この世界のパワーバランス


 この世界には様々な肩書の人間が存在している。

 

 冒険者。組合に依頼された仕事をこなしたり、ダンジョン攻略をする人物の総称。

 ランクは一から三まであり、極一部の規格外の人物には特級として特別扱いされる



 騎士。所謂兵隊&警察に近い存在。

 特に実力のある者は騎士団と言われる部隊に所属可能となり、そのトップである騎士団長は単体で上位悪魔を殺すことが条件となっている。



 魔術使い。魔術を使い敵を殺す。広範囲殲滅が可能であり、この国の代名詞ともいえる存在。

 その中でもずば抜けて強力な人物には”二つ名”の称号が与えらえる。



 悪魔。曰く別世界の住民。

 強力な肉体を持ち、中級悪魔ならば知能が、上位悪魔ならば知能+固有の能力を持っている。

 


 勇者。200年前に地球から召喚された日本人。そしてその子孫を光の一族と呼ぶ。



 光の一族>二つ名魔術師>騎士団長=特級冒険者>上級悪魔>魔術師=一級冒険者=騎士団員>中級悪魔>二級冒険者>下級悪魔>騎士>三級冒険者

 

 というのがこの世界の大まかな肩書に対する実力だ。

 もちろん肩書以上の実力がある場合もあるしで、あくまで大まかな目安。


 恐らく俺は魔術師より少し強い程度だと思うため、特級冒険者なんかは実力的には格上の相手となる。



 つまり、そんな格上の人間に対して俺は攻撃をしてしまったということだ。


「ちなみにサラーレさんを止めていた方、シュドラさんも特級冒険者だよ。」

 そんな格上相手に対して俺は啖呵を切ってしまったわけだ。


「やっちまったかぁ……もう冒険者業やれないかもしれない……。」


「大丈夫でしょ、あの二人はそんなことを気にするような人間じゃない。」


「そっかぁ、それは良かった。」

 さて、ここで1つの懸念材料が消えたためにもう1つのほうをどうにかすることにする。


「ちなみにアリシャさん?先ほどはお怒りになられたように見られたのですが実は勘違いだったりしますかね?」

 勘違いであってくれ。


「別に……アリシャに対しては怒っていない。」


「ああ、もしかして俺にサラーレが絡んできたのを見て嫉妬したな!」

 するとアリシャが顔を赤らめた。


「もしかして図星か?」


「違う……違うんだけど。」


「違うんだけど?」 


「違うんだけど、もっと酷いこと。言ったら嫌われるかもしれない。」


「大丈夫大丈夫。恋人を殺して内蔵で芸術品を作るようなことをしなければ、愛しのアリシャを嫌いになったりするわけない。」

 実際に前世でいたらしい、魔術師兼シリアルキラーだ。


「その……私に相談も無く冒険者になりに来たリーシェに対して……言葉にできない黒い気持ちが湧いた」

「その気持ちに対する自己嫌悪というか……自分に対する怒りがった。」

 つまりアリシャに相談しなく、勝手に行動した俺に対する拘束欲求があったという感じか。


「それは良かった……そんな欲求俺にもいくらでもあるさ」

「お互いにお互いを拘束し合えば、今以上に仲良くなれるさ……これからはお互い隠し事なしで一緒に異様な!」


「アリシャ……。」

 そんな勢いで半分ぐらいのプロポーズをしてしまったところで、冒険者組合の職員がこちらに話しかけてきた。


「熱々の所申し訳ないんですが、冒険者登録の試験をしますのでこちらに来てください。」




~数日後・屋茶亭にて~


「っと、いうことがあったんだ。」

 あの場所にいなかったカノンに対して俺が語る。


「冒険者組合って五月蠅いけど、割と民度高い印象あったのに何でお前はそんなことになるんだよ。」


「まああれに関してはサラーレさんが悪いから……。」


「そういえばカノンって冒険者登録してないんだっけ?今度しにいくか?」


「あー。言ってなかっただけで俺普通に冒険者だぞ。かなーり前から冒険者業はやってないけど。」


「まあ別に聞いてなかったしな。位は?」


「特級冒険者・・・・・・にはカノンの名前は無かったけど?」


「一級だな。だーれも仲間を組んでくれなくて一級に上がった辺りでやめた。」


「可哀相に。俺が一級になったらアリシャと一緒に冒険しような。」


「目の前でイチャイチャされても困るんだが。」


「流石に真面目な時には恋愛のことは持ち出さないから……安心していい」

「そういえばカノンって彼女作らないの?」


「駄目だアリシャ!その話題は奴に精神的攻撃となる!」


「なぜ?」

 何故にと言われても、これを本人の口以外から言ってよいものか。


「言っていいぞ。無駄に気を使われる方が困るし。」


「子供のころの初恋の相手に逃げられて、その相手が忘れられないだけだ。」


「言い方!」


「やあやあ少年少女諸君。一体何の話をしているのかなっ☆?」

 そうやっていきなり会話に入ってくるのはこの店の看板娘、リリィだ。



 赤色の長い髪を二つにまとめたツインテール。

 所謂ゴスロリと言われる服装に、腰に小さめの袋をつけていつも明るく人と撃ち溶けやすいというのが特徴だ。

 

 そしてどうやら先天性の病気によって目が見えないらしく、アイマスクのようなもので目を隠している。



「ああ。俺が昨日冒険者登録したんでそのことですね。」


「ああ!ついにリーシェも冒険者になったのかっ!」

「私も昔はダンジョンを攻略する毎日でねぇ~。あの頃は八つの刃を意のまま操り刃の二つ名で恐れられたものだ!」


「八本の刃って、指の間に挟んで戦ったんですか?」


「それって誰に恐れられたんですか?」

 突っ込んじゃいけなさそうな設定の荒にカノンと俺が突っ込みを入れる。



「ああ、味方だよ味方に!」


「味方を切り刻むという凶悪な冒険者だったのか。」


「なんと恐ろしいやつなんだ。」

 ちなみに彼女は正真正銘の15歳。ダンジョン攻略云々は嘘だろう。

 ただそれを嘘と言わずの乗っかり楽しむ、または荒にたいして突っ込む。

 それがここの店の暗黙のルールとなっている。



「リリィちゃーん!こっち酒が無くなったからお代わりちょうだい!」


「分かったのだ☆少々お待ちください。」

 そう別のテーブルに呼ばれてリリィが離れる。



「さて、そろそろ俺たちも帰るとするか。」

 そうやってお会計をすまし解散する。


「じゃあな2人とも。また明日魔術学校で。」

 

 そういって帰るカノンを、怪しい人物が追いかけていたことも。

 屋茶亭に黒いローブを着た危ない人間がいたことも。


 俺達はまだ知らなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る