうやら怪しんでいるのがばれたらしい。まあ隠す気もなかったしな。



「とりあえずアルトさんは騎士団長なんですよね?そんな軽率に一般人に対して入団を促すようなことを言うのはどうかと思いますけども。」


「安心してくれ!今の私はただのアルト・プリュスタン。騎士団長とは縁もゆかりもないただの休日の女だ。」

 性を名乗らなければ貴族ではなく一般人。みたいなものなのだろうか。



「ではそこの美しお嬢さん。どうか私のことは気にせずお帰りください。」


「そうとはいかない。我が騎士団に欲しい人材を見つけてそう簡単に引けるものではない。」


「あなたはただのアルト・プリュスタンさんなんですよね?」


「そうだよ?第三騎士団にちょっと関係のあるアルト・プリュスタンだよ?」

 


 そんな終わりの無さそうな会話をしていると。アリシャとリリィが合流してきた。


「拘束していた三人はやってきた騎士さんたちに引き渡したよ……。」


「助けていただきありがとうございまっした☆」


「お二人は?」


「人質と、人質奪還を手伝ってもらった私の友人です。」

 アリシャには悪いが友人と言わせてもらう。


 見えないが、アリシャがふて腐れている気がする。

 いや仕方ないじゃん!同性愛(実際には違うが)をそうぽんぽんと言える状態とは思わないし。


「人質!?人質を取っていたのか!?」

 おいちょっと待て。


「え?アルトさんはどんな状況と思ったんですか?」


「なんか上級悪魔が暴れているとそこら中で噂になっていてな。非番だが何かあったら困ると駆け付けたんだ。」

 

「上級悪魔!リーシェ一人で倒したの?」


「いや、アルトさんが倒してくれた。」


「謙遜するな。弱っている状態のを私が止めを刺しただけだ。」

 しかしアリシャがどこかで聞いて流したみたいでも無さそうだし、どこから上級悪魔なんて言葉が出てきたんだ?


「実際に上級悪魔だったんですが、アリシャに伝える余裕もない状態だったのに何で分かったんですかね?」


「恐らくだが、誰かが噂を流したのだろうな」

「こういう場面では面白がってかは分からないが、嘘が流れることが多いし。」

 緊急時のデマみたいなものか。



「あの……間違ってたら申し訳ないんですが……。」

 するとリリィがいきなり、とても緊張したように言葉を発する。


「も……もしかして!第三騎士団団長のアルト・プリュスタンさんですか!」


「ああ、そうだ。」


「リーシェ!この騎士団長なの!?」


「ああ、自称騎士団長だ。」


「自称とは失礼な。歴とした騎士団長だよ。」


「す、すごい!私アルト様に憧れてたんです!」


「そうかそうか。そういわれると私も嬉しいよ。」


「あれ……なんか店と違くない?」


「残念だったなアリシャ……偶像だ、演技なんだよ……。」

 メイド喫茶みたいなものだと俺とカノンは理解してたが、どうやらアリシャは店のリリィが素だと思っていたようだ。


「そう……なのね……。」

 どうやらアリシャは俺が好きなことには変わりないが、同時に女性が好きになっているのかもしれない。

 といってもアイドルが好きな女性でも、同性愛者というわけでは無い人もいたし注意が必要か。



「ああ残念!この目でアルト様を見てみたかったのに!」

 リリィがとても悔しがっている。


 

 ・・・・・・ってあれ?


「目って見えるんですか?」


「ああ、私達みたいに目が見えない人のために疑似眼球の魔具があるんですよね。」

 疑似眼球とな。


「えーっとね。簡単に言うと魔力を流すことで一時的に魔具視点で周りを見ることができる魔具のことだね。」

 失明者にも優しいのは凄いな……ってより、それ戦闘で使えないか?。


「それくそ便利なやつじゃないか?」


「そんなことは無いのだ!魔具を発動させながら歩くと酔っちゃうし、リリィは魔力が人より少ないから普通の魔具だと少ししか効果が得られないのだ……。」

 いつものキャラにいつの間にか戻っている。


「そうなの……しかも値段がめちゃくちゃ高いし、魔力を流し続けないと効果が発揮しないから……日常生活で使えるほど便利な物じゃないのが現実……。」


「ワンちゃん待ち伏せの確認とかに使えな……いか。微妙か。」


「手を離した瞬間効果が無くなるから、安全確認とかで手で持って使う分には使えるかも」

「それでも魔力消費が凄いし、視点を次々と変えると酔っちゃうから難しいと思う。」



「白熱しているところ申し訳ないのだが、そろそろ離れないと面倒事が起きると思うので私はここで帰らせてもらうよ」

「魔導石はアリシャ、君が持って構わないよ。」

 そう言い残してアルトは帰っていった。


「今日はとても良い日だったのだ!」


「誘拐されて良かった日なんですか。」


「傷も無く帰れたからな!」


「中々に図太い精神をしているご様子で。」

 

 そんな軽い雑談をしつつ屋茶亭まで送り、アリシャと共に俺が泊まっている部屋へと帰宅した。

 戦ったことを騎士に話したが、後日軽く質問がある程度で罰則とかは特にない模様だ。





~翌日の朝~


「リーシェ大変です!」

 そういいながら学園長が俺の部屋に入ってくる。



「せめて静かに入ってもらえませんかね?」

 学園長の一言で起きた。


「おはようございます……。」 

 ついでにアリシャも起きたようだ。


「あ……これは失礼しました、少し席を外しますね。」

 全裸の俺らを見て、服を着る時間のためか部屋の外へと出ていってくれた。




「それで?一体何があったんですか?」

 服を着て、気を取り直して質問する。


「それよりリーシェ!あなた何やったんですか!」


「え?やらかしたことの心当たりが多すぎてどのことか分かりませんが。」


「学園長が何に対して驚いているかを言った方が、リーシェに伝わると思いますよ。」


「それは良い提案です優等生。」

 そういうと、学園長が魔力収納袋から一つの手紙のような物を取り出す。


「はいどうぞ。」

 そういわれて渡された手紙を読む。


「えーっと。上級悪魔討伐の功績をたたえ、国民栄誉賞を与える。指定の日に城に来てくださいとな」

「国民栄誉賞とは?」

 前世と同じ意味ではないだろう。それなら俺に与えられる意味ないしな。


「冒険者や一般人などが、何等かの凄い功績を上げた場合に貰えるって言う栄誉ある称号……。」


「あなたの両親もこれを貰って領主になる権利を貰っていますね。」


「おお!なんかそれは凄そう。」


「てことで何をやらかしたんですか?」


「何故やらかした前提なのか。」



 昨日あったことを学園長へと説明する。

 ってかクリームが呼びに行ったはずの学園長とはあわなかったし、もしかして単純に昨日の誘拐のことをしらないかもしれない?。



「なるほど。人への擬態能力に認識阻害効果持ちの上級悪魔ですか……それを見える範囲の被害無しで止めたのなら国民栄誉賞は確定でしょうね。」


「さっき言ってましたが、うちの親ももらってたんですよね?もしかして俺も新たに領主にならないといけなかったりしますか?」


「あくまで領主になれる権利を貰っただけなので、ならなくても問題は無いでしょう」

「まあぶっちゃけそこまでの報酬は貰えないと思いますがね。」


「正直貰っても困ったし良かったです。じゃあ金ですかね?」


「お金と騎士団への優先入団権利。後は土地を貰えるかもしれないと言った感じですね。」

 土地かぁ。ここの宿屋が気に入ってるし今すぐはいらないかな。

 税金とかめんどくさそうだし。



「そうなるとおめかしして行かないと……。」


「そうですね!折角なので高級店を回って最高の服装にしましょう!」

 そういってアリシャと学園長が一致団結する。


「ちょっと待て!別に最高の衣装じゃなくてもいいじゃないか!」

 そんな抵抗もむなしく、恋仲と莫大な支援をしてもらっている師匠相手故に全力で拒否することもできず、悲しいことに可愛らしい衣装で城へ行くことへなったのであった。

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