誘拐されてしまったのである!
現在俺たちは魔術学校で授業を受けている。
「zyuctuは恐ろしい、畏怖の対象と言う意味を持っており主に破壊を重視した詠唱に使われます」
「しかし純粋に威力を重視する場合は破壊を意味するburkil。貫通力を重視する場合は鋭く美しいという意味を持つreashyeが使われ、そもそも恐ろしいという意味を入れる意味が薄いためにあまり使われていませんでした。」
詠唱術。文字通り口頭で魔術的な意味を持つ詠唱をすることによって魔術を発動さえるという魔術。
ちなみにアリシャや、たまーに俺の使っているルーティーン(この詠唱をすることで、この魔術を発動させる!と言う一種の流れを体に染み込ませること)とは違う。
主に魔術語と呼ばれる、勇者語の前にヒューマンが使っていた言語を使用した魔術だ。
詠唱は術の大きさ次第だがおおよそ2~5秒。
紋章術と違い脳のリソースを割かなくて済むが代わりに一度に1つの術しか発動できなく、紋章術の使い勝手の良さのせいでいまいち人気の無い魔術だ。
まあ子供ならまだしも、いい歳した大人が中二病全開の詠唱とかしにくいしな。
そんなわけで、一応詠唱魔術に使用される魔術語の勉強をしているのだが……正直別の言語を覚えるのは苦手なので辛い。
魔術語をある程度勉強していれば、詠唱魔術を使われたときに大まかにどのような攻撃が来るかが分かるらしいので……勉強しておかないとだめなのは分かっているために真面目には受けている。
要するに詠唱魔術ってのは、言葉によってイメージを固めるルーティーンの究極系のような魔術だ。
故に詠唱で大まかにどのような魔術が来るかが分かってしまう。故に衰退したのだろう。
授業が終わりいつもの3人+後輩のクリームで屋茶亭に向かっている。
「うげー!魔術語の発音難しすぎる!」
「そこは慣れだよ……私もあんまり得意じゃないけども。」
「とはいえ、魔術語全部を慣覚えるわけではなく一部の。戦闘の時によく使われる魔術語の単語を覚えればある程度は問題ないでしょうから。頑張ってください!」
そういって、リロンドの村で魔術を習っていたクリームがフォローをしてくれる。
「そういえばカノンは余裕そうだな。」
全く勉強のしていないカノンに尋ねる。ワンちゃん良い勉強法を知っているのかもしれない。
「俺の場合は元から親に叩き込まれてるからな。今更覚えて無くても済む。」
「わーお英才教育。」
そんな愚痴交じりの雑談をしていると、屋茶亭の看板が見えてくる。
しかし屋茶亭は開いて無かった。
「あれ?今日ってお休みの時間だっけ?」
すると中に人がいて、こちらに話かけられた。
「大変です!リリィが誘拐されたみたいなんです!」
・・・・・・は!?嘘だろ!?。
「誘拐って!誰に?何故!?」
「落ち着けリーシェ。こういうときに取り乱すのは駄目だ。」
「そう……店員さんも怯えてる。」
カノン、アリシャのクール組が抑えてくれる。
「そうですねすみません……それで誰に、何故されたかは分かりますか?」
「それが……先日。店を閉める直前ぐらいに数名の、リリィの知り合いのような方がやってきて外で話していたんですよ……」
「その後『もし私が明日の昼までに戻らなかったら、いつも来ている四人組の学生に助けを求めて』と言い残してその男たちとどこかに行ったんですよ。」
「なるほど……リリィが恨まれるようなことをしたとか心当たりはありますか?」
「ありませんが……人気者だったので誰かの嫉妬でしょうか……。」
「理由が分からない以上は断言するのはまだ早い。まずは今どこにいるかを考えなければ。」
カノンがそう指摘する。
「まずは騎士にシュトロハイドの外に出ていないか確認するべきじゃないかな……外に出るのには手持ち検査がある関係で、無理やり外に出すのは難しいと思う。」
「駄目だ。もし二つ名魔術師や、その魔術師の弟子だったりの有力者が攫っていたら検査無しで出れる。」
ここでもカノンが指摘する。こういう場面では非常にありがたい。
「じゃあ俺の探知魔術を使って探す!」
俺がアレンジした地球の魔術を元とした、二種の探知魔術。
アイテムの持ち主がどこにいるかが分かる方位感知探知術。
アイテムの持ち主が近くにいるか分かる範囲探知術。
「ということで探知するために、いつも使っていた服とか貸してください!」
「駄目です!シュトロハイドの中で魔術を使ったら騎士が来て捕まってしまいます!」
焦っていて頭から抜けていた常識をクリームが指摘する。
強化魔術程度の魔術なら問題は無いが、術式展開を使うような魔術ならば即騎士が来て捕まってしまう。
「緊急事態なら問題は無いだろう!この問題を言えば騎士も協力してくれるはずだ。」
「駄目だ。客観的に見るとリリィは”自分から消えた”だけで誘拐と断言できる要素は無い。」
「助けを求めてと言ってる時点で誘拐確定じゃないのか!?」
「助けを本人が求めたわけでは無く、今の俺たちはあくまで伝言で聞いただけだ」
「恐らくは駄目だろう……。」
魔術と言うのは便利なものだ。故に簡単に使用が許可されれば治安が悪くなる可能性がある。
故にシュトロハイドでは厳格な法が作られており、正当防衛時以外で許可のされていない魔術の使用は禁止されている。
誘拐犯を探すというのは解釈的にギリギリ正当防衛だろうが、今は誘拐犯から何も要求が来ていない以上は[リリィが失踪した]という判定になって魔術を使ってはいけない。
つまり終わりだ。俺たちは誘拐犯を探すことすらできない。
・・・・・・いや違う。一つだけ方法はある。
「俺が魔術を使って、騎士に秘密を話す。」
前世の記憶があり、更に地球の魔術の知識がある。
故に俺の知識を国に渡す代わりに特別な措置を取ってくれと言えば何とかなる可能性が高い。
しかしそうなった場合は俺の自由はかなり死ぬだろう。
最悪の場合は戦争に駆り出されて多くの人間を殺さなければならない。
ただそれだけだ。
自由が無くなっても魔術の探求はできるし、魔術関連のことを一切禁ずるなんてことも国はしないだろう。
人を殺す?とうに前世で何人も殺している。
ただ俺が今の心地よい生活を捨てれば。知っている人を。リリィを助けることができるかもしれない。
これは昔に助けることのできなかったエゴかもしれない。
「ということでリリィが良く身に着けていた何かを貸してください!」
「おい、リーシェ。一旦落ち着け。」
そういってカノンが俺を止める。
「なんだ!今やれる最善手はこれだろう!」
「違うから一旦落ち着け。」
「落ち着いた。どうぞ?」
「あんまり落ち着いているようには見えない……。」
「まずクリーム。お前は今から学園長室にいるはずの学園長を連れてきてくれ。」
「分かりました!」
するとクリームは魔術学園の方向に走ってゆき、数秒で見えなくなる。
「店員さんはリリィが良く見につけていた物を何か持ってきてくれ。悪用はしない。」
「分かりました!」
「そして俺は学園長と共に術式展開をしたことの説明をする。お前の改良魔術は学園長が独自に改良していた魔術と説明する」
「ということでリーシェとアリシャが追いかければ問題ない。誘拐とかするやつだら、戦力的にはそこまで無いだろうからお前ら2人で何とかなる。」
「持ってきました。リリィがいつも来ていた寝服です!」
すると店員さんが服を持ってきてくれ、俺に渡した。
「とりあえず説明終わったらお前たちに合流するから。」
「了解!ありがと知将カノン!」
「いってくる……」
もしシュトロハイドの外に出てたら不味い。と言う不安を持ちつつもらったパジャマを触媒にしてリリィの大まかな位置を探りながら走る。
「リーシェ……少し無理しても大丈夫だからね?」
そう、俺がおぶっているアリシャが速度の心配をしている。
アリシャが全力で走るより、俺がアリシャをおぶって全力で移動した方が早いのでこのような形となっている。
恐らくはアリシャに遠慮して全速力を出していないと思っているのだろうが。俺はアリシャの強さを分かっているので普通に全力で走っている。
ちなみに真っ直ぐ進むのではなく、左右に動きながら方向探知をしている。
そのために大まかな場所は分かった。
方向的には西部。所々に空き家のある人の少ない辺りだ。
恐らくは空き家の中でリリィを捕らえているのだろう。シュトロハイドの外に出ていなく一安心だ。
「というかカノンは大丈夫なのだろうか……?捕まってたら流石に申し訳ないんだが。」
「学園長もいるから……上級貴族だし何かあっても権力で握りつぶせると思う。」
「結局は権力か……」
そして探知魔術込みで、リリィが囚われているであろう家を発見した。
石作りで丈夫そうな1階建ての家だ。
「アリシャ、恐らくはあの家にいる。」
「じゃあ不意打ちを……する?」
「だめだ、ある程度魔術を知っているやつがいたらこっちが魔術を使ったのがばれている」
「不意打ちを警戒するって程ではないが、ある程度警戒はしているだろう。」
「じゃあどうしよう?ここから破壊するのは人質がいるから難しいし……。」
「なら正面突破だ!人質がいる以上は素早く突っ込んで倒す、殺すのが確実だからな!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます