誘拐犯からの救出である!


 誘拐された。

 部屋の中でリリィはそう思った。

 私を脅迫したのは男四人。その全員が今同じ部屋にいる。



 そもそもなんだ?何で私を誘拐した?。

 私を誘拐した場合にどう利益があるかが分からない。


「全く……女性に対して雑な扱いじゃないかね。」

 縛られて床に放置されるとは、誘拐した癖に私の扱いが雑じゃないか?。



「そうでしょうかね?私としては割と待遇は悪くないと思っていますが。」


「そういうのならばもっとまともな待遇を求むな。」


「無茶を言わないでください、下手に緩くして逃げられては困りますから。」


「そりゃご丁寧にありがとうございます。ならもうちょっと私に敬意を払うべきではないかね?。」


「敬語を使っていますし、人質のあなたにとっては十分敬意を払っていると思いますけどね。」


「敬語なんか使わないで解放してくれればいいんだけどな。」


「無茶を言わないでください。そんなことをしたら私が上に殺されちゃいますよ。」


「というか何故私をさらった?」

 主犯格らしき男に聞く。

 店でもないし、こいつらならば演技の必要もないだろう。


「光の一族を殺すためです。」

 光の一族。上級貴族の一つであり、勇者の子孫でもあり、この国の最高戦力でもある一族だ。

 しかし光の一族は男しか力を発揮できなく、一人にしか効果を受け継げない。

  

 故にその子孫が子供の今に殺そうとしているのだろう。



「その意味を分かっているのか?」


「お前こそ自分の立場を分かっているのですか?」


「分かっているさ。私を傷つけることすらできない状態ってことをな!」

 縄で縛られていながらも強きに出る。

 私はいわば人質だ。下手に傷をつけることはできないだろう。



「ヒューマノイド!こいつ調子乗ってますよ!」

「そうですよ!見えるところに傷をつけなければ問題ないんじゃないですか?」

「最近女に縁が無いんですよ!犯しましょうぜ!」


 煽ると、ヒューマノイドと言われた男の取り巻きらしき奴らが反応した。ちょっと言い過ぎたかな……。

 


「命が惜しければ手を出すのはやめておけ。」

 そうヒューマノイドが止める。


「残念。面白そうだったのに。」

 そう強がって見せる。


「強がるのはやめておきな。手を出されて困るのはあなたでしょう」


「強がるのをやめて欲しければ私を攫った理由を教えろ。」


「我ら魔王様の仇ですよ。ヒーロ・キーダ……紀田緋射路でしたっけ。その子孫をこの手で殺してやりたい……そのためにあなたを利用するんですよ。」

 神聖魔王軍の魔王は、私が知っている限りでは死んでいないから古い方の魔王か。


 もちろん魔王自体の死が隠蔽されたり、そもそも報道されなかったりで情報を得られないから確定ではない。

 しかし紀田緋射路。初代勇者の名前を出したのならば古い魔王だろう。


 

「勝手な自分語りお疲れ様。私は特に興味ないから寝させてもらうよ。」

 さて困ったものだ。硬い床の上で寝ころびながら考える。

 ここで物語のように都合よく助けに来て、脱兎の如くこいつらを殺して私をたすけてくれる英雄がいないものか……。






「おじゃましまーす!」

 そうやって扉を蹴って開き部屋に入る。

 壁を蹴とばして入っても良いが、リリィが傷ついたら困るので普通に入ることにした。



 中には男が4人。そして床にリリィが縛られて転がっている。


「は?」

 俺が急に入ってきたことに男たちは動揺を隠せないようだ。おそらくは術式展開すら感じられない雑魚ばかりなのだろう。

 ・・・・・・いや1人だけ驚いていない。

 

 真ん中に座っている男。身長170無いぐらいの地味な男だが、こいつだけはこちらが来るのを予想していたようだ。



 直後男4人に矢が飛んでゆく。

 事前に後ろでアリシャに持ってもらっていた風矢投げてもらい、敵に向けて操作しているのだ。


 

「ほう……。」

 真ん中の男は避ける。しかし他の3人の雑魚たちはこちらに気が付く程度で反応できなく弓矢を喰らう。

 全員の右腕を狙ったのだが、操作性の悪さ込みで大体胴に刺さっているな……要注意だ。


「拘束土人形」

 直後アリシャの魔術が発動する。


岩の拘束ロックロック

 こちらも魔術を発動させる。


 アリシャがのたうち回る雑魚2人を。

 俺が強そうなやつと、アリシャの魔術発動対象外の雑魚1人に対して拘束魔術を発動させる。


「ほう。」 

 しかし強そうな男は俺の魔術を冷静に回避し、そのまま距離を取った。



「無理に動こうとすればそのまま殺す魔術だ!動くな!」

 ハッタリだ。ただの拘束技だ。

 術式展開感知すらできないのだ。魔術に詳しいわけもないし大丈夫だろう。



 問題はあの強そうな男だ。

 地味で特徴が無いが、あの反応から強いのは確定だろう。


「風よ!」

 腰につけている最後の弓矢に風の魔力を付与し投げる。

 

「くそが!」

 人質にするつもりなのか、リリィに手を伸ばしかけていたのを止める。


 そのまま全力で殴りにかかる。

 剣で斬りかかっても良いが、下手にここで暴れるとリリィが危ないだろう。



 全力が殴った一撃は右腕は止められた。 

 見た目筋肉質じゃないのにパワーはある系か!と思ったが、よく考えなくても俺もそんな感じだった。


術式暴発オーバーフロー・風弾!」

 暴走術式をやつに向けて発動する。

 直後やつは射線を切るように逃げた。


「アリシャ!油断せずリリィの保護を頼む!」

 後ろに防御術式を展開。

 それを蹴り反動をつけ、ライダーキックの要領で全力で強そうな男に蹴りかかる。


 壁を貫通し、そのまま大通りへと飛ばす。

 大通りに飛ばしたのは完全に誤算だったが、広く戦いやすいところだ。 



拡声器メガホン

 口の前に小さい術式を展開する。

 名の通り声を大きくするだけの魔術だ。


「皆さん!ここに危険人物がいます!速やかに大通りから離れてください!」

 大事になってしまうのは仕方がない。ここで下手に人を避難させずに傷つけてしまったりすれば最悪だ。


 何より大事にすれば騎士が駆けつけてくれる。もし相手の方が強い場合でも、時間を稼げば何とかなる。



「さあ、三級冒険者ことリーシェ・シャーレイが貴様を裁いてやろう!」

 剣を抜きかっこつけて宣言する。名乗っておけば時間稼ぎになるだろう。



「我が名はヒューマ・ノイド!貴様をここで殺して逃げ切ってみせよう!」

 なんだこの自信は。

 ここは魔術国家の中心部都市であるシュトロハイドだぞ?そう簡単に逃げれると思っているのか?。



 いや一つだけ可能性がある。殴った時の感触から似てるなとは思っていた。

 過去に戦った上級悪魔。リトルデビルと似ている感触。


 ヒューマ・ノイド……ようするにヒューマノイド。英語の名前だ。

 恐らくやつにはあるのだろう。変装なり逃走なり、又は瞬間移動なりに使える能力が。

 


 上級悪魔。

 見た目は完全にヒューマンなのだが。おそらくはやつの能力で変装している。


 


 しかし上級悪魔か。


「こりゃかなりやばいな……。」

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