冒険者になろう/3


「ハ!四六時中殺意を出すようなド三流と一緒にするな!一流は一般人に扮するんだよ!」

「あんたの経験が無いだけで人を雑魚扱いするなってんだ!」

 全力で反論する。反論というよりは半場挑発のようになっている。



「良い気迫ですね。」


「そりゃご丁寧にどうも!あんたに煽られたからだよ。」


「確かにそうですね。何で自分はそんなこと言ったのでしょう?」


「それはこっちの言葉なんだが?」


「申し訳ないです。どうもあなたが生意気で世間知らずの餓鬼に見えてしまたもので。」


「そっちの方が失礼だろ!」

 なんて失礼な人なんだ。


「ガラール!生きていたのか!!」

 そんな失礼な人間に対して、どう苦言を申し上げてやろうかと思っていたらいきなり左から衝撃が飛んできた。

 サレールというビ―ターが俺と娘を間違えて抱き着いてきたのだ。



「だーかーら!」

「俺はお前の娘じゃないって言ってんだろ!」

 流石に俺でも堪忍袋の緒が切れた。


 強化魔術をより強くし、加減をして腹パンをする。


「え!?」

 腹パンによって俺への拘束が解けた。

 ダメージにはあまりなっていないようだし、少し力を入れても問題は無いだろう。

 

「寝てろ!」

 腹に向かって全力で横蹴りを叩きこむ。


 2メートル少しある巨体が吹っ飛び、壁に激突する。


「やべ……ちょっとやりすぎたか。」

 一応は多少手加減したつもりだが煽られたことに若干イラついていたことに加え、2度も抱き着かれた上で邪魔をされた怒りで力を入れ過ぎたのかもしれない。



「す、すみませーん。生きてますかー?」

 酒場の視線が全てこっちに向く。そりゃ蹴り飛ばせば視線が向くわ。

 一時の怒りで少しやりすぎてしまったか……てかこれって冒険者になれないのかもしれない。


「いいいやですね、こここれはですね?」


「大丈夫です。サレールの馬鹿がやらかしただけです。」

 すると細身の男がフォローをしてくれた。


「しかし酔っているとはいえサレールを蹴とばすとは……これはなかなかに期待のできる新人ですね。」


「そりゃご丁寧にどうも。」


「ちなみに後ろのお嬢さんとは知り合いで?」


「後ろ?」

 そういいつつ後ろを見ると、そこには過去一番の作り笑顔をしているアリシャがいた。

 ・・・・・・これ多分キレてるやつだ。


「アリシャさん?いつからそこにいらしたの?」


「リーシェ?何してるの?」


「違うんです。言い訳をさせてください。」


「違うのに言い訳は必要あるの?」


「それは言葉の綾と言いますかなんと言いますか……。」


「うん。」


「……そこのおっさんに煽られた八つ当たり込みでやりました。悪いのはそこのおっさんです!」


「私に罪を擦り抜けるのはやめたまえ」


「シュドラさんは無意識に人を苛つかせるから……まあそれなら仕方ないか。」


「これは仕方のない犠牲だった。」



 流石にそのままで話すのは不味いので、細身の男ことシュドラさんといつの間にか復活していたサラーレに誘導されて壁際で話すこととなった。


「まずリーシェ。サレールさんを蹴り飛ばしたのはよくやった。あなた風に言うとグッジョブ。」


「それでよいのか……。」


「サレールさんの酒癖の悪さは皆知ってたから……ただ元は良い人だけに扱いが難しかったんだよね。」


「酒癖が悪いってのは言い訳にならないぞ。」


「まあ話を聞いて。サレールさんの一人娘のガラールは、父に憧れて冒険者になったの」

「けどガレールは3年前、首から下だけの姿で発見されたの。」


「殺されたって言ってたな。」


「そう。愛する一人娘だった上、冒険者ギルドでも人気だったから……当時はとても悲しかったし可哀相だった」

「だから少しぐらいは我慢しよう。ってことで他人に迷惑をかけないぐらいなら多少は我慢しようってことになったの。」


「そんな過去なのに蹴り飛ばされてグッジョブなのか……。」


「まあ3年経っているし、流石にもうそろそろいいかなって」

「私もサラーレには駆け出しのころにお世話になったんだけど、毎回間違えられる上にウザ絡みされるのは流石に困る。」

 リロンドの村の住人に比べると死を引きずっているが、前世の感覚で比べるとまだ軽い……この辺のギャップにはあまりなれないな。



「まあそんなわけで、こっちもあんまり強くは言えなかったの。」


「てか酒癖悪いのなら酒を飲ませるのをやめさせるなり、オッサンが自重しろよ。」


「お酒大好きな上にガレールが殺されことからお酒に逃げるようになったの……だからお酒をやめさせるのは可哀相だし酒癖が悪いことを教えるのも追い打ちをかけるのかなって。」



「中途半端なやさしさは逆に駄目だぞ。ああいうのはきっちり言った方がためになる。」

 実際にためになるかは知らんが、この騒ぎはあいつが原因ってことにしてるから。少しぐらい文句を言っても問題は無いだろう。


「まあそうだけど……特に冒険者は命に関すること以外だと全体的に情に深いから……意外と難しい物」

「だからこそ、今あなたがやってくれたおかげで踏ん切りがついたと思う。」


「そうか。じゃあ恩人の俺に感謝しないとな。」

 完全に結果論な気もするけど、俺は違うけど年頃の女の子に抱き着くようなやつだからな。

 蹴とばされて当然だ。多分。


「恩人ってほどじゃないとは思うけどね」

「そういえば、よくガレールさんのことを蹴とばせたね。」

 

「確かにな、手加減してたけどそこそこ力を入れた腹パンを軽く受けてたし。蹴とばしてもすぐにケロッと戻ってきてたしな。」


「むしろ酔ってたとはいえよく蹴とばせたなって感じ。」


「そんなに強いやつだったのか?」


「そりゃそうだよ。今の冒険者ギルドに三人しかいない特級冒険者だもん。」


「へー。特級冒険者か」

「特級冒険者って?」


「単独で上級悪魔を倒せるような、別格の強さを持つ特別な冒険者にだけ与えられる称号。」


「ああ、父さんたちと同じ階級か。」


 

 ・・・・・・あれ?そう考えるとあいつってかなりやばいやつだったんじゃないか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る